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豆炭々炬燵
2640文字
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【ペニビル】領域
この暗黒地下世界では殺人ピエロの力は通常の3倍になり他の者たちの力は1/3になる
さあ戦おう
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2
半分顔を覗かせたモグラ叩きのモグラ染みた態勢で白塗りの悪魔が吃音矯正文章を唱える。縁に手を置き金色の瞳が自身を追詰めた子供を見上げていた。
依然として矯正文章を唱えているが忙しなく動いている口元は縁に隠れて見ることは叶わない。
ただ唯一、すぐ間近まで近寄り冬の嵐のように強く苛烈で何処か痛々しい決意を宿した面持ちで見下ろすビルだけが小刻みに動く相手の唇をはっきり見ることが出来た。
鼓舞するため呟いた矯正文章が声を潜めた大人の声で呟かれる。自分とは違う声色、何より未だ揺さぶり攻撃を掛けてくる相手にビルの心と瞳から熱が逃げていき。無言で手渡された鉄の冷たさを握りしめ見下ろす。
ペニーワイズの欠けた頭部から白い破片がバラバラと空に浮き漂っていた。
最後の一撃、止めを刺すべくビルが振り被った刹那
――
、縁に添えた手に力を籠めグッと暗闇に潜めていた身を乗り出した。
吐息が感じられる距離まで愉悦に歪んだ白い顔を近付けて息つく暇も抵抗する余地も与えず、ペニーワイズのくすんだ白い腕がビルの首と背中に巻き付ける。あとは奈落の底へ落ちる重力に身を委ねれば自然と体は闇の大口に吸い込まれていく。
「恐怖はこれからだ」
上昇していく視界。落下していく浮遊感に包まれたビルの耳元に唇を寄せ囁く悪魔の声。捨て身の攻撃にしては切羽詰まった感じが一切ないのが気がかりだ。
目まぐるしく変わる事態。戸惑いはすれど、ビルの強い決意と意志は決して崩れない。
後方から聞こえていた仲間たちの叫び声や怒号が尾を引いて遠ざかるにつれ、視界もまた薄暗い給水塔の中から完全な暗闇に変わっていった。
目を開けているか閉じているのか分からなくなる暗闇で目を開けているのだと判断できる材料は忌々しげに黒の中に浮かぶくすんだ白色の存在があってこそ。
物凄い勢いで落下している所為か身動きが取り辛い。だが、不思議と落ちている感覚より浮いている感覚の方が強かった。
「! くそ、どこにき、消えた!」
突如消えた白い影を追い、ビルは四方八方前後左右を見渡し探す。何処彼処見ても黒の世界。音すら容易く飲み込む空間はビル自身の声も果たして口から出しているのか、それとも心の中で呟いたのかすら分からなくなる。
右手に持った武器に力が入る。いつ何時攻撃されるとも知れない状況はビルの鼓動を速め体全身に勢いよく血を巡らせた。
『やった!ビリーが一緒ならぼく家に帰らなくても全然寂しくないよ!』
暗闇に音もなく現れた黄色い影。上下逆さまになって屈託なく笑う様は微笑ましいを通り越し逆に不気味だった。
船を持った左手を伸ばす。ビルが手に持っていた武器が空気を裂いた。
鼻先すれすれで避けた幼い子供の顔から一切の感情がそぎ落とされた。
『ひどいや。今度は全く躊躇しないなんて』
「ジョージのすが、姿と声で、ままま、惑わそうだなんて。も、もうそのて、手にはの
――
」
「乗っても乗らなくても関係ない」
癇に障る笑い声と共に黄色からくすんだ白色に戻ったペニーワイズに向かってビルは一心不乱に鉄の棒を振り回す。
しかし、ピエロらしい掴みどころのない軽快な動きで避けた挙句、ペニーワイズは水中でバク転をするようにゆったりした動きでビルの右手に握られていた鉄の棒を蹴り飛ばした。
「くそっ!」
失態に思わず声が漏れる。闇の中に消えていった武器を探し見付けるのは不可能に近い。対抗手段を失ったのは痛いが、ビルの戦意が無くなることは無かった。それどころか益々苛烈になっていく。
素手で殴り掛かる暴力的な闘争心。不安定な態勢で何度もビルがペニーワイズに食いかかる。
「君が私に殴り掛かろうとする姿はまるで踊っているようだ」
ほらほら、こんな風に。
ビルの拳がギリギリ届かない距離で彼の動きを大袈裟に真似る。ぶんぶんと虚空に向かって拳を衝き上げ、たまに空ぶってはまた拳を振り回すのをくり返す。完全におちょくってるペニーワイズにビルの動きが無意識に大降りになっていき。それはピタリと止まった。
「踊るピエロ、ペニーワイズ。私と同じじゃないか、ビル~
…
」
蟲の群れが足元から這い上がる不快感にビルが眉を潜め、ふと自身の手元を見下ろせば不快感が吐き気を伴って襲ってくる。
手首に付いた丸い鈴。胸元には赤いボンボンの釦。首元が息苦しくて手を伸ばせば襞襞の襟元が首元を覆い、鏡で見たわけでもないのにビルは今、自分の顔が目の前で厭らしく笑う相手と同じメイクを施されているのだと頭の隅で誰かが呟いた。
ビルが恐る恐る自身の顔を触って確かめているのをペニーワイズが目を眇め見遣る。
「よく似合っている」
やや俯いたビルの視界に履き潰された靴が映り込み、処理が追い付かない思考に割り込む頬に何かが触れた感触がやたら強調された。
それはやんわりビルの手と頬の間に入り込み包み込む。ペニーワイズの白い親指が紅を差したビルの唇を満足気に触れ撫ぜる。
「嗚呼、よく似合っている
……
」
恍惚に染まった擦れ声が暗闇に響き溶け消えていった。
ビルの俯いた顔を上に向かせペニーワイズが覗き込む。少なからず弱まったと思っていた輝きは弱まらず煌々と輝いていた。
「これは現実じゃない」
「それは上の世界での話。ここでは私が全て私の思うがまま、
――
紛れもない現実なんだよビル」
「それでも現実だと認めない」
「強情っぱりさんめ。でも、今は君の意志を尊重しよう」
言うが否やくすんだ白色から解放されたビルは元の姿に戻り、ペニーワイズは何もない空間を蹴り宙に舞った。
ふわふわ浮かぶ様を目で追う勇ましい瞳に金色の瞳が細められる。
「君と私はこれから27年という永くも短い時を共に過ごすんだ。精々仲良くしようじゃあないか?」
「おこ、お断りだ」
「そいつは残念。だけど、返事は何時だって変えて構わない。私は何時までも待っているよ、ビル」
脳髄を強制的に揺らす笑い声を残してペニーワイズの姿がその場から消え、暗闇にただ一人佇むビルは一度今はもう見えない小さな穴を悲しげに満ちた表情で見上げ唇を噛みしめたのだった。
「あれから随分経ったのに心身ともに心細くなって衰弱するどころか鋼の精神持ち合わせている所為で全然靡かない。もとい無視決め込んでこっちのやることに反応すらしてくれない辛い」
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