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豆炭々炬燵
5851文字
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パリピ孔明
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【赤KABE】ご勘弁ください
はじめて書きましたがシチュ的に果たしてこれであっているでしょうか…?お題箱リクエスト。
1
2
「はぁー。今日も楽しかったー」
一人悠々と長い座席を占領出来るほど揺れる電車内は人が疎らで、すっかり夜色に染まった向かい側の窓ガラスに鏡よろしく上機嫌な自分の顔が映っていた。
赤兎馬さんと再戦後も地元にちょくちょく帰っていた俺は今日もササっちょ達とサイファーを楽しんできた。
BBラウンジでやる時とはまた別の充実感に浸りつつ、周囲に人がいないのを確認してから腕をグッと上に伸ばせば溢れ出しそうなバイブスが少し落ち着くも、頭の中に浮かんだリリックを思わず小声で呟いてしまう。
小気味よく響く電車の走行音に合わせたフローにライムを刻む。やばい折角落ち着かせたバイブスがどんどん湧き上がってくる。
いい加減、どこかのタイミングで止めようとしたその時。丁度駅に着いたみたいで扉の開閉音とほぼ同時にスマホが震えた。ズボンのポケットから取り出す。画面に映し出されているササっちょの名前に思わず笑みが零れる。
ぽちぽちと返信を打ってる際、何か座っている席が少し沈む感覚があったが特に気にせずスマホの画面を見続けた。
そこからまたメッセのやり取りに夢中で本来乗り換えるべき駅をうっかり乗り過ごしてしまった。
「まずいって!」
一先ず別の駅に降りれば不幸中の幸いか、反対側のホームに電車が止まっていたので駆け足で乗り込んだ。
俺が降りる予定だった駅は乗り換える人が多く、地元から帰る際は空いているが逆方面からの電車は満員状態が常だった。そして、たまたま乗り込んだ車両は乗り換え口が近いためか異様に混み合っていた。
「(最悪
…
)」
押され揺られ。ぎゅうぎゅうとまともに動けないが、運よくドア付近を確保できたので流れる景色を眺めつつどんどん下がっていくバイブスが何処か他人事のように思えた。
でも、あと数駅で乗り換える駅に着く。それまでの辛抱だ。窓に映る自分の目と目が合った瞬間、何か言いようのない気配に背中がゾクリとした。
それが一体なんなのか分からない。動ける範囲で首を捻って周囲を見渡しても、満員電車の圧でぐったりしたサラリーマンか音楽を聴いて気を紛らわしている学生や最早無の境地に至っている人達しかいない。
「(気のせいか?)あ、すみません」
電車が大きく揺れたため、後ろにいる人に軽くぶつかってしまい緩く頭を下げながら謝罪する。すると空気だけだけど大丈夫ですと返ってきたのでホッと胸を撫で下ろした。
怖い人じゃなくて良かった、だなんて思ったのも束の間、今ぶつかってしまった人の距離がやたら近い事に気が付いてしまった。
満員電車とはいえ下半身までピッタリと張り付くことはおかしくないか。そのことに意識し始めたら小さな違和感が徐々に大きくなっていった。太ももから上に向かい弄られている感覚に血の気が引いていく。どう足掻いても人の手の感触であるそれは俺の尻を揉んでは撫でまわしている。
「(ば
…
!? はあ!?)」
勘違いでスルーしようにも出来ない感覚に頭がパニック状態になる。窓には困惑して目を泳がせまくっている俺がいて、その後ろにいる恐らく俺を触っているであろう人影は俯いているのか顔が見えない。
「(も、もしかして女の人と間違えている!?)」
いやいやいや。今着ている服はツナギだぞ、あー、でも、後ろ姿だけなら女の人と勘違い
…
するか普通!?
「ヒッ
…
!」
電車の揺れに合わせて今度は執拗に腰というか、ナニを当ててくる。これもう確実にアウトじゃん!駄目なやつ確定じゃん!耳元に吹き付けられる荒い息遣いにゾワリ鳥肌が立つ。
どうにかして、止めてもらわなければ
…
。そうだ! 女の人と勘違いしてるなら俺が男だって気付いた途端、やめるんじゃね? 混乱する頭でひねり出した案を実行するべく恐る恐る、必要最低限首を捻ってその人にだけ聞こえるように声を掛けた。
「俺、男っすけど」
「分かっています」
分かっています
…
?耳元から聞こえた言葉の意味が最初理解できなかった。男だと分かっていて、やっている?
ナニを当てて、尻を撫でまわし揉みしだくのも男だと分かっていてやっている? 荒い息遣いも興奮して?
返ってきた声がやたら誠実そうだとか的外れな考えが浮かぶ前に意識がまた現実に引き戻される。
尻を撫でまわしていた手が太ももの付け根に沿って前面を撫でようと伸びてきた。下半身の要は男に付いているナニを触ろうとしてくる仕草に身を捩って逃げようにも、この混雑した車内では上手く逃げられない。というより齎された衝撃がでかすぎて身動き一つ取れない。そうこうしている内にわざとかゆっくりねっとりとした動きで這わされる指や手の感触に如何にかなってしまいそうだった。
うなじを舐めまわす荒い息遣い。窓に映る顔はすっかり強張ってしまい情けないにも程があった。
だが、このままではいけない。一度目を瞑り開けて気持ちを落ち着かせる。はっきりした拒絶の言葉を後ろに向かって放つべく首を捻ろうとした矢先、後方から男の悲鳴が上がった。
「いてててて!」
車内に響く悲鳴は他の乗客の注目を集めるには十分すぎた。ざわつく車内。何事かと振り返る前に見た窓には見知った姿が映っていて、すぐさま首を捻りその人の名を呼んでいた。
「赤兎馬さん!?」
周りの乗客より背の高い赤兎馬さんが男の手を掴み捻り上げていた。その表情は険しく今にも腕をへし折ってやらん勢いだ。
「お前、次の駅で降りるぞ」
凄みのある声で赤兎馬さんが捻り上げている男に言う。俺に言っているわけじゃないのに思わず上擦った声で返事をしてしまった。だが、捻り上げられている男は無謀にも唾を穿きながら怒鳴り返している。
「何のことだよ!? いててて!暴力! 不良に暴力をあげられています!!」
その言葉に乗客の視線が一気に赤兎馬さんに向けられる。赤兎馬さんの見た目の厳つさと男が叫んだ言葉に乗客たちが一様にざわつき始めた。この流れは良くない。状況が分からない人たちにとっては赤兎馬さんがあたかも男の人に手を上げたみたいな形になってしまう。違います!その人は俺の体を触って──!!
「あ、あの!」
「この人、痴漢です!」
俺の声に被って響いた声は若い女の人のものだった。今度はその女の人に乗客の視線と意識が向けられる。
女の人は自分に乗客の視線と意識が注がれたのを確認するなり、スマホの画面を他の乗客に見えるように掲げた。
「そのスーツ着た男の人、ずっと彼のこと痴漢してました!」
他の乗客に隠れて見え辛かったけど、どうやら彼女は痴漢の徹底的瞬間をスマホで録画していてくれたらしい。
まさかの助け舟の出現に風向きが変わりいよいよ男の顔が青ざめていく。
「無実だって言うなら尚更逃げはしねぇよな」
有無を言わせない赤兎馬さんの後について駅に降りる際、同じ車内にいた乗客は綺麗に左右に分かれ道が出来ていた。
「(はじめて警察のお世話になった
…
)」
あの後、赤兎馬さん、俺、痴漢した男、証拠を録画してくれた女の人と一緒に駅員室に向かい程なくして来た警察官に色々説明をした。
そして、女の人が証拠映像を撮っていてくれていたのが決定打となり、男はそのまま警察に敢え無く御用となった。終電間際まで一緒にいてくれた女の人に改めてお礼を言うと興奮した様子でその場で小さくぴょんと跳ねた。
「KABE太人さん、ですよね? 私ファンなんです
…
! あの握手してもらってもいいですか?」
「へ? あ、ありがとう
…
?」
まさかのファンの登場にどもりながら握手をした。以前地元で握手した後輩たちといい、ここ最近女性ファンが増えた気がする。俺は彼女のマシンガントークが耳に入らないくらい照れてしまい、最後の応援の言葉くらいしかよく覚えていなかった。
「今日KABE太人さんの聖地巡りしていてまさか本人に会えるなんて思っていなくて電車でもこっそり隣に座ったりして本当にキャーどうしようと思ってたらKABE太人さんいきなり逆側の電車に乗ろうと走り出したから思わず連れられて乗っちゃって折角だしKABE太人さんのことスマホで録画しちゃえって思って録画したら変なクソ野郎がKABE太人さんに変な事し出したから証拠残して警察に突き出してやろうってしたら今度は赤兎馬さんが出てきてなにここはあのMCバトル会場の再現なの!?って一瞬見惚れていたらなんか乗客の人たち勘違いし始めたからこれはいけないって思って声上げました。無事あのクソ野郎豚箱行きになりそうでホッとしました。あ、終電乗り過ごしちゃうんでここで失礼します~これからもKABE太人さん応援してます!頑張って下さい!」
何度も振り返り手を振ってくれる女の人を見送ったあと、改めてお礼を言うべく隣にいる赤兎馬さんに深々と頭を下げた。
「赤兎馬さんありがとうございました」
短い沈黙があり、ふと頭を上げれば腕組をしたままこちらを見下ろしている赤兎馬さんと目が合った。何か言おうか言わないかしている、ように見えたけど気のせいかもしれない。
ただ赤兎馬さんが目を閉じた途端、漂っていた空気が和らいだ。
「KABE、このあと予定あるか」
「予定? 今夜BBラウンジでやる予定はなかった、はず
…
」
スマホに登録しているスケジュールを確認。やっぱり何も今日は用事は入っていない。
「ないっすね」
「ならちょっと付き合え」
そのまま駅の改札を抜け夜の街へと歩き出す赤兎馬さんの後を俺はよく分からないまま付いていった。
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