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豆炭々炬燵
5124文字
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アンデッドアンラック
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【フィル風】同じ味
現ループの🚀☄️で大好きな人と美味しさを共有したい🚀くんなお話。
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以前の機械の体と違い古代遺物の体なら遜色なしに常人と同じものが食べられるのは僥倖以外の何ものでもなかった。
午後三時、おやつ時の時間。フィルは新たに出来たルーティンに沿って行動を開始する。戸棚の奥にある抱える程の大きなクッキー缶を取り出して、ゆっくりテーブルの上に置いた。室内の照明に照らされつるりと光るクッキー缶の表面には青色の濃淡で小鳥や草花が繊細なタッチで描かれており、気品漂う絵柄を見ただけでも特別感に溢れている。
クッキー缶の蓋に手を伸ばしたフィルだったが、ふと思い出し伸ばしていた手を戻して踵を返した。
程なくしてフィルは一枚の皿を持って戻ってきた。クッキー缶の手前にテーブルからはみ出ないよう皿を置き、フィルの手がクッキー缶の蓋へと伸ばされる。綺麗な絵柄に彩られたクッキー缶の蓋を両手で開ければ、種類ごとに均等に分けられ並べられたクッキーたちがフィルを見上げていた。
さながら宝箱に入っていた金銀財宝、煌びやかな宝石のようなクッキーを眺めるフィルの大きな目が右から左へと静かに動く。
今日はどのクッキーを食べようか。赤く艶やかなジャムが埋め込まれたもの、絞られたクリームみたいなもの、白くて丸いホロホロしたもの、アーモンドが乗せられたものや、ココナッツが錬り込まれたものに、丸くてシンプルなものも捨てがたい。
最近食べたクッキーの種類を照らし合わせ悩み迷う時間は短く、フィルの小さな手が食べたいクッキーを一枚一枚掴み傍にある皿の上へ綺麗に並べていった。本日のおやつ分を選び終わり、クッキー缶の蓋を閉めまた戸棚にしまうついでにガラスのコップに牛乳を注ぎ戻る。溢さぬよう慎重に歩き、テーブルにコップを置き椅子に座った。
準備は整った。皿に並べられたクッキーを一枚とり口に運ぶ。軽い食感をゆっくり味わい咀嚼する。上品な甘さをサクサク音を立て食べていれば一枚目が手から消えてしまっていた。決して急いで食べたわけではない。気付いたら食べ終わってしまっていたのだ。
行儀悪くクッキーを持っていた指先をぺろり舐めたフィルが次はどのクッキーを食べようかと視線を動かし始めた時だった。
部屋のインターホンが鳴る前にフィルは椅子から下り、部屋の扉前と足早に向かい扉を開けた。
扉を開ければ今まさにインターホンを鳴らそうと人差し指を伸ばしかけていた風子が立っていた。
風子は急に開いた扉に驚く事無く扉を開けたフィルに気付くなり彼と視線を合わせるべく腰を屈め笑顔を向ける。
「フィルくん、こんにちは。今お母さんいるかな?」
風子の問いにフィルが首を横に振う。
「それじゃあ、この資料お母さんに渡してもらえる? イチコさんからのだって言えば分かると思うから」
頷くフィルに手に持った資料を渡した風子が背を伸ばす。それに合わせ決して覗き見するつもりではなかったが、テーブルに置かれているものを見付け風子は眉尻を頼りなく下げた。
「おやつ食べてる時に来ちゃってごめんね」
申し訳なさそうに言う風子を見上げていたフィルは資料を持っている逆の手で彼女の服の裾を引っ張り部屋に招き入れた。渡された資料を母親が使用しているデスクの上に乗せ、何だろうと目をパチクリしている風子の前にクッキーが綺麗に並べられた皿を持っていく。クッキー缶から取り出した五種類のうち、一種類はもう食べてしまったがまだ四種類残っている。結局フィルはクッキー缶から全種類一枚ずつ皿に乗せていたのだった。
はい、と風子に向かって皿を差し出せば彼女はフィルに向かって手のひらを見せるように手を軽く前に出した。
「ありがとう、だけど今お腹いっぱいなんだ。その気持ちだけで十分、えー」
フィルはあからさまに遠慮している風子もとい、彼女の手のひらに皿の縁を押し付ける。決して諦めず押し問答していれば優しい風子は自ら折れてくれてくれるのをフィルは知っていた。
「本当にもらっていいの?」
現に風子は折れかかっている。
言葉を発せられない代わりにフィルが目を逸らさず頷けば、困った顔から麗日な春の陽気のような笑みを風子が浮かべた。
「じゃあ一枚だけ貰おっかな。どれ食べていい?」
どれ、と言われてフィルは小首を傾げた。彼女の好きなように食べればいい。そう、視線をクッキーから風子に戻した。
何となくフィルが言わんとしている事を察した風子は虚空を見遣ったあと手を叩いた。
「この中でフィルくんのおすすめ教えて」
おすすめと言われても正直全部としか答えようがない。だけどもし、その中に何かしら他の要素を入れるならば
…
と、フィルは皿を落とさぬよう片手で持ち、空いた手で一枚のクッキーを指差した。
白い皿の真ん中に置かれた、いつも最後に食べる赤く艶やかなジャムが埋め込まれた、目の前にいる風子の瞳と同じ色のジャムが使われているクッキーを迷わず指差した。
「これね」
指さしたジャムクッキーを掴み口元へ運ぶ風子をフィルがじっと見詰める。
「いただきます」
軽い音を立てクッキーを頬張った風子が自身の頬を押さえた。
「おいしい! サクってして口の中でほろほろになって、特にこのジャムが甘酸っぱくていいね!」
クッキーを食べるごとに称賛の言葉を紡ぎ続け、美味しさに顔を綻ばす風子の姿から目が離せない。
それは自分が勧めたクッキーを美味しいと言ってくれたからなのか、それとも自分と同じものを共有できたからなのか定かではない。
「ごちそうさまでした。じゃあねフィルくん」
ジャムクッキーを食べ終えた風子を見送ったフィルは再び椅子に座り持っていた皿をテーブルに置いた。皿に並べられたクッキーの数は残り三枚。その内の一枚を摘み、サクリと齧る。数的には自分が食べる分が一枚減ってしまったというのに何故だか悪い気は全然起きなかった。寧ろいつもより格段に良い気がする。
二枚目を食べ終わり、コップに並々と注がれた牛乳で口の中に残っている甘さを緩和させ飲み込んだ。
──他のクッキーも美味しいから食べてほしい
今度のおやつ時、クッキー缶そのものを持って風子の部屋に行こう。なんて思いながらフィルは三枚目のクッキーに手を伸ばしたのだった。
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