【夜廻】寵愛【深夜廻】

人ならざるモノに気に入られた者に手を出したらどうなるか。想像するに難くない。
ことも姉妹とよまわりさんとムカデの神様と。

夜、家にいると誰かの視線を感じる。
おいしい夕ご飯もどこか自分じゃない自分が食べてるみたいでイマイチ。本当はとってもおいしいはずなのに。今日はとくに大好きなおかずでうれしいはずなのに。心から思えないでいる。
せっせと宿題をやっている時や大事で大切なお姉ちゃんとおしゃべりしている時もそれは続く。
二年前からこの怖くない視線を感じていた。見守っている、とはちょっと違うこの視線は別に問題じゃない。問題なのは今年になってから違う視線を感じるようになったこと。
暗がりからじっとこっちをうかがう視線。すごく嫌な感じがするのにどうしてだろう。とても優しい気がする。それはお姉ちゃんにも感じるみたいで二人一緒に首を傾げたりもした。
「おかしいよね。よまわりさん今ここにいるのに」



とても大きい台風が近付いている影響で外は土砂降りの雨と強い風。ごうごうと吹き荒れる風の音に紛れ感じる
不思議な視線に今日も二人で顔を見合わせていたら玄関先からナニカの気配を感じた。
こんな台風の中、誰が訪れるのだろう。近所の人が警戒で見回っているにしてはその気配はちょっと変だった。
はじめお姉ちゃん一人で見に行くって言ったけど、わがままを言って一緒に見に行けば雨でずぶ濡れのよまわりさんが玄関先で佇んでいた。
「わあ!よまわりさんびしょびしょだ」
「はやく家の中に!それとタオルタオル」
こんな天気だからよまわりしなかったけど、もしかしたら”してないよね?大丈夫だよね?こんな日はよまわりしちゃいけないよ”って見に来てくれたのかもしれない。
いつも持っている袋はただいま洗濯中。お姉ちゃんが丁寧によまわりさんのことを吹いていたらまたあの視線を感じて思わず「まただ」と呟いた。
部屋の中をぐるりと見渡す。天井や壁のすみっことか窓や廊下に続く入り口とか特に。でも、やっぱり正体は分からなかった。
すると無機質でつるりと白いよまわりさんの丸いお面に描かれた横線が斜めに傾いた。まるで首を傾げているみたいな動きに思わず二人で小さく笑った。きっと真似をしているんだ。首を傾げて不思議だね~、なんでだろうね~ってしてるのを真似っこしてるんだ。
ガタタッと窓が風に煽われ揺れる。窓ガラスに叩きつけられる雨粒は大きく当分止みそうにない。
ふんわりしていた空気が少しだけもとに戻り、よまわりさんを拭き終えた濡れたタオルを片付けながらお姉ちゃんが言う。
「今夜はこんな天気だし、ことももよまわりしないよね?」
「うん、しない」
お姉ちゃんが何を言いたいのかなんとなく分かる。こんな雨と風がひどい中、よまわりさんを帰したら玄関出た瞬間びっしょりになっちゃう。よまわりさんのお仕事、でいいのかな?よまわりする子供を見張るのがお仕事なら、そのよまわりする子供がよまわりしないってなったら別にお仕事休んでもいいよね。
洗濯乾燥が終わった袋をお姉ちゃんがよまわりさんに返したけど、よまわりさんはまだ家の中にいてスーッと消える気配もない。これが答え。
黒い触手がお姉ちゃんの頭をなでなでしている。きっとありがとうって言ってるんだ。それからわたしの頭もなでなでしてくれた。お姉ちゃんじゃない誰かに撫でられるなんて久しぶり。ちょっと恥ずかしかったけど嬉しかった。

その夜。よまわりさんは姉妹の家に泊まったが二人は説明しがたい悪夢に魘されることになった。
その原因であり元凶であるよまわりさんは己自身が傍にいるだけで悪夢を見させてしまう力があるなんて知りようもなく。ただただ少しでも和らぐようにと二人の頭を優しく撫で続けた。










町で拾い招き集めたモノとは違う。明らかな意思を持つ澱みぎらつく視線から隠すように黒い触手たちが少女らの目を覆い隠した。まだこの少女らの耳にかの声は届かず聞こえていない。
しかし、半分をあちら側に置いてきてしまった少女に厄介極まりない声が届くのは時間の問題か。そもそも一度でも怪異に遭遇し巻き込まれた者は遅かれ早かれ魅入られてしまう。この少女らにはこれ以上ない素質を持っているがゆえ尚の事。
背を丸め縮こまる妹の欠けた目を瞼越しに撫ぜ、何かを掴むよう伸ばされた姉の手に黒い触手を握らせた。
不快すぎる死と血生臭い匂いを孕んだ気配。粘着質で執念深い赤黒い視線から少女二人の正確な位置を隠すのがやっとだった。もっともこの子らに手を出したら最後、明確な敵として認識されるのを覚悟することだ。