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納豆
2021-12-31 16:35:59
9454文字
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忘じに所望
一緒に年越ししたい🐉と👑
1
2
毎年、この時期のチャンピオンは忙しい。
最後の日までガラルの興行を盛り立てるために、チャンピオンはある。
一年の最終日、シュートスタジアムで行われる一大行事。
今年は新たな女王が、初めてこの役割を全うする。
フェアリーと悪のジムリーダー、そうして伝説に選ばれた英雄が二人、彼女の周りを囲んである。
子供たちの未来にいく姿を、どうか皆で応援してほしい。
そうとばかりに組んだエキシビジョンは、果たして成功とあいなったのだろう。
スタジアムの中心で、五人の子どもたちが手を繋ぎ、そのまま大きく振り上げた。
それに合わせて、観客が歓声を大きく上げて返すのだ。
「それではみなさん!良いお年をー!」
ぴょんっと飛び跳ねた子どもたちの姿に、会場は微笑ましさやら愛らしさやらで穏やかな拍手で締め括られた。
うん、上々、よくできました。
俺もにこにこしてしまいながら、関係席から拍手を送る。
毎年、チャンピオンとジムリーダーによる年末エキシビジョンは開催されていた。
新年に向けての箔付け、そんなものにもできていたのかもしれない。
時間は未だ夕暮れ時の六時を過ぎた頃。
しかして、未だ未成年の彼らを深夜帯まで拘束するわけにはいかない。
なので、少し年末の挨拶には早いがここまでがチャンピオンユウリの業務である。
子ども達はきゃあきゃあと顔中ぺかぺかに笑ってしまいながら、スタジアムの端から端まで走っていってはぺこりとお辞儀をして回る。
一人、フェアリーの新米ジムリーダーはげんなりとしているが、引っ張られれば負けるらしい。
四人分の勢いにされるがまま、しかたなしにもついていってやっている。
俺の周りで段取りを確認するスタッフ達も微笑ましそうにくすくす笑う。
そろそろですと撤収を促されて、楽しそうな子ども達に苦笑した。
「あれを、俺が止めるのか?」
「我々には罪悪感がすごくて」
「俺だってあの子達の邪魔はしたくないぜ」
「責任者ですから」
押し付けられる終わりの合図に、俺は頬を指でかく。
折角あんなに楽しそうなのになぁ。
俺も少し覚えがある。
つと、目をやれば真ん中にいるユウリがこけかけて、左右のマリィとホップが慌てて支えてやっていた。
一番端を任されたビートとマサルはぐんっとその場で踏ん張ってやるのだから頼もしい。
ビートがユウリを叱りつけるのを、けらけら笑って受け止める四人はどうにも朗らかだ。
あそこだけは、彼らはただの子供でいられる。
俺も、多分、そうだった。
エキシビジョンは毎年違う相手だったけれど、最後の挨拶には必ず同じ相手が来てくれた。
ついむにょりと緩む口元を片手で隠した。
俺もあぁやって、彼と手を繋いで駆け回った。
行く方向が違うと面倒を見てもらいながら、あっちだこっちだと走り回ったあの時間は、一年でとっても好きな時間だった。
思えば、初めてかもしれない。
感慨にも息を吐き出す。
チャンピオンを降りて初めての年越し、そこには小さな不足感。
物心ついた時には、年越しには必ずキミがいたから、なんだか変な感じだな。
脳裏を埋めた、嵐に立ち塞がる姿を思う。
委員長、促す声が思考を止めた。
俺はふるりと首を振っては、放送機器に近付いてスタッフに目をやった。
スタッフは一つ頷き機器のスイッチを押すから、俺はマイクに唇を寄せるのだった。
「さぁ、小さな我らが女王さま、そろそろおしまいの時間だぜ」
声はこちらに届かないが、ユウリとホップから、えぇええと不満そうな身振りをされる。
会場がどっと可愛らしさに笑うから、これはこれでいいだろう。
俺はふはっと笑ってしまいながら、駄目だときっぱりと言い切った。
そうして、ガラルの観客皆々様へご挨拶。
「今年も、応援をありがとう!きっと来年もみんなを楽しませる年にすると約束しよう!また、ここで会おうぜ!」
上がる喝采は年を越えていくのだろう。
美しく野蛮なこのガラル、次も良い年を迎えよう。
熱の飽和したスタジアムを、拍手が更に埋めてあったのだった。
◇◇◇
きらきら輝く五人分の瞳。
ぱっと俺に一斉に向く五人分の顔。
俺はにこりと微笑んだ。
「頑張ったキミたちへのご褒美だ。ロンドロゼ最上階、貸切だぜ」
少し奮発し過ぎたかもしれないが、これくらいの甘やかしは許してほしい。
可愛い後輩たちの年末初仕事、それを見事にやり遂げてくれたのだ。
褒めてやって然るべきである。
ユウリとホップは飛び跳ねてこちらへ突撃、喜んでからはっとして戸惑った様子のビートにはマサルとマリィがくっつくから、俺はついにんまりしてしまうのだった。
「やったぁ!ダンデさん大好き!」
「アニキ!ありがとう!ユウリ!今日は年越しまでお菓子パーティーだぞ!」
「ははっ、いいぜ今夜は夜更かししても構わない」
「いや、でも僕は、帰らないと」
「大丈夫、ポプラさんにはきっと委員長が話通しとるよ」
「そうそう、折角だもの一緒に遊ぼうよ」
「そうだぜビート、既に話は通してある。あぁ、一応言っておくが、いつものキャンプみたいに一緒に寝るなよ。女子と男子で部屋は分けてるからな」
「ゼンショします!」
これはきっとみんなで一つのベッドに折り重なっているな。
覚えたばかりの単語で元気よく返事をするユウリに吹き出した。
まぁ一応言ったには言ったからいいか。
俺の腹に抱き着いたままのホップとユウリを撫でてやりながら頷いた。
二人は俺に撫でられてにまぁとしてから、ぱっとすぐに離れていく。
いそいそとビート達に混ざっては、探索しようと誘いかけている。
さて、ここに大人は邪魔になる。
俺は満足に頷いて、五人に声をかけた。
「それじゃあ、明日はまた午後一時から仕事が入っているからな!忘れるなよ!」
「はぁい!」
元気なお返事だ、よろしい。
俺はそのまま部屋を出た。
そうして息を一つ吐き出す。
なんとか、終わったか、初めてのリーグ委員長、出来はどうだったろう、いや、まだ始まったばかりだ、まだまだこれからやりたいこともやれることも増やして行こう。
そのまま廊下を行く。
一人だ、腰のホルダーにリザードンはいるけれど、一人だった。
いつもなら、そうだな、去年までなら業務が終わればキミがいた。
俺よりも大きな掌が俺の手を握り締め、大きな上背が先導してくれた。
その背中を見て、一緒に走って、白い息を吐き出し笑って、彼の家に連れ込まれて、年の終わりと年の初めを過ごしてきた。
キバナが、いつも、そばにいてくれた。
忙しなく駆け回る一年の中で、最初の頃は家に帰れるのも年に数回、そんな中で寂しくないようにと、優しく大きな竜はそばにいてくれた。
子供の頃で終わることはなく、大人になってもキバナは続けてくれた。
今年もやるぞ、彼はエキシビジョンの後に誘ってくれた。
今年からは、それはない。
気付きは、昨夜の夜だった。
明日は、そうか、キバナはいないのか。
ぽっかり空いてしまった時間に、正味な話、驚いた。
当然だったものがなくなることを、俺はすっかり忘れていたのだ。
毎年の癖で、実家には帰る予定を立てていないし、ソニアに連絡でもしてみようか、毎年、ルリナとシュートで年越しをしていると写真が送られてくるし、今年もそうだろう。
混ぜてくれと言えば、彼女達のことだ、快く受け入れてくれるに違いない。
違いない、のだが。
それをすぐに行動に移さなかった辺りで、俺の意気地のなさが透けて見える。
昨夜の時点で、この後が暇になることは分かっていた。
なのに、どこにも連絡をしなかった。
つまるところが、だ。
期待をしている。
多分、そうだ。
自分からは行かない癖に、彼が来てくれるのを待っていた。
キバナと仕事は被っていない。
エキシビジョン戦も今回はキバナは関わっていないから、当たり前に彼はいない。
気恥ずかしいほどあたりまえに、けれど、彼のいる年の終わりがまた来てくれると信じていた。
最上階はいい、進めば角にぶつかる。
だからエレベーターもすぐに辿り着く。
ここは専用のカードキーがなければ登れない階なので、人は来ない。
だから俺は下ボタンを押しながらも、こつっと壁に頭をぶつけた。
「
……
馬鹿か、俺は」
子供じゃない、だけど、大人にもなりきれていない。
だから、こんな幼稚な真似をして、恥ずかしさに呻くのだ。
何も言わないでも、キバナは来てくれるんじゃないかって、まだ待っている。
むずむずと唇をまごつかせる。
キバナだって、もう今年からは俺と仕事が被ってる訳じゃないんだから、態々足を運ぶわけがない。
ナックルからシュートまで、俺のためだけに、馬鹿げている、あるわけがない。
なのに、連絡をしないのは、彼に期待してるからだ。
少しずつエレベーターが昇ってくる。
拳を握って溜息を深く吐き出した。
ゆるゆる壁から頭を離れさせる。
腰のホルダーではリザードンがボールをかたかた揺らす。
それはせっつくようでいて、俺は顰めた顔付きにもボールに目をやる。
その先でリザードンは呆れた様子でこちらを見上げていた。
「なんだよ」
俺の小さな声に、別に?とでも言いたげにぼっとリザードンは火を噴いた。
この兄弟分はわかっている。
俺の幼さを理解して、またかたりとボールを揺らした。
ホルダー全体を揺らしたリザードンに、俺はぺしっとボールを弾く。
リザードンは俺の反撃を不服そうにして、じっとりした目線を突き刺してくる。
それに顎を引いたとき、ちんっと目の前で音が立てられる。
エレベーターの到着、開いたドアに入っていく。
一人と一匹の箱の中、短いやり取りはとんとん続く。
「別に、来ないなら来ないで仕方ないだろ」
ことこと、とんとん。
「
……
キバナだって、その、恋人くらいはいるだろうし」
とんっととんっとん。
「年末の予定が埋まってる可能性もある、だから、俺は気を回して」
とん、こつん。
「っ〜!なんでリザードンがそんなに気にするんだ!」
ちんっ音が鳴る。
もう一階についたのだろうか、思いながらも俺はこそこそとリザードンに言い返す。
「キバナと過ごせないのが、そんなに悪いのかっ」
「オレさまがなんだって?」
なるべく声は絞ったつもりだったのに、それはうまくいかなかったらしい。
どころか、返事が返ってきた。
ぽかん、ボールを握ったまま驚きに固まる。
あんまりにもリザードンがしつこいから、ボールから表に出てこいと引っ張り出そうとして握り締めていた。
ぎしぎしぎこちなく顔を持ち上げる。
その先では開いたドアの先から、素知らぬ顔して乗り込んでくるキバナがいた。
キバナが、いるのだ、今ここに。
なぜ、一体どうして、なにがどうなってこうなって。
一挙パニックに落とされながらも、はたと気付く。
今、聞かれてたよな。
じわりと頬が染まる。
羞恥に、色を増した顔を横目で見られた。
リザードンとの言い合いも恥ずかしかったが、それより何より会話の内容だ。
階数を確認する。
まだまだ上の階、下に着くまでは時間がかかる。
途轍もなく、気まずい。
俺はそっとボールから手を外してエレベーターの隅に移動する。
けれど、そんな俺に目を瞬かせたキバナは口角を緩やかに持ち上げて距離を詰めてきた。
ぎょっとして肩を跳ねさせた俺に、キバナはくすくす口元を押さえて笑う。
そうして、とんっと肩をぶつけてくるから俺はそっと顔を逸らした。
「キバナは、その、仕事か」
「うんにゃ?今年のナックルジムは早目の店仕舞い、スウィート取って余暇を楽しんでるとこ」
「へ、ぇ、そうか、それは、いいな」
「うん、ほんとは最上階取っちゃおうと思ってたんだけど、先越されちゃっててさぁ」
「あ、それは、すまん、俺だ」
子供達へのご褒美に、使ってしまった。
まさか、キバナが態々部屋をとって過ごすとは思っても見なかった。
だって、いつもなら俺を、家に連れ帰ってくれる、から。
頭の中で浮かんだ幼稚さを振り切る。
そのまま勢いの反射で顔を戻して謝った。
その先で、キバナはぱちくり目を丸くする。
それから、すぅっと細まる瞳、にやりと持ち上がる口角、これは知ってる、俺を揶揄う時の顔だ。
私生活において、俺は結構キバナに遊ばれることが多い。
基本的には優しいが、ちょっぴりの意地悪さもキバナは含んでいる。
また遊ばれると身構えれば、キバナはほほうと愉快そうに声を転がし、俺の額を突くのだった。
「なんだなんだ、委員長さまも隅に置けないねぇ?どこぞのご令嬢でも口説き落とそうって?いやもしかしてもうコトはおすみ?」
「っ!ばっか、を言うな!違う!子供達へのご褒美だ。キミ見てないのか、今日の大晦日エキシビジョン、あの子達すごく頑張っていたんだぜ」
キバナはこうやって人を揶揄う。
慣れない俺も悪いのだが、毎度かっと赤くなる頬で遊ばれるのだ。
キバナは俺の反応ににーやにーやしながらも、ふっと息を吐き出した。
ふぅんそう、軽く受け流す声音に目を眇める。
キバナは人の色めいた話題を揶揄う癖に、何もないと知るとすぐに興味をなくす。
楽しむだけ楽しんで次の遊びを探すから、全く油断がならない。
このからかいを越えれば、後はポケモンについての楽しい話題だけだから構わないけれど、毎度このジャブはどうにかしてほしい。
眉間に皺を作れば、キバナはごめんごめんと謝って黙り込む。
いつもならここからバトルでもと誘ってくれるものだが、それがなくて拍子抜けだ。
俺もだが、キバナも大概バトルが好きだ。
中毒症状があるといっても過言ではなく、目と目が合えばさぁバトル、それが俺たちの普通だった。
けれど、はたと気付きを得る。
キバナは今日、誰かとここにきているのかもしれない。
俺が部屋をとったと言えば、誰かとの逢瀬を持ち出してきたし、そうか、キバナもそうだから、なのか。
ちくんとした、小さな違和感、それは胸の奥で疼いた。
今年からは、もう、キバナは一緒にいてくれない。
王座をなくすともになくなった習慣に、寂しさがあったのだと思う。
どうせならもっと早く、キバナに連絡すればよかった。
誰かに先を越される前に、その隣で年越しする権利をねだればよかった。
かたん、リザードンがまたボールを揺らした。
目線を落とす。
その隙間、もう少しでロビーのある一階に着こうという頃合い、キバナが俺を呼ぶ。
だから、そちらに目元を持ち上げれば、唇をヘタクソに尖らせる彼がいた。
「あー、その、さ、お前さっき、俺と過ごせないのがどうとか、リザードンに言ってたじゃない?」
聞かれていた、そりゃあ、そうだろう。
しかし、改めて突き付けられて、俺はかっと熱を上げる。
なるほど、今度はこれをネタにからかうわけか。
うぅと呻きながらも、首を差し出すようにして、無言でこくんと頷いた。
キバナはけりけり床を蹴る。
いじるなら、一思いにいじれ、年末を過ごす友人もいないのかなんて、笑えばいい。
ぐぅと奥歯を噛み締めしょぼしょぼ項垂れる。
流していた髪がさらりと視界を覆う。
完全に俯いた俺に、キバナは体を屈める。
下から覗き込む仕草に眉を寄せたまま返した。
キバナはそっと伺うようにして、俺の顔にかかる髪を退けて小さく笑った。
「ダンデがよければさ、部屋来ない?」
「
……
え」
なくなったはずの習慣は、何故だか前に差し出される。
ぽかんとして徐に顔を持ち上げる。
キバナは言葉を続けない俺に、あわりばたりと手を慌ただしく動かせる。
その際に、まずは俺の髪を丁寧に肩に流すところが、キバナがキバナたる仕草である。
俺のような図体の男にも紳士的に振る舞う。
肩に流された髪を扱う指先、そこから続くキバナの顔を見やれば、俺みたいにじわりと赤く染まってあったのだった。
「いや、ほんとっ忙しいってのは、わかってる!駄目なら断ってくれていいし!いやぁなんか毎年お前と過ごしてたから落ち着かなくってさぁ!予定が入ってるってんなら!ほんと!全然!ことわ」
「いや、だぜ」
断れなんて言わないでほしい。
俺は、本当はキミがそうやって誘ってくれるのを待っていた。
そんなものを待ち続けた子供染みたダンデなのだ。
折角与えられたものを、押し返せだなんて言ってほしくなかった。
だから、ふるふる首を横に振る。
キバナはそんな俺の返答に、がんっとなぜかショックを受けてふらりと距離をとる。
何故だ、距離を取ろうとするな。
慌てて俺はキバナの腕を捕まえた。
ぎゅむっと彼の腕を胸元に抱き込んで、キバナをこちらに引き寄せる。
わぁと声を張り上げられたが、逃がすわけには行かない。
だから俺は重ねて首を横に振った。
「断りたく、ない。予定も、ない」
「え、あ、そっち」
途端にほっとするから、俺は言葉が足りていなかったと知る。
こくこく頷き、俺は内側がほわほわ温まるのを感じた。
嬉しい、そんな柔さが俺の中身を埋めていく。
自然と浮かぶ笑みに、俺はキバナの腕を一度外した。
もう逃げないのなら捕まえておく必要もないだろう。
俺はえへらと抜けた笑みを止められない。
キバナは俺の完全に弛緩した表情に、むにょりと口元をまごつかせた。
俺ははしゃいだままに、ぴったりキバナにくっつき上目を見せるのだった。
「俺は、キバナと過ごせない年末がすごく寂しかったみたいでな!さっきまで落ち込んでいたんだが、でもキミは誘ってくれて、ふふっ、あは!駄目だな、嬉しすぎて、笑ってしまう」
許されるなら今すぐ飛びつき、抱き締めたいくらいだったが、ロビーに着いてしまう。
人目がつく場所での派手なパフォーマンスは、混雑を呼ぶ恐れがあるため控えている。
だから、寄せていた体を離しておく。
にこにことキバナを横目で見上げれば、顔を真っ赤にも笑みで固まり動かなくなっていた。
怪訝にそっと覗けば、ぎしりと顔を傾けたキバナは両手でそこを覆って呻く。
声になっていないくぐもり声は野生の威嚇音にも似ていた。
「大丈夫か?」
「いや、うん、へーき」
「それならいいが、あ、キミこの後どこか行くんじゃなかったのか?」
一緒に降りてきたということは、そういうことだろう。
用事が済んでから遊びに行かせていただこう。
そう思って予定を確認するが、キバナは指の隙間から目を覗かせる。
しょんなり下がるその柔らかな瞳も、キバナらしくて俺は好きだ。
にこにこ見上げていれば、キバナは手を退かしてちょいと俺の肩を突くのだった。
「用事、済んでる」
「ん?俺か?」
こくんと頷いたキバナは、くしゃりと顔をしわくちゃにする。
つんつこつんつこ、長くて綺麗な指先が幼い仕草に俺を突く。
それがおかしくてくすくす笑って受け入れる。
キバナは俺から指を退けて行きながら、そっと目線を逸らしたのだった。
「
……
そう、お前を探しに行こうとしてたの」
断るなら断っていい、そう口にしていた男は俺を探して降りてきていた。
もしかして、キバナも俺が思う以上にこの年越しを楽しみにしてきてくれていたのだろうか。
俺はもうどうにも堪らず噴き出してしまった。
それと同じく、ちんっとエレベーターが到着を知らせるのだった。
「わっは!なんだキミ!だったらやる事ないじゃないか!もう部屋に行くか?」
「情緒ねぇのよ!まずディナー!」
ばしっと腰を叩かれて俺はけらけら笑ってエレベーターを出る。
夕食か、それならどこに行くか、キバナなら美味しい店を知っているだろう。
足取り軽い俺に、キバナはいつも通りに手をとってくれる。
未だに俺よりも大きな掌、ごつごつしているけれどきちんと手入れの行き届いた長い指先がするする俺の指に絡まる。
すっぽり包まれて、俺はふふっといつも通りに嬉しくなった。
「予約してあるから、間に合うように行かなきゃな」
「わは!キミ用意が良すぎないか」
「いーから行くの!」
いつも通りにキミが俺を引き連れる。
変わらない大晦日、新年を迎える時もキバナが隣にいればいい。
今夜、夜を過ぎてもそばにいたいのだと、キバナにお願いしてみようかな。
そんなことを考えながら、俺はキバナと共に夜のシュートを駆けていた。
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