hatahata
2023-12-02 12:00:13
10723文字
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円・縁・Engage

「ようこそ怪異の宴へ〜第二夜〜」開催おめでとうございます&有難う御座います!


打ってる間ずっとス●イル・●ンゲージが脳内に流れていました。あんなきらきらした良いもんじゃない。

シビトちゃんに「婿じゃねぇ!契りも交わしてねぇ!勝手な事ばっか言うなー!」と叫び続けた怒りを込めて、真八に結婚してもらいました。つまりそういう事です。



「一方的かつ認知されていない勝手な約束と、双方合意の上でその上八敷が幸せそうに笑う約束、どちらが重いかなんて明確だろ」

薄れつつある身勝手な証をあざ笑いながら、隈の濃い男は歯を見せて凶悪な顔で笑った。



■□■□■


───それは、先々月半ばの出来事だった。

「あれ?」

不意に九条館の主───八敷一男から小さく不思議そうな声が零れたのを、偶然様子を見に来ていた有村クリスティが聞いた。

「どうしたの、八敷さん」
「いや……覚えのない怪我が増えていたから、不思議に思って」
「あら、大丈夫?ちょっと見せてもらってもいいかしら」

そう言ってクリスティは、ひょいと八敷の手を取る。爪の先まで手入れの行き届いた白魚のような女性の手と、節榑立ふしくれだちささくれや切り傷等の散った男の手の対比が何となく滑稽だが、それを笑うこともなく……むしろ整った眉をぎゅっと寄せて、八敷の左手、その薬指を見た。

……何よ、これ。気味が悪いわね」
「だよな……なんと言うか、綺麗過ぎる」

2人の言葉通り、八敷の左手薬指の根元を半周回るように、やけにぴしっと1本筋が通るような痣が出来ていた。青紫色のそれは恐らく真新しい、しかし本当に、いつそんなところをこんな風にぶつけたのかが解らないのだ。

……変ね、こんなところをぶつけたらきっと痛いし、気づかない筈もないわ。貴方のことだからまた変なものに目をつけられているんじゃない?」
「そ、そんな事は……
「無いとは言いきれないでしょう?」
「む……

クリスティの言う通り、八敷が何か行動を起こしたところ何故か変に目をつけられる、という事例はそれなりにある。というかそもそもその筆頭が、今はまだ桐箱の中に眠る西洋人形だ。
しかし、この奇妙な痣については本当に心当たりがない。ここ暫く怪異に関する調査もなく、蔵の整理を思い立った日もなかった。やはり、気付かない内にぶつけたのだろうか?しかしそれにしては細くて範囲が狭い。
もやもやとした気持ちのまま眉を顰める八敷に対し、「本当に何もしていないの?」「行った先にお社や廃墟は無かった?」と事細かに聴取して、八敷が迂闊うかつな事をしていないと確認を取ったクリスティは成程ね……と小さく溜息を吐いた。

「八敷さん、念の為真下さんに連絡を取っておいた方が良いわ」
「ん?……な、何で、真下が」
「個人的には気に食わないけれど、八敷さんの事ならあの人が一番真摯しんしで解決に近いでしょうからね……
……?」

渋々、といった様子のクリスティに、言っている意味がよく解らず八敷は首を捻る。しかし、小さいとはいえ青黒いそれは手の甲側にある分案外目立つし、それなりに非現実的な事への感知力が高い彼女が真下には伝えておけというのであれば、雑談ついでに話しておいてもいいかも知れない。下手に隠そうとして面倒な事になるよりは、こんな小さな傷くらい鼻で笑い飛ばして終わるだろう。

■□■□■


「───という経緯があったんだ」

居酒屋の一角、このガヤガヤと騒がしい、酒と煙草と油の濃く漂う空気にそれでも溶けることの無い低い声がそう締め括る。突然八敷から連絡が来て「飲みに行かないか」と言うものだから、何か話したい事でもあるのかと了承してみれば案の定つらつらと語り始める、真下はビールのジョッキを半分程空けつつ相槌を打つくらいしか出来なかった。

「で、その痣ってのは」
「あぁ、これなんだが……

一区切りしたところで先を促してやれば、ひょいと八敷の左手が差し出される。その薬指の根元には確かに一筋青紫色が通っていて、まるで紐か何かを巻き付けてぎゅっと絞ったかのように真っ直ぐで細い痣だった。

「成程な。あの女と同意見なのは癪だが、確かにこれは妙だ」

自分に話を持っていけと忠告してくれやがった件には感謝してやってもいい。そう思い、真下は人差し指で八敷の薬指を掬う。そうして指の股に隠されていた肌が僅かに覗き、そこからふと、違和感に気付いた。

……おい、八敷」
「何だ」
「この痣、まさか広がる……いや、伸びたんじゃないだろうな?」
「流石、鋭いな。あぁ怒らないでくれ、今から話すつもりだったんだ」
「チッ……貴様、何でそんなに呑気なんだ……!」

指を浮かせて、その痣が掌側にまである。八敷は『甲側の根元に1本線を引いたよう』だと言っていたのに、これではまるで───

(輪、じゃねぇか……)

───八敷自身の血で彩られた、指輪のようだ。

「徐々にな、そうなった……おまえに連絡をしてから今日までの間に、少しずつ。どうにか侵攻を止められないか、冷やしてみたり、書庫に類似案件の情報が無いか探ってみたりしたんだが、なしのつぶてで」
……貴様、本当あのお節介女に感謝しろよ」

こんなにも些細な傷が、薄くなるでも広がるでもなく、筋のような形を保ったまま伸びるなど普通であれば有り得ない。クリスティが八敷に真下を頼れ、と言っていなければ、このボケ中年は間違いなく1人で行動していた。仕事が溜まっていて、誘いを受けてからやや日数が空いた事が心底悔やまれる。
……しかし、恐らくまだ間に合う筈だ。希望的観測かも知れないが、まだこの痣は繋がっていない。円周に例えると半ば程。ならば、もしこの奇妙な内出血が本当にクリスティの懸念通り、人の理から外れた者の仕業であった場合……タイムリミットは痣の端と端が繋がり、八敷の薬指がすっかり囲われてしまうまでだろう。
その時に何が起こるか。
「左手の薬指」に「輪状」の痣、想像に難くない……

……おい」
「ん?」
「明日、少し時間を寄越せ」
「あ、あぁ……構わないが、仕事の手伝いか?」
「そのついでだ」

仕事を投げ出す訳にはいかない。しかし八敷から少しでも目を離して、その間に状況が悪化する可能性がある以上、一刻も早く対処する必要がある。幸い明日は仕事の合間に少し時間が空く、この自分の事に関して腹立たしい程鈍い男に、思い知らせてやるのだ……八敷一男を手中に収めたいのは、なにも怪異だけではないと。



END.