【マイ耳】胸に突き刺さる声【ヒロアカ】

コミック派の方ネタバレご注意。
耳郎ちゃんが入院中(未だ意識不明)ときいて、もしマイク先生がお見舞いに来ていたらというお話。

昼休み時、教室から食堂に順序良く流れていく生徒たちを廊下の陰から物色していたマイクの視線がある生徒を見つけた途端、楽しげに輝いた。
「見付けたぜガール!」
やあやあ見つけるのに苦労したと云わんばかりの大袈裟な態度。生徒の数人かはマイクの存在に気付くや否や挨拶を交わすが、目的の人物は何事もなかったように通り過ぎていった。その人物の隣を歩く八百万はマイクの存在に気付くなり挨拶をしているにも関わらずにだ。
「ねえ今日の日替わり定食ってな」
「今日の日替わり定食はランチラッシュ渾身の白米カーニヴァルらしいぜ」
「先生すみません、生徒間の日替わり定食談議にしれっと入り込まないでください」
「HAHAHA!相変わらず辛辣っぷり!ところで、ちょっと俺に付き合ってくれ」
「え?ちょっと!?」
耳郎の返事を待たず聞かず、マイクの手が耳郎の腕を引き歩き出してしまった。抗議の声を上げる彼女を他所にマイクと云えば先程まで定食談議をしていた八百万に向かってひらひらと手を振るい軽すぎる謝罪の言葉を送った。

何処ぞの師弟には馴染みのある休憩室。其処に半ば強引に連れてこられた耳郎の不機嫌さは推して知るべし。
宥めるように前に出されたマイクの手が上下に揺れ。そして、何時用意したのか定かではない紙の手提げ袋を二人の間にあるテーブルの上に置いた。怪訝な耳郎の視線が理由を促す。マイクは上半身を前のめり両手が足の間に垂れ下がるよう両腕を足の上に乗せ、いつもとは違う落ち着き払った声で話した。
「それはこの前の詫びだ」
「詫び?」
「実技試験時、お前ココ怪我したろ?」
トントン。マイクが自身の耳付近を叩けば納得したように耳郎が嗚呼と呟いた。
紙袋に描かれている知っている人にとっては有名なロゴ。耳郎の視線がロゴから再びマイクに戻される。
「まさか他の生徒全員に似たようなことしているんですか?」
「まさかっ」
……茶化すならあたし戻ります」
「おう、忘れもんだぜ」
「いりません!」
「そう言うなって。な?」
「だってそれ先生が監修してるオリジナルブランドのヘッドフォンじゃないですか!」
「しかも俺とお揃いだぜ!!Yeah!!」
「よりにもよってお揃いとか嫌がらせじゃん!?セクハラですか!?」
首を横に振り受け取りを拒否する耳郎に対し、何故かマイクは傷付いているようには見えない態度で目元を覆い天井を仰いだ。
「Oh!セクハラと言われちゃ俺の教師人生終わっちまうぜ~!」
傍から見ても楽しげな振る舞いは何処の誰が見ても明らかに傷付いていないと見えるに違いない。だんだんと腹が立ってきた耳郎が思わず席を立とうとしたその時、また喧しいマイクにしては感情の起伏のない声が彼女の鼓膜を震わせる。

「ま、しょうもない先生のわがままっつー事で貰っておいてくれや」
その後、売るなり捨てるなり好きにしていい。
サングラス越しから覗くマイクの何とも言えない視線に耳郎は思わず言葉を詰まらせた。
先程と打って違う空気の流れにこれ幸い、未だ不服申し立ての最中だとしてもマイクは席を立ち彼女を見下ろすように隣に立ち――、耳郎の手を紙袋の持ち手に握らせる。離しても落とさず握っている彼女に気を良くしたのか、筋張った男の手が艶やかな黒髪の上にぽんっと置かれた。
耳郎の目がマイクの目に映り込む。
しかし、その眼差しは疑惑と警戒心を宿していない。それどころか現状を理解できないといった風に目をぱちくりさせた。
徐々に耳郎の頭が回りだす頃にはマイクは飄々と彼女の前から姿を消していた。大方職員室辺りにでもいるだろうが、今の耳郎は唇をもごもごとさせ時間差でやってきた恥ずかしさに紙袋をぎゅっと胸の前で抱え込んだ。気持ち鼓動も速まっている気がする。

「な、に……これ?」
紙袋の中身を見下ろしながら耳郎は一人誰もいない廊下で呟いた。
病院側がやれ無機質で機械的なイメージを払拭しようと躍起になっているお陰か此処最近の病院というものは柔らかで暖かみを感じられる造りになっている。
しかし、微かであるが規則正しい呼吸音と機器から発せられる電子音は如何にも味気なさ寂しさを漂わせた。ノックもせず、カツコツ靴音を響かせた客人が未だ意識を取り戻さない女生徒のベッドに近づく。
一拍置き自動に閉まるドアがスライドを終えて廊下から聞こえていたざわめきも聞こえなくなった。
手近にあった丸椅子を引き寄せ浅く腰掛けた。腕から伸びる管の先、一定のリズムを刻む点滴の雫の音すら聞こえそうなくらいの静寂さ。緩やかに上下する胸元、開く気配のない瞼は穏やかに眠っているそのもの。
「医者が言うには命に別状は無いっていうがなぁ……
寝ている隙に何とやら。起きていたら確実怒られる前に触らしてもくれない頬をマイクは指の背で数度撫ぜた。やはり若い、若さゆえのもっちりしっとり感。見舞客が自分一人しかいない病室でマイクの明かる気な声が虚しく響き、消え溶けていった。
「へいガール。合宿前の勢いは如何した?」
頬から指を離したマイクの手が固く握りしめられる。ギリギリと噛みしめた口元が鈍い音を立て、拳からは血が滲んでいた。
「どこのどいつだ?何処のどいつが情報を敵側に漏らしてやがる?こんなヒデェ事を嗾けた奴は、何処のどいつだ……!!」
声を潜めようとも太く濁った声が病室の窓ガラスを鳴らし、機器や点滴台、ベッドを震わせる。
「ウチの可愛い生徒をこんな目に遭わせやがってよォ。必ず見付けだしてこの落とし前しっかりつけさせてやるぜ」
だが、唯一マイクの声の影響を受けていない耳郎だけは依然として目覚めることなく眠り続けていた。