しろくまたたくはくしゅんさん
2023-05-27 15:53:27
6998文字
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【勝デク】おにショタ サブ×ドム【未完】

かきかけのおにショタザブドムを置いておくだけ

リビングのテーブルの上に広げられているのは、ひらがなの多いテキスト。ぱら、ぱら、とめくられ、最後に閉じられた。
「よし!」
 西日の強い部屋で、出久は冊子をまとめるとランドセルの中にしまっていく。ダイナマイトモデルの防犯ブザーが揺れ、その横のオールマイトキーホルダーとぶつかりきゃんきゃらと鳴る。
「────あ!」
 玄関先の物音に反応し、少年はランドセルを床に転がした。せっかくつめていた冊子が滑り出て、それに気をとられたか足踏みをした彼の足の裏に留め具が食い込む。
「った、」
 身を屈めたのも一瞬で、出久はリビングから続く廊下に出た。シュ、カチ、ガチャ、と音がすると、玄関の扉が開く。
「たでーま」
「かっちゃん!おかえりなさい!」
 帰って来たばかりの男性の腰に抱き着く出久。男は小さな緑の茂った頭に微笑みかけ撫でようとした両手を上げる。
「クソ菌殺してくっから離せ!」
「はーい!」
 出久はリビングに戻るのを傍目に、かっちゃんこと勝己は洗面台の前に立つ。頬に受けたかすり傷の絆創膏を剥がせば、固まった血が剥がれていった。
 出久は転がったランドセルを勝己に見つかる前に閉じた。ソファの横に立てかけ、テレビをつける。ヒーローニュースの前は今日のわんにゃんこというペットの紹介コーナーがはさまる。それを眺めていると、勝己がキッチンへ入っていった。
「なんか飲むか」
「うん!グレープジュースジューシーある?」
「無ェ」
 勝己は同期であるヒーローグレープジュースを嫌いとまではいかないが、小児の教育に良くないと遠ざけている。故に、彼のネームバリューでもあるジュースは決して買わないと決めている。なお、世間一般的に小児教育に良くないとされている最たるヒーローは彼であるが。
 出久がわざと尋ねているとわかっている勝己は、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出すとグラスに注いだ。自分用にはプロテインを用意し、リビングに向かった。
「ありがと」
 ちゅう、とストローに通っていくオレンジを眺めつつ、勝己はプロテインを喉に通した。家に戻ってくるのは実に二日ぶりのことで、西日に目を細めて飲み干した。コン、と空になったシェイカーをテーブルに置くと、出久の真緑の瞳と目が合う。この瞬間だけ、息がつまった。
「────〝おいで″」
 出久の言葉に、勝己の中で張り詰めていた糸がふつりと切れる。くずされた丸い膝に吸い込まれるように、勝己の頭部が項垂れ、収まる。くしゃり、とはねっけの強い自分の髪の毛が潰れるのを聞いた。
 部屋の中に響くポップミュージック。ニュースキャスターの明るい声。爆破音の後に『クソ敵が!!死ねェェェエエッ!!!』と勝己の声の電子音がリビングを通っていく。
『今日もダイナマイトの活躍がピカイチでしたね!』
『昨日から追っていた敵を捕まえた瞬間、かっこよかったですねえ~!!』
 再び爆破音が続く。しかし、ヒーローダイナマイトもとい勝己の耳にはなにも入ってこない。今彼のすべては、する、する、と小さな手が頭を撫でる感覚だけだ。
「かっちゃん……。〝いい子″」
 出久の言葉に、とうとう勝己は目を閉じた。じわじわと滲んでくる幸福感。なにものにも代えがたい温かい褒美の言葉が、彼のつま先からてっぺんまで覆い尽くす。このためだけに生きているといっても過言ではないほどの、ありあまる幸福であった。
 いい子、いい子、と撫でられる手は止まることなく、どこまでも川と海のようにめぐり続ける。
 くすす、とガラスとガラスの擦れる音。西日に雫が煌めいた。
「────あ」
 ぱたた、と白い頬に落ちる透明。曲線をなぞり、伝い、落ちていく先。薄く染まった唇にいきつくと、勝己の赤い目がきろりと出久に向けられる。ええと、と出久は数ある命令句の中から一つを口に出す。
「〝なめて″」
 告げれば、薄花のような唇から舌が伸びる。唾液で湿った舌が、透明な水に浸されて縁どられるのを見て、出久は思わず手に取ったコップをそのままにする。ぽた、ぱたん、と結露した雫が垂れていくと、勝己は瞼を震わせながらも決して舌ですくうことを止めなかった。
 窓の外の茜が遮られる。都会のカラスが二人の視線の間を影で飛んだのだ。は、と出久はコップを戻し「〝よくできました″」と頬の水気を手のひらで拭った。
 勝己は口の中の水分を飲み干す。空気中の水分が凝縮されただけなのに、硝子越しのオレンジが混ざったように甘さがある。再び髪の間をなぞっていく温かさに目を閉じる勝己を、出久はじっと見つめていた。
 夕暮れは澄んだ空をどこまでも茜に染めていく。