【SS】ハロウィン・フィーバー

去年、四宮椿の誕生日に出そうと思って放置してたSSを発掘したので出します。完全に忘れてたよ…。



「先にって……どういうことかちゃ」俺は堪えきれず椿に問いかけた。椿はゆったりマドラーでコーヒーをかき混ぜながら答える。
「彼らには時間がなかった。遺伝子解析の結果、彼らは癌家系、即ち極端に癌を発症しやすい遺伝子を持つ遺伝性疾患の家系である事が判明した」
「遺伝子疾患に三人は罹っていた……癌を発症していたの?」
「ああ。いずれも膵臓癌のキャリアだった。膵臓癌は自覚症状が出る時には手遅れになっている事が多い。東医のカルテを見たが患者リストにはなかった。無症状のまま進行していたのだろう。……家族性の場合発症リスクは常人の三倍近いとされている。発症していても不思議なことはない」

俺は頭を巡らせる。膵臓癌のキャリアだった三人。締め殺された老人。高額医療費の補助制度があるとはいっても抗がん剤治療にはそれなりに金がかかる。所謂保険金殺人というやつなのか?

「咲良。お前、随分と今日はぼんやりだな」椿は呆れたように俺を見た。「私はこう言ったぞ。『先に死ぬ可能性が高かった三人が老人を殺した』とな」
「ジジイも膵臓癌患者やったんか」
「そうだ。解剖とCTの結果、脳に遠隔転移している事もわかった。だが老人は定期的な抗がん剤治療と放射線治療によって延命していた。無論高額医療の保険適用などで治療費は抑えられているが、どうもそれだけではなかったようだな。自由診療の範囲で高額な薬剤を使っていた……つまりそれをやれるだけの金銭的余裕があった」
「じゃあやっぱり保険金と財産目当ての殺人って事?」野々花は言う。「先に死んだのは老人の方よ。でも後に死んだ三人の手には、死んだはずの老人の歯形があった。咬傷があったのよ」
「動機はそれだろう。だがこの殺人の面白……いや、興味深い点は、お前がずっと指摘している“死人の歯形”だよ。これは入れ歯で無理矢理つけたんだ」
「入れ歯」

俺はバカみたいにその言葉を呟いた。入れ歯? いやますますわからん。なんだってそんな馬鹿な真似を。そんな事をして一体何になる? 老人は死んでいるというのに。

「三人が共謀し老人を殺したとは言ったが、三人を殺したのが誰かと言う点はもう一人しかいない。彼らの妹だ」椿はスマホを素早く操作してその写真を示した。「彼女は三人の兄に良い感情は持っていなかっただろう。何せこれ程レパートリーに富んだやり方で殺害に及んでいるのだからな」
「待った。何で三人を殺したのが妹だとわかるの」
「遺書の筆跡だ。見覚えがあったので調べてみたら以前東医に紹介状を出してきた、整形外科クリニックの医師クラークの筆跡と一致した。その病院の人員について調べたら三人と苗字が同じだったし、さらにデータベースに潜って顔写真を発掘し、それを死んだ三人と称号にかけたら99.998%血縁があるとLAP-LAS Systemが診断した」
「は、犯罪……!! 犯罪スレスレどころか犯罪……!!」野々花は絶句していた。椿は現役警察官の前で『違法にデータベースに侵入して情報を得ました』と白状してるわけで。
「まあこのようにして証拠や遺書の偽装で死人に罪をなすりつけようとしたわけだな。入れ歯なら口から抜けばいい。抜いて三人に歯形をつけた後口腔内に戻す。そうすれば証拠隠滅も簡単だ。この結果警察は歯形とDNAで苦しめられる。それだけではなく時系列の混乱と、真犯人がすでに不在だという事で手も足も出なかろう」
「真犯人の不在ってどういう意味かちゃ」俺は嫌な予感に思わず問いかけた。「まさか自殺……!」
「ああ、そうではない。この国にいないだろうという話だ。普通に考えて海外に逃げるだろう。今頃自分の懐に転がり込んだ遺産と兄弟の高額な保険金で顔姿を変え、逃げ仰ているだろうな」

椿はそう言って席を立ち、何やらジャック・オ・ランタンの形を模したケーキを買って戻ってきた。

「それでは野々花、明日にはいい報告を期待しているぞ。何と言っても今夜はハロウィンだからな」