番外編.B

一ページ目必読
※MHパロ


ガタン、ゴトン。
不定期な揺れでハッと目を覚ます。周囲を見れば、そこは馬車の上。自分の他にも、数名の人間が乗っているようである。またこの場にいる全員、狩人の装備に身を包んでいる。恐らくハンターなのだろうと、男カンジは思う。


「キミ、大丈夫か?」


ふと、横から女性の声がかけられる。見れば、青髪糸目のハンターがこちらを見ている。心配そうな声色とは裏腹に、楽しそうな笑顔が特徴的な女性だ。装備はカンジよりも間違いなく整っており、上位ハンターよ中でも優秀ということが伺える。
そうしてようやく、現状を把握する。今自分は、G級試験に向かう途中にいるのだ。先日は緊張から眠れず、ここでうたた寝していたらしい。少し恥ずかしくなりつつ、女性の言葉に対する返答を行う。


「すんません、大丈夫です。緊張して寝れとらんくて

「む、それは大変だな。着いたら起こすから、今のうちに眠るといい!」


パッと人を安心させるような笑みを浮かべ、女性はカンジの肩を軽く叩く。純粋な善意を無下にするわけにもいかず、カンジは「ありがとうございます」と一言告げてまた微睡みに身を任せようとする。

ドカンッッ!! ガガガッ!!
突然、馬車が縦に揺れる。かと思えば、大きく曲がり横転しかけてしまう。


「うわっ!」「!?」「なんだ!?」


衝撃で目覚めたカンジの横から、女性が自身の得物太刀を片手に飛び出して行く。それに倣って、他のハンターも慌てて武器を持ち外へ出る。カンジも一瞬呆けるが、自身のハンマーを担ぎ追いかける。

馬車を降りた先に居たのは、興奮した様子のドスファンゴである。ここは森と深い川に繋がる崖に挟まれており、一番に飛び出した女性はドスファンゴを崖に追い込もうとしているようだ。


「他にモンスターが来ないとも限らない! そちらの弓使いと大剣使いは周囲を警戒、そこのハンマー使いは私と共にドスファンゴを迎撃するぞ!」

「り、了解しました!」


指示された弓使いと大剣使いは、言われた通り周囲の警戒に当たる。カンジも武器を構え、ドスファンゴとの距離を詰めようとする。そして、違和感に気が付く。ドスファンゴの様子が、興奮しているにしてもおかしい気がする。しかしそれの明確化ができない。女性に伝えるべきか、瞬間的に悩む。


その直後、ドスファンゴを超える咆哮が響き渡った。

地面を揺らしながら、何か巨大なモノが近付いてくる。警戒していた二人がそちらに武器を構え、女性も一旦ドスファンゴから距離をとったようだ。思考を中断されたカンジは、咄嗟に次の行動が取れない。ドスファンゴの動きは止まり、怯えたように唸り声を漏らす。


森側から飛び出したそれは、赤の線を身体に纏ったモンスター。ズシンと馬車を潰すように降り立ったソイツは、涎をダラダラと垂らしながらこちらを睨む。記憶に無いが知識にはある、そのモンスターの名は


「────イビルジョー」


女性がポツリと呟いた瞬間、弓使いがイビルジョーに立ち向かう。矢を取ろうと、背後に手を伸ばす。だがしかし、その矢が放たれることは無かった。それより先に、イビルジョーが駆け出したのだ。敵意を察したのだろう、真っ直ぐ弓兵に向かい、勢いをそのままに、貪りついた。断末魔をあげることもできず、弓使いのハンターは上半身を失う。残った下半身からは鮮血が吹き出し、骨と肉が飛び出したまま倒れる。


「ヒ、ッ」


すぐ隣りにいた大剣使いは、逃げようと背を向ける。その隙を逃さず、イビルジョーはその脚で大剣使いを踏み潰す。肉の潰れる音と骨の砕ける音が鳴ると同時、大剣使いの絶叫が一帯に響き渡る。それを煩わしいと言うように、イビルジョーは一度足を上げ、そして大剣使いの頭を粉砕した。


「あ、あぁ」


ドスファンゴは既に、イビルジョーから逃げるように駆け出していた。カンジはハンマーから手を離してこそいないが、足は動かない。目の前の惨状を現実だと思えず、イビルジョーを見つめることが唯一できることである。
イビルジョーの眼が、カンジを捉える。本能が頭が割れそうなほどに警告を鳴らし、諦めの選択肢を提示する。圧倒的な恐怖と、抗えない暴力。カンジの手からハンマーがすり抜ける。


その直前。
ズドン。カンジの脇腹を、勢いよく固い何かが薙ぎ払う。呆然としていたカンジは当然不意を突かれ、呼吸を一瞬失う。そのまま宙に投げ出され、崖から落ちていく。ハンマーが先に川に落ちた音がしたのをキッカケに、カンジは何が起きたのかを理解した。

女性の振るった太刀の峰が、自分を崖から突き落としたのだと。

青髪を靡かせた女性の、赤が浮かぶ青い瞳がカンジを見ている。ずっと変わらない笑顔で、背後のイビルジョーには目もくれず。絶望が牙を剥く、女性の胴体が歪な歯に挟まれる。それでも女性は笑顔のまま、落下するカンジに言葉を投げた。




「生きたまえよ、少年!!」




水面とぶつかる音と同時に、一つの命が喰い破られた。