【カミ東】暑さ対策は万全ですか

【訳アリ心霊マンション👻🏢】の【カミキリ様×東雲薫・カミ東🔪🍮】に滾ったがための書きなぐった代物。
わしゃ人外×人間が大好物なんじゃ。

【昼の部】



過ごしやすい初夏の気候は早々に梅雨にバトンタッチをし、そのまま梅雨も特に粘るでもなく真夏にバトンを渡してしまった。そのお陰で例年より早くバトンを受け取った真夏は変なやる気スイッチが入ったのか──。

「あっづぅぅぅ~~~」

夏の風物詩である蝉すらノックダウン気味にさせる程の猛暑日が続いていた。
東雲マンションの大家こと東雲薫は先月から値上げした電気料金を節約すべく、茹だる様な暑さの中頼りない扇風機一台で今年の夏を乗り切ろうとしていた。
昨今の殺人的な暑さを叩きだす夏の季節にこの行為ははっきり言って自殺行為に近い。が、まだまだ空き部屋があるマンションのことを考えると節約できるところは節約せねばならまい。
ローテーブルに突っ伏し、漠然と生温い風を送る扇風機を眺める。中古で買った扇風機は中古なだけあって駆動音が喧しく逆に夏らしいと言えば夏らしい。
僅かばかりの希望を持って開け放たれたベランダの四角いキャンパスには憎たらしいくらい晴れ渡った青空と、これまた夏らしい入道雲がもくもく浮かんでいた。実に憎たらしいほど夏らしい光景である。
「熱風しかこねぇ……
気休めに窓辺に吊るされた風鈴が相槌をするかの如くチリーンと鳴った。
管理人こと日下部ツヅミはこの炎天下の中、ご苦労な事に近所のスーパーに出かけており、隣の部屋に住んでいる小椋有希は自身の部屋に籠っているのか昼食を一緒に食べたあと此方に顔を出していない。
大方絵を描くのに掛かりっきりなのだろう。
「まだツヅミと一緒に買い出し行けば涼しかったのかもなあ」
少なくとも冷房が効いたスーパーはこの部屋より快適なのは間違いない。
かと言って今更ツヅミを追いかける気力も無い。むしろこの一番暑い時間帯に外に出てしまえばスーパーに辿り着く前に真っ黒こげになってしまう。
眉根を潜めつつ、そんな灼熱地獄に安売りタイムセールのため身を投じたツヅミに東雲は心の中で手を合わせた。
暑く湿っぽい風に吹かれチリーンとまた風鈴が鳴く。
「だああッッ! もう無理!!」
理不尽な暑さに苛立ちを募らせ勢いよく立ち上がった東雲がドスドスと足音を立て台所に向かう丁度その時。

ピンポーン

呼び鈴の音が部屋の中に響き渡った。
ぐつぐつ煮えたぎった怒りの感情が僅かに下がる。荒々しかった足音が行き先を玄関に変更した途端、ぺたりぺたりと静かなものに変わっていく。廊下を歩いている間も一定の感覚で鳴らされる呼び鈴。
東雲はドアスコープを覗くことなく玄関の鍵を開錠し玄関扉をゆっくり押し開けた。
視界に映るはベランダ側から見ていたものとは違う青空。そのまま視線を下に少しばかり向ければ、青空とは違う深く澄んだ青色の瞳とかち合った。
「カミキリさん?」
「大家サん、こんニちは」
目を眇めるほどの夏を背に背負って訪れた珍しい来神様ことカミキリに先程まで抱いていた夏の暑さへの怒りは東雲の中からさっぱり消え去った。
ただ如何せん太陽が元気すぎる。東雲はドアノブを持っていない手で目庇を作り、休む気配など毛頭ない太陽を見上げ──分かりやすいくらいに眉根を潜めた。
「立ち話もなんだし、中はいって」
「お邪魔しマス」
サウナ状態の室内でも直射日光が無いだけマシだと考えた東雲はカミキリを部屋に招き入れた。


ガチャリ。扉が閉まる音に続き節電のため照明を消している薄暗い廊下に裸足の足音が二つ静かな部屋にしみ込んでいく。
「適当に座ってて」
「うン」
家主の東雲に促され客人カミキリは先程まで東雲が座っていた向かい側に腰を下ろした。
ローテーブルの上には少し前までキンキンに冷えていたであろう薄まった飲みかけの麦茶が入ったガラスのコップが小さな水たまりの真ん中に佇んでいる。
それを横目で見ながら行儀よく正座するカミキリの後ろを東雲が通り過ぎる。カチリ、小気味よい音と共に扇風機の首が回り始め、カミキリのところに風が行っているのを確認した東雲はまたカミキリの後ろを通り台所に向かう。
暫くして足取り軽くリビングに戻った東雲は快活な笑みと共に右手をグッとをカミキリに向けた。
はたして、その右手には冷凍庫から取り出したばかりの冷気を纏ったカップアイスが握られていた。
「いや~さっき、丁度食べようと思っててさ~」
にこにこ笑顔な東雲にカミキリが小首を傾げる。
「折角暑い中来てくれたんだ。一緒に食べようぜ」
「いイの?」
「いいのいいの。まあ、一個を分けんだけど。ちょっと待っててな~」
再び台所に戻り一個のカップアイスの中身をガラスの器によそっていく。一瞬東雲は自分の分はカップアイスの容器のまま食べるかと思うものの、結局客人用のガラスの器によそった。銀色の匙をアイスに差し込みリビングに歩を進める。
「はい、お待たせ」
コトリ。カミキリの目の前に置かれたガラスの器に乳白色の小山が三つ。そして、色とりどりの小さいチョコがまぶされていた。
「カラーチョコスプレーっていうの? これかけると一段階アイスがリッチになるってのが良くってよぉ。
ん~! うまい!」
言うが否やぱくりと一口アイスを頬張った東雲の口角が上がる。
「いたダきます」
手を合わせた後、匙を取りアイスを掬って食べようとしたカミキリの手が止まった。
明らかに自分のアイスの量が東雲のものより多い。カミキリのアイスの小山が三つに対して、東雲のアイスの小山は一つだった。
「大家サん」
「どした?」
「僕のアイス、大家サんのより多い」
「そりゃあ沢山食べて欲しいからね」
「なんデ?」
「さぁてね。ごっそさん。カミキリさんもはやく食べないと溶けちゃうよ~」
話をはぐらかせられた気がしてならないカミキリの顔が僅かばかりムスっとするものの、東雲の言う通り早く食べなければ折角のアイスが溶けてしまう。
匙で掬い口に入れた瞬間、冷たい甘さが口いっぱいに広がる。
「おイしい」
「だろ」
向かい側で頬杖をつきニカリと笑う東雲にカミキリもつられふんわり笑みを零した。


ひと時の甘い清涼を味わい終わり、綺麗に洗われた二人分のガラスの器と匙が水切り籠の中で自然乾燥すべく置かれていた。ガラスの器の表面を透明な雫が滑っていく。
「だあああァァァ~……、ちょっとしか涼しくなんねぇ~……
既に麦茶を飲み切ってしまい氷だけのグラスからカランと、東雲の言葉に相槌するかの如く涼やかな音が鳴った。
冷たいアイスを食べ終え、氷の入った麦茶を飲み多少ばかり涼をとったところで、無情にも時間経過と共に体温が上昇していく。
ソファを背に寄り掛かりだらしなく両足を投げ出して、夏の暑さに白旗を上げつつある東雲の額からは玉のような汗が滴り落ちている。
そんな東雲を麦茶が入ったグラスを両手で持ちこくこくと飲み眺めていたカミキリの視線が一瞬虚空を見やった後、静かに麦茶を飲み干したグラスをローテーブルの上に置いた。
カミキリがやにわ立ち上がったかと思えば、東雲の右隣に歩み寄りそのまま腰を下ろした。
膝を立て隣に座ったカミキリに片眉を上げた東雲だったが、ワンテンポ遅れて齎される涼しさにだらしなく口が開く。
「あぁぁ~~涼しいぃぃぃ……ハッ」
東雲は思い出した。以前カミキリを冷却材代わりに抱っこ紐で連れ歩いたあの日の出来事を。そのあと、数日間口を利いてくれなかった事を。
「(気を遣わせてしまった)悪い、無理にしなくてもいいから」
気まずそうな視線を送る東雲にカミキリは首を横に軽く振るう。
「僕がココにいたいだけだから平気」
「そ、そう?」
嬉しさと申し訳なさが入り混じる感情が人差し指に集まり、そっぽを向きながら東雲は自分の頬をぽりっと掻いた。
それ故に東雲は自分の横顔を見上げるカミキリのふわり笑う顔に気付く事はなく、また深く澄んだ青色の大きな瞳が緩やかに下降していることも気付かなかった。

ぽすん

軽い衝撃が東雲の太腿に伝わる。
東雲は憎たらしいほど晴れ渡る青空から視線と意識を太腿に向けた。
「──へ?」
自分の膝というか太腿を枕にして横たわっているカミキリの姿に東雲の目が大きく瞬いた。
一瞬横目でカミキリが東雲を見上げたが、何事もなかったかのように大きな瞳を東雲の爪先側に戻した。
ショートパンツから覗く太腿にカミキリの柔らかな髪の感触で我に返った東雲は何故このような状況になっているのか口にしようとした刹那──。
すわ此処は高原かと錯覚してしまう程の涼しさによって途中までせり上がった言葉は別のものに変換された。
「めっっっっちゃ、涼しいぃぃぃ~~~。生きかえるうううぅぅぅ~」
漏れ出る気の抜けた言葉。何故かその場の空気が一層穏やかさを増した気がした東雲は、暫し考えた後カミキリの頭の上にそっと手を置いた。
東雲の手が見た目以上に柔らかく触り心地の良い髪を撫でつける。母親が子供の頭を撫でるようにゆっくり動かせば、カミキリの大きな目がどんどん細められついには安心しきったように瞼を閉じた。
「ありがとうな」
小さな寝息をたてるカミキリに東雲がそっと呟いたのだった。


「(そういや何でカミキリさんウチに来たんだっけ?……んー。まいっか)」








「はーい、帰りましたよ~、って……!?」
「ツヅミおかえり」
……た、ただいま有希さん。これ一体どう状況ですか?」
「知らナい。私もさっき来タ」
「二人とも気持ちよさそうに寝てますね……
「今日ノ夕ご飯なに」
「今日は冷やし中華です」
「四人分?」
「ふふっ、そうですね。四人分作りましょうね」