【セコ窓】二つの椅子

ひとりぼっちの宇宙船で待ち人が来るのをずっと待ち続ける。

たった今、入ってきた扉から戻れないというのは別に珍しくない。
跡形もなく音すらさせず始めからそういう物自体存在していなかったみたいに。ある種の一方通行に近いかもしれない。ただ普通の一方通行の道だったら振り返れば自分が進んできた道が見えるけど、ここじゃ振り返ったところで今の今まで進んできた道そのものが無くなってしまう。道があろうが無かろうがどうせ先にしか進めないなら余り大差ない。
でも、一方通行の先が袋小路ならまた別のはなし。
何かと複雑で煩わしい道のりと過程を経てようやくたどり着ける淡く白い空間は足を踏み入れた途端、この世界そのものから切り離されたような錯覚に陥る。もしかしたら実際そうなのかもしれない。
他の場所で袋小路にはまったり出口のない部屋に閉じ込められた時、大元の世界から切り離されることなく同じ世界に属した場所に隔離されるのだと何となく分かる。いうなれば家の暗く狭い押し入れに閉じこまれたのと同じ。それに比べてこの淡く白い空間は淡く白い世界そのものが小さく、しかもこの世界は他の場所とはまた違う場所に位置している、気がする。家から離れた、もっともっと家とは別の遠くて違う場所に連れていかれていくような

──りたい、──れない。じゃない、──さえない。

「(うまく言えない)」
横長に長い楕円型に切り取られた宇宙を頬杖しながら見上げる。キラキラひかる星に合わせてなのか、別にそうじゃないのか定かではない。暗くて静かな宇宙に漂う白い船はあてもなく漂い続け、この船の持ち主である黒い生物は飽きることもなく鍵盤を叩き不思議な曲を奏で続けていた。
白い空間に黒い生物。わりと生活感垣間見えるこの空間にはテーブルが一つに、イスが二つ。奥の部屋にはベッドが一つ。ここにはこの黒い生物以外いない。だから、テーブルとベッドの数が一つなのは理解できる。問題はイスが二つあること。
まるで誰かがこの場所に訪れたとき座れるよう誂えたみたい。事実そのイスの一つに勝手に座らせてもらっている。
「(このイスだってきっと座ってもらえて本望よ)」
イスのイスたる存在意義を果たせるのだから、と屁理屈こねこね。
こねにこねてテーブルとイスに蕩けてくっ付いていると、聞き覚えのあるメロディーが聞こえてきた。程なくして一節弾き終わった黒い生物が振り返る。右手を鍵盤の上に乗せたまま、体ごと捻って振り返り此方を見続ける。ちょうど暇を持て余していたからテーブルに蕩けていた顔を上げ、同じくイスにくっ付いていたお尻を剥がして黒い生物の傍に歩み寄った。
すると、さっき弾いていたメロディーが奏でられたので★ふえ★を出して真似て吹いてみた。ちょっと音程違ったかなと思えば黒い生物が再びお手本を弾いてくれる。それに合わせて吹けば今度は違うメロディーを弾き始めたからまた同じように★ふえ★を吹く。
まるで音楽の授業。此方が吹き終えるまで黒い生物が見続けるのも相まってとても音楽の授業っぽい。
義務的要素が排除された音楽の授業はやっていて少し楽しい。疲れたらイスに座って一休みすればいい。そして、また一緒に音楽をすればいい。

黒い生物の隣にいるとたまに相手の声らしきものが聞こえる。一体何を言って喋っているのか理解できないが、とかく気分を害すものではない。むしろ心が微かばかりにあたたかくなる奇妙な声は聞いていて心地よかった。