【フィル風】同じ味

現ループの🚀☄️で大好きな人と美味しさを共有したい🚀くんなお話。


ありきたりな言葉は時にとんでもないものを引っ張ってくる。

ニコに用事があった風子は彼が居るであろう部屋に向かい歩を進めていた。行きなれた道のりは意識しなくとも勝手に体を目的地まで運んでくれる。だから、ちょっとだけ思案に耽りつつ歩いて角を曲がったその時だった。
反射的に踏み止まり衝突を免れた風子の視界に角向こうから来ていた小柄な人影を捉える。
「っと、ごめんねフィルくん」
首を横に振り大丈夫と意思表示するフィルに風子が胸を撫で下ろした。
しかし、こんな場所で彼と出くわすなんて珍しいという疑問は手のひらに降り立った雪の結晶のように溶け消えていった。
「もしかして、ニコさんのところに行ってた?」
フィルはその体ゆえニコのところで定期的にメンテナンスを行う。そして、そのメンテナンス帰りのフィルにニコのメンテナンスルームからほど近い場所で出会えたということは彼はまだメンテナンスルームにいるだろう。
ひとまず入れ違いにはならなそうだ。無言で頷いてくれたフィルを見て、風子が再びニコのもとへ行こうとした時、彼の口元から棒らしきものが飛び出ている事に気が付いた。
「それどうしたの?」
風子が問う。すると、フィルは細い棒を持っていない方の手でニコのメンテナンスルームを指差した。

──なるほど、ニコさんがフィルくんにロリポップをあげたんだ

フィルの頭を撫でながらロリポップを渡すニコの姿が難なく目に浮かぶ。
だから次に続く言葉は風子にとってありふれたものであり、別段深い意味も何もなかった。
「何味舐めてるの?」
子供が描いている絵の事を尋ねるが如く柔らかな声色で風子がフィルに聞けば、彼はサスペンダーが付けられたズボンのポケットに手を入れ、ロリポップが包まれていた包装フィルムを見やすいように広げ彼女の前に出した。色鮮やかでポップなデザイン、滑らかな書体で書かれた文字から風子の口の中に想像の味が広がる。
「おいしそう!」
純粋に何の他意もない風子の言葉。綺麗なものを見た時に「綺麗だね」と言うように言葉の裏側には何もない。
だが、フィルは別の意味で捉えたようだ。若草色の澄んだ瞳が柔和に笑う風子を見上げ続け、不意に視線を前に戻したかと思いきや、固い何かを噛み砕く音が廊下に小さく響く。
その音の出所は風子自身も分かっており、それが今まさに自分に向かって差し出されていた。
恐らく球体であったであろう潤いを帯びた飴が照明の光を受け煌めき、綺麗に縦に割れた半月が器用に落ちず棒にくっ付いていた。
……えーっと」
風子が放った先の言葉に一切の他意は無い。つまり物欲しそうに見ていたわけでも、実際欲しいという意味で言ったわけでもない。
だが、ロリポップを半分こにして渡そうとしているフィルが今此処にいる。
風子が何も言わないからか、「自分の分はちゃんとあるよ」と言わんばかりにフィルは歯で半分になったロリポップを挟み彼女に見せた。
少しばかり困った風子の表情にフィルが首を傾げ、虚空を見遣ったあと彼女に向かって手招きをした。何の疑いすら抱かず、腰を屈め顔を近づける風子の口元目掛けてフィルは自分が持っていたロリポップを突っ込んだ。
「~~~ッ!?」
まさかの出来事に風子が目を白黒させるも不幸中幸いか咽はしなかった。困惑する頭で目の前にいるフィルを見れば、ロリポップの片割れを舐め転がしているのか頬がぷっくり膨らんでいる。
流石にもう口に入ってしまったので吐き出すわけにもいかない。風子は口の中に押し込められたロリポップを舐めた。舌先に広がる味は想像していたものとは違うが美味しいには変わりなかった。口元から飛び出ている棒を掴んで一旦ロリポップを口から出した。
「これ、おいしいね!」
思わず笑ってしまうくらいの甘さ。風子が「ありがとうね」と言いフィルの頭をそっと撫でれば表情のない彼の顔が少しだけ笑ったように見えた。






「ニコさん、お待たせしました」
「早速で悪いんだが、これ、を──それどうした」
「これですか? フィルくんから半分もらいました」
「(それオレがフィルにあげたやつだよな? つまりは……)・・・で、だな」

ニコは深く考えるのを止めた。