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いまち
2021-12-18 11:43:16
5565文字
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人魚と、靴と
かきなおし
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2
今日はデュースくんと魔法史の補習だ。教室が空くまで一緒に中庭で待っていると、部活に行く途中だというエースくんが通りがかってそれはもういじわるな事を言ってくれた。でも、こういうのはエースくんの挨拶みたいなもので、言ってしまえばいつものことだ。
……
そのはずなんだけど、デュースくんは売り言葉に買い言葉で、あっという間に言い争いになってしまった。言い争いっていっても、エースくんがからかって、デュースくんがそれに乗っかちゃうっていう、じゃれ合いなんだけど。
ケンカするほど仲がいいってこういうことなのかなぁ、とか、エースくん部活に行かなくていいのかなぁ、とか思いながら二人のやりとりを眺めていると、奥の廊下でフロイドさんが茶色い箱を小脇に抱えてうろついているのが見えた。いつもはフラフラしているのに、今日はなんだかきょろきょろしている。
「あれ? フロイドさんだ」
何気なく口にすると、二人は言い争いを止め「げっ」と廊下へ目を向けた。そしてフロイドさんの姿を見とめると、生垣に隠れるようにそっと身を竦ませた。二人とも、オクタヴィネルでひどい目に遭ったって話を聞いたから、そのせいなのかな? 正直、屈むくらいじゃ隠れきれないと思うけど。
「お前がサボってるから探しに来たんじゃないか?」
「はぁ!? あの人はそういうことするタイプじゃねーし!」
「でも誰か探してるみたいだよ?」
「さっさと行った方がいいんじゃないか?」
さっきとは打って変わってエースくんを小突き出すデュースくん。意地の悪い顔をするのはいいんだけど、隠れながら小声でやりとりしているものだから、ちょっぴり面白い。
(エースくんを探してる、ねぇ)
運動着であればともかく、今フロイドさんが着ているのは制服だ、デュースくんの言うように、部活のことでエースくんを探してる
……
とはちょっと思いづらい。けど、何かを探しているのはきょろきょろしてる様子から明らかだ。そしてそれが何なのか、ちょっと気になる。主に身の安全のために。
そのまま見ていたらフロイドさんと目が合った。一見優しそうなたれ目だけど、決して穏やかとは言えない眼光になんだかイヤな予感がする。案の定というか、フロイドさんは一直線にこちらに向かってきた。そう、一直線だ。中庭に植わってる花や垣根を飛び越えてこっちに向かってくる。なんというか、得体が知れないっていうのかな? 怖い。
そんなフロイドさんの様に、二人はいよいよ怯えの色が濃くなった。私はフロイドさんとはあまりお話ししたことはないし、用があるとしたら二人だろう。だから、せいぜいヘンなことだったら巻き込まれたくないなぁ、なんて思いながらフロイドさんから目をそらした。
なのに、勢いよく駆け寄ってきたフロイドさんが足を止めたのは、私の真ん前だった。
「メダカちゃんやっと見つけたぁ」
「
……
えぅ?」
フロイドさんはそれはもう楽しそうににっこり笑いながら「はい、どーぞっ」と、持っていた箱を私によこしてきた。びっくりしたのと、意味が分からないのとで困った。今日は私の誕生日じゃないし、お祝いされる覚えもない。それに、私は寮の人たちから「オクタヴィネルに近付くな」と言われている。フロイドさんはオクタヴィネルの人だし、言うことを聞くとなると、この箱は受け取らない方がよさそう。
「ちょっ、フロイド先輩? どうしたんすか?」
エースくんが焦ったように口を挟んでくる。でも、フロイドさんは箱を突き出してにこにこしたままだ。
「あ、あの」
「メダカちゃんさ、さっさと受け取れよ」
「え? はい
……
」
さっきまでにこにこしていたと思いきや、今はじーっと睨んできて
……
と今日もフロイドさんの機嫌はめまぐるしい。そんな圧に負けて箱を受け取ると、隣から「あちゃー」なんて声が聞こえてくる。そう言うくらいなら助けてくれてもよかったんじゃないかなぁ。なんとなく二人に裏切られたような気がして、ちょっぴり悲しくなった。
箱の中身がなんだか分からないし、あとで変な言いがかりとかつけらたらどうしようという気持ちはあるけれど、受け取らないでフロイドさんの機嫌が悪くなるのも避けたかった。
「えっと
……
」
受け取った箱は重くも軽くもない、普通の荷物って感じ。中身は詰まってる感じじゃないかも? ただ、箱自体はしっかりした紙でできていて、蓋には金色で屋号が刻まれていて、なんとなく高そうな感じがする。二人も不思議そうに箱とフロイドさんを見比べていた。受け取ったはいいけれど、どうすればいいんだろう。オロオロしているとフロイドさんがまた威圧的に「開けて」を顎をしゃくった。
「はい
……
」
言われるまま蓋を開けると、箱の中には緩衝材らしい紙に包れた、女の子ものの真新しい靴が一組入っていた。ディアソムニアらしいライムグリーンの、寮のブーツよりちょっと踵の高い、パンプスって言うんだっけ? キャンディのようにつるんとした靴だ。すごくかわいい。
「えと、カワイイ靴、ですね?」
「でしょー?」
「はい
……
」
また機嫌が一転、すごく嬉しそうにニコニコするフロイドさん。うん、何がしたいんだろ。エースくんは難しい顔で箱の蓋を眺めているし、デュースくんはずっと固まったままだ。とってもかわいい靴だけど、どうしろっていうんだろ? 困っていると、フロイドさんはつまらなさそうに唇を尖らせた。
「
……
そんだけ?」
「えっと、はい」
「えー? せっかくメダカちゃんのために買ったのにさー、それだけってなくね?」
「え? うえぇ!?」
女の子ものだし、明らかにフロイドさんの足に合うサイズではないから、そんな気はしなくもなかったけど、いかんせん買ってもらう理由がなくて驚いてしまった。やっぱり、フロイドさんの考えていることはわからなくて、ちょっと怖い。
「えと、なんで、ですか?」
「ん-? なんとなく? あ、ちげーな。メダカちゃんさぁ、靴それしか持ってないんでしょ? なんかカワイソーって思ったんだよねぇ」
「えぇ
……
」
フロイドさんの言うとおり、私が持っている靴は元の世界から履いてきたものと、学園に入ってから支給され靴だけだ。今履いているのもママに作ってもらった靴だから、元の世界に帰るまで壊したくない、そういう意味では靴を貰えるのはとてもありがたくはある。だからといって、よく知らない人からもらう理由にはならないんだけど。
「あのー、フロイド先輩? オレの記憶違いじゃなかったらこのブランドってすっげー高かったと思うんすけど」
「さっすがカニちゃん、よく分かってんじゃん」
「へへ、前に兄貴がここの靴買ったってすげー自慢されたんですよね。でもこのブランド、メンズだけだったと思うんすけど」
「そうそう。この前さぁ『レディース取り扱い始めましたぁ』ってダイレックトメールが来てさぁ、『は? オレ雄だし』って思ったんだけど、メダカちゃんの事思い出して注文しちゃったんだよねぇ。オレの給料のぉ、三か月分!」
「ぴえっ!? そそそ、そんなの受け取れません!!」
たしかモストロ・ラウンジのお給料って結構よかったよね? それの三か月分っておいくら万マドルなのか想像がつかない。そんな高い物を貰うなんて、いくらなんでも怖すぎるから箱をフロイドさんに付き返す。お行儀はよくないけど、家族でもない人からそんな高いものはもらえない。すると、案の定というかフロイドさんは不機嫌そうに顔をしかめた。
「は? オレの厚意が受け取れねーっての?」
「そういうんじゃなくて、そんな高い物いただけません!」
思い切って言うとフロイドさんはゲラゲラと笑い出した。本当になんなんだ、この人は。
「メダカちゃんほんとおもしれー。さすがにそこまで高くねーよ、安くもねーけどさぁ」
「えぅ
……
?」
「つかそれ、メダカちゃんの足に合わせたオーダーメイドだから返品できねーし。返されても困んだけど」
「え? え?」
オーダーメイドってサイズとか注文して作るやつのことだよね? 私の足に合わせてってどういうこと? 足のサイズなんて測った覚えはないのに。
「で、でも私フロイドさんに靴のサイズとか教えてないですよ!」
「それはぁ、企業ヒミツってことで。そんなことより、ちゃんと履けよ?」
「で、でも
……
」
「『でも』はなーし。じゃあさ、代わりっつったらなんだけど、今度メダカちゃんの錬金術見せてよ」
「錬金術、ですか?」
聞き返すとフロイドさんは「そー」とやたら無邪気な顔で笑った。私の錬金術ってことはマナ調合を見せればいいんだろうか。妖精さんにイタズラとかしなければ、別にいいんだけど、それで対価になるとは思えない。やっぱりフロイドさんはよく分からない人だ。
「メダカちゃんの錬金術って、すげーらしいじゃん? オレ、見てみたかったんだよねぇ」
「えと、わかりました。あの、靴ありがとうございます」
「やった。楽しみにしてんね。ヤクソクだかんな?」
言いたいだけ言ってフロイドさんは「ばいばーい」と手を振りながらスキップで去って行った。
……
今度はお花を踏んづけて。残された私たちは何も言えないままその後ろ姿を見送った。
もらったはいいけど、この靴はどうしよう。かわいいけれど、高い靴と聞くと履くのがもったいなく思えてしまう。見ているとエースくんが「せっかくだし履いてみたら?」と言うので恐る恐る履き替えてみる。私の足に合わせて作ったのだから、当然ぴったりだった。
(足のサイズ、測ったことないんだけど)
疑問に思いながら歩いてみると、いい中敷きが入ってるんだろう、ずっと履いていた靴のように足になじんで、とても履き心地がいい。
「ぴったり、かも」
「そーね。似合ってんじゃん」
「なんでぴったりなんだろ?」
「
……
まー、フロイド先輩だし?」
「答えになってないよぅ
……
」
「だってフロイド先輩だし
……
」
なんとなく、変な空気になったところで補習の時間になった、放心したままのデュースくんの腕を引いて教室に向かった。新しい靴は嬉しい、けれど本当に貰っちゃってよかったのかなぁ、なんて思いながら。
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