【フィル風】おませさん

両想いかつ既にお付き合いしている時空で「キスして欲しいのかと思った」ってさらりと唇を奪う女が好きなので、書きました。
🚀☄️編だけ別風味。
※アン風前提!この二人付き合ってません!!後半ジナ風少し食い込んでおります!!!






風子ちゃんは何も分かっちゃいない。
自分を助けてくれた、不幸の道を歩むしかなかった未来を変えてくれた人に対してどれだけ特別な感情を抱き寄せるのかをこれぽっちも分かっちゃいない。

切っ掛けは何時だって些細なこと。
もしかしたら、その前からだったかもしれない。でも、それはフィル本人にしか分からない。



風子ちゃんを探して組織内を歩き回っていた日のこと。私は偶然を装うため通信機を使わず探し回っていた。その甲斐あってか目当ての後ろ姿を見付けるなり自然と顔が綻ぶ。

──普段と違う行動は、いいスパイスになるっていうからね!

早速声を掛けるべく駆け寄ろうとしたけど、風子ちゃん以外の気配がして咄嗟に身を隠してしまった。
別にいつもだったら気にせず行くのに、何故かその時は行ってはいけない気がした。風子ちゃん達から見えぬよう顔だけ覗き見すれば、風子ちゃんが腰を屈めて誰かと話している。話している相手は──、フィル?

……じゃ、………こう……


「むぅ。ここからじゃよく聞こえない」

何か話し終わったって言ってもフィルは喋れないから、風子ちゃんが話し終わるなり彼の手を取って歩き出した。大きな瞳で風子ちゃんを見上げているフィルの表情は相変わらず凪いていて、その彼を見下ろしている風子ちゃんの表情は何処までも明るく柔らかい。
気付かれぬよう気配を消して二人を追えば休憩スペースに辿り着いた。コソコソと休憩スペースの入り口から中を覗き込み、ここに来た理由を確かめるべく凝視する。
風子ちゃんが備え付けのソファに座るなり、フィルの体を抱き上げ同じ方向を見るかたちで自分の膝の上に乗せた。
そして、風子ちゃんが何かガサゴソ取り出して彼の頭を撫ではじめた。
あれは櫛? フィルの頭を撫でているんじゃなくて髪を梳かしている?

「何となく髪の毛が跳ねている気がしなくもない……

新緑色の髪を梳かしている風子ちゃんの口元が動いている。それを聞きとろうと耳を澄ませば、今度は聞き取れるくらいの声が聞こえた。

「否定能力の関係上髪の毛にも気を遣っているから、いつも持ち歩いているんだよ」
………
「今回の任務も頑張ってくれてありがとうね」
………

「つまり任務帰りで髪の毛が乱れたフィルを見付けて風子ちゃんが整えてあげてるってこと?」

今度その手で私も風子ちゃんに髪の毛を梳いてもらおうっと。
それにしても風子ちゃんの膝の上に乗って髪を梳かしてもらっているフィルがちょっと羨ましい。子供相手にそんな気持ち抱くなんて子供っぽいけど、やっぱり羨ましい。ずるい。
新緑色の髪を梳かす櫛と風子ちゃんの手付きから伝わる優しい気持ち。慈しみに満ち伏せられた目。耳当たりの良くあたたかい声色。
それを一身に受けるフィルを半ばジト目で見ていたら、あの子ずっと前を向いているものだと思っていたのに澄み切った大きな瞳を風子ちゃんのいる後方を窺うように向けられている。
フィルは≪不感≫の否定者。だから、透明な瞳から感情は一切読み取れない感じない。そのはずなのに私の目には、はっきりと彼の希薄ながらも抱く気持ちが読み取れた。

「はいっ、終わったよ」

風子ちゃんの明るい声と一緒にフィルの髪を梳いていた櫛が離れる。
思わず見入ってしまうほどの笑顔。でも、それはきっと私だけじゃない、今それを振り返り見ようとしているフィルの目にも同じように映っているに違いない。
だって、もう私からじゃフィルの後頭部しか見えないけれど小さな手が櫛を持った風子ちゃんの手を掴んでいる。

「そっか」

ようやく分かった。どうして風子ちゃんとフィルの間に入っていかなかったのか。

「同じなんだ」

大事で大切な気持ち。それを邪魔したくなくて無意識に足が止まったんだ。
ある意味ライバル出現だけど、それをわざわざ間に入って邪魔するなんて野暮なことはしない。私の方が風子ちゃんとの付き合いは長いし、右腕で№2だし、そこは余裕を見せないと。

って思ってたのに──ッ。



「はああっ!? フィルが風子ちゃんにキスしたーーー!?」

今回の騒ぎの発端を聞いた瞬間、あたしは絶叫した。
抜け駆け許せないっ、そもそも宣戦布告も何もしていないけどっっ。でも、本腰を入れて行かねばならぬ状況には変わりない。焦っては駄目相手は子供と宥めていたのが仇になった。後悔は先に立たないと嘆いたところで始まらない。

「風子ちゃんは絶対に渡さない……!!」

無人島ひとつ消えた経緯を何んとなしに話したショーンは知らぬ間に私の前から姿を消していた。