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望月 鏡翠
2024-01-14 23:40:56
8237文字
Public
世界観共有
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後ろの正面は誰
ブツメツフツマ/正瞬押下
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2
七億年スイッチと名付けられたボタンは、押さなければ巻き込まれることはない。危険から身を遠ざけるのは難しくないはずだ。
そんな平の考えは楽観的すぎたらしい。困っている祓魔師と情報交換するうちに今回の被害の大きさが見えてきた。
ボタンを押してしまった人間は、平と日月が情報収集しに出たときよりも増えていた。不審なボタンをあえて押す人間がいるのかと思ったが、ボタンが普通のスイッチと間違えるようなわかりにくい場所にあることも多いらしい。そういう場合、祓うべき敵を見つけられず、対処が遅れているらしい。
部屋に入った特待生が中でドッ祓いに成功して戻ってきて、情報共有と一般人の救出は進んでいる。だが同時に、情報漏洩も増えていた。
七億不思議という言葉を一般人の口から聞く。そして一般生徒に問い詰められる非常勤講師や特待生の姿を見た。
命に関わる事柄なのに知らされていないのは、理不尽や疎外感、それに隠蔽していた側に対する不信感を起こすのだろう。
ボタンを見つけた場所を校内マップに書き加え、一度日月と合流した。
「うっかりボタン押してないよな」
「倒れてないだろ。そっちは大丈夫そう?」
「問題ない」
親指を立てる。
相性はいいが霊力は使う。連続してドッ祓いを続けたことによる疲労は溜まっているようだ。
「少し休む?」
「いや、今回のやつは逃げないし攻撃もしてこないから、まだいける」
「無理はしないんだよな?」
日月は面映そうにひらひらと手を振った。
「マジで、まだいける。必殺技一回分くらいの余力は常に残しておく」
「ならいいけど」
七億年スイッチの出現場所を共有しようとしたところで、日月のスマホにメッセージが届く。画面上部に表示されたバナーに表示されている名前は、エリー党所属の先輩ゾンネのものだ。
二人の無事を確認するもので、同じメッセージが平のところにも届いた。
彼もまた学園内で、ドッ祓いのために奔走しているらしい。二人を心配する旨の連絡にそのまま返信をするつもりだったが、日月が肩を叩く。指差した先に、連絡をしてきた本人の姿を見つけた。
渡り廊下をスマホを手にして覚束ない足取りで進んでいく。
ゾンネ・ソマーは目を閉じて白杖をつきながら生活している。視力がないわけではないが、その強い祓いの力の影響らしい。その制約は徹底しておりスマホをみるときも、戦いの最中にあっても容易に開くことはない。
顔を見合わせ、二人でゾンネに近づいた。
文面で返すより、直接声をかけた方がわかりやすいだろう。
「ゾンネ先輩」
声を掛け、驚いて足が止まった。血の匂いで言葉につまり、なんと声をかけたらいいのかわからなくなる。
ふらついたまま顔を上げたゾンネの顔は、鼻血が唇まで流れて汚れている。
血がついた手で汗を拭ったようで、頬や額も乾いた血で茶色く汚れている。
掛ける言葉が見つからない。手を彷徨わせていると、ゾンネの方から触れてきた。
日月と平の場所を確かめるように伸ばした手が、中途半端に伸びていた手に触れる。
「二人とも、無事か? 怪我は?」
声だけでなくもっとしっかりと確かめようと、ゾンネの手が二人の顔に触れている。指が触れる前に日月がそっと眼鏡を外し、無事を確かめられたあとに掛け直した。
「怪我は特には。それよりも先輩の方が
……
疲れて見えます」
今回の七億不思議が攻撃してくるという話は、聞いていない。ならば別の七億不思議に襲われたのか、それとも能力の代償だろうか。
能力の性質は人それぞれだ。日月の祓いはわかりやすいが、連続して使い過ぎれば相応に疲れるし、肩も故障する。ゾンネもそれと似たようなものだろうか。
「俺は大丈夫だ。二人は、中に入ったのか?」
大丈夫ではなさそうだったが、一応は飲み込む。
「スイッチですよね。日月は中で祓いをしてます」
「ヘーキンは外で情報収集。スイッチの場所とか、周りのことを聞いて回ってもらってます」
スイッチの場所はゾンネと共有した。メモだから外で見ることは難しいだろうが、全く役にたたない訳ではないだろう。彼は目を開かないで生活しているから、スイッチの場所がわからない。きっと校内で祓いをするのに、混乱しているだろう。
「エリー党の様子はどうですか?」
「前ほどの混乱はない。各自祓いに当たっている。俺も、行かないと。二人とも無茶はするなよ」
ふらふらとそのままどこかに行こうとする。日月がそっと肩に手を置いて止めた。
「あの、その前に保健室とか、少し休んだ方が」
「俺は大丈夫だ。一緒にいてやりたいが
……
すまない。いかないと」
止めがたい気迫に押されて、それ以上の言葉が出てこない。立ち去ったあと日月と目を見合わせた。
「先輩、目で祓えるんだよね。今回のと相性いいんじゃなかったのかな」
ゾンネの瞳は、七億不思議を焼き尽くす力だ。七億不思議だけじゃなく、人までも焼くから目を閉じて生活している。日照りの力が曇るときのことなど、平には想像ができなかった。
「そんなに、都合よく使える力じゃないだろ」
返す日月の言葉は暗い。
「追いかけた方が、良かったかな」
「今見つけてるスイッチを片付けたら、また連絡しよう」
足手纏いかもしれないが、一人になるよりはきっといいはずだ。
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