【カカモア?】ココナッツモーニング

カカモラがモアナとカラコロ仲良くなる?お話。カカモラは敵対しているのかしていないのか未だによく分からない。ねつ造過多ご注意。

本日快晴、海も穏やか、とても良い航海日和。
ピンと張った帆が海風を受け止め、勢いよく波を乗り越え進んでいく。
たまの一人航海。まるで島の中を散歩するような感覚でモアナは海に出る。その度にモアナの両親は困った顔で肩を竦めやすれど彼女の事を咎めはしなかった。
「今日はどこまで行こうかしら」
雲一つない青空を仰ぎ、眩しい太陽を手の平越しから眺める。
言葉の端々から漂うワクワクしてたまらないといった雰囲気がそのままモアナの表情を緩めさせた。
やりたい事が引切り無しに湧き気が漫ろになっていた時、彼女の進路上に見慣れた物体がぷかぷか波間に漂い浮いていた。
「ココナッツ!」
別段珍しくはないが、弾んだ声と共に舵をココナッツの方へ切った。そこそこ距離が縮まったところで愛用のオールを一回転させたのち、平らな面をココナッツに被せそのまま引き寄せ、手が届く距離まで近づいたので掬い上げた。
「あなた何処から来たの~?」
語り掛けたところでココナッツは喋らないのはモアナも知っている。だが、何処か遠い場所から流れてきた相手に親近感を抱いた。
海に浸りふやけた茶色い繊維質の皮を見るなり、実が落ちて間もないというわけでもなさそうだ。果たしてこの実はどれほどの間海を漂っていたのだろう。
「喉乾いてるから今飲みたい気持ちもあるけど」
両手で抱えて分かった事がある。このココナッツ今まで見て触ってきたココナッツと上手く言い表せられないが何かが決定的に違う。
しかし、そこに不気味さは無く危ない気配も一応無い、気がする。多分、きっと恐らく。
「折角だしモトゥヌイに持って帰りましょ」
穴が開くくらい超至近距離でココナッツを観察したモアナは一先ず見た目ただのココナッツだと判断した。収納箱の蓋を開け、そっとココナッツをしまいこみ蓋を閉じた。
「もしかしたらモトゥヌイのココナッツだったりして」
そしたら、こんな広い海で出会えるとは何とも運命的で楽しいことか。
今日の航海は此処まで。華麗に船体の端に飛び移り、体重移動も利用して船首の向きを反転させた船はそのままモトゥヌイの島まで海上をすべり駆けて行った。



薄暗く狭い空間。
近くから聞こえる潮騒は湿り気を帯びていない。
海に浮かび揺れ動く感覚とは違う揺れ。
収納箱の蓋を僅かに開け船を操る優秀な航海士の航海術を眺める無言の視線。
揺れが収まり近づく気配に収納箱に収められていたモノは自ら奥に転がった。










普段より早く終わった散歩。両親には気付かれていない様子。悪戯をした子供のような気持ちが海で拾ったココナッツを見付からないように隠して運ばせた。
その根底にあるのはびっくりさせたいという純粋なもの。両親や他の村人たちの目を盗み見付からぬよう時には胸に抱き、時には自分の背に隠しながら運ぶ道中もモアナの心は珍しくはしゃぎまわる。もしかしたら下らないと一蹴されるかも、そんなのが脳裏を過ってもなお楽しくて仕方なかった。
「明日みんなに言ったらもっとびっくりするわね」
自分の寝床の傍。ココナッツの葉で編まれ作られた籠の中にココナッツを入れ、更に蓋を被せる徹底ぶり。
心を躍らせているお陰で中々寝付けなかったものの、気付かない内に夢の世界へ旅立ったモアナの口許からは規則正しい寝息が漏れていた。夢の中でも楽しい事があったのか、その表情はどこまでも穏やかで幸せそうだった。





横向きで寝ている彼女をまた僅かな隙間から窺い見遣る。
周囲に彼女以外がいないのを確認。静かに籠の蓋を開け、籠の縁に手を掛けたのまではよかった。
予想以上に籠の底が深く、何とかつま先立ちで縁に掴まったが不安定な態勢上、中々上手く上にあがれない。
色々試行錯誤をして籠の中で動き回った結果、底の丸い籠が耐え切れずバランスを崩し倒れてしまった拍子で外に出られてしまったのはお笑い草である。
丸い体も相まって転がり続け、やっと止まった視界の先には此処に連れてきた人間の顔。勇ましい瞳は瞼に隠され見えないが、この顔つきには見覚えがあった。

この人間の女は我々の船を沈めた、憎き相手。
残忍な海賊から見事生命の女神の心を取り戻し逃げ切った、忌々しい相手。

激しく船体同士が衝突した衝撃で海に投げ出され、海に流され、仲間に見付けてもらえず、一体どれだけの期間海に漂っていたのかも分からない。
その場にあった材料を使い即興で作った銛を人間の顔に向け、持っていない方の手で顔を撫で覆った。顔に描かれた戦化粧。両手で銛を持ち直し、グッと人間の顔に先端を近付ける。
空っぽな頭の中に焼き付いて離れない瞳を貫くまであともう少し。隠している瞼のすぐ下、宝物を見付けたようにキラキラ輝かせ此方を見詰めていた瞳がすぐそこに、ある。

夢か現か。もう限界だと思っていた矢先、明るく楽しげな声に混濁していた意識が鮮明になっていった。椰子の実の体を引き寄せ抱き上げる手と腕が心地の良いこと。
良くも悪くも気力体力ともに枯渇していたがゆえ正体を気付かれずに済み今に至る。
構えていた銛を下ろし先程まで入っていた籠の中に戻った。横に転がっているのでそのまま入って気持ちばかりに傍らに転がっていた蓋を被せた。















カラカラ。コロコロ。ポコポコ。
乾いていてリズミカルな音色が聞こえる。徐々に覚醒するモアナが瞼を数回瞬かせその身を起こし、音の正体は何なのか一体何処から聞こえているのかを探る。
存外それはすぐ傍にあった。
上半身を起こした態勢で対峙する相手はある意味見慣れた相手だった。
「~~~カカモラァアア!?」
小さく愛らしいココナッツはモアナの目覚め一発目の叫びに一切動じず、じーっとモアナを見詰めたまま自身の体を叩き軽快な音色を響かせている。
彼女の視線がカカモラ、倒れた籠そして再びカカモラに向けられた。彼女の脳内は昨日の事を物凄い速さで思い出し再生巻き戻しを繰り返す。
そこから導き出された答えは不思議と腑に落ち、混乱していた頭も気持ちも落ち着きを取り戻していく。
「もしかしなくても――、昨日のココナッツはあなた、よね?」
是と言っているのかポコッとカカモラが体を鳴らす。
「訊かない方がいいと思うけど……、怒ってる?」
何に対してとモアナはあえて言わずにいれば、ポココッと先程より大きな音が返ってきた。
わぁお。これは完全に怒っていらっしゃる。
そう察したモアナの視線が左右に泳ぎ出した。小さな手で掴んでいる銛だっていつ射してくるかも分からない。以前のように、といきたいところだが生憎手元にオールはない。



クイクイ

カカモラの手がモアナのスカート裾を引っ張り、彼女の意識と視線が此方に来たのが分かるや軽い身のこなしで彼女の肩に乗った。
咄嗟に身構えたモアナの口から「うばぁ!?」と悲鳴染みた呻き声に近いものも漏れた。
肩に乗ったカカモラはその手に持った銛で攻撃するかと思われたが、その銛の先はモアナではなく天に向かって掲げられている。声らしい声、言葉らしい言葉が人間と異なるカカモラとの意思疎通は大変難しい。されど敵意はないということは理解できた。
その後、両親に見付かって二人を大層びっくりさせられたが当初の目的とは大分離れているのにはこの際目を瞑る。








「行くわよ~」
ポコッ

モトゥヌイに居着いたカカモラはモアナが航海に出る時、いつも彼女の肩に乗るのでモアナもそれが当たり前となり、航海する際には必ずカカモラを呼びその肩に乗せるのだった。