納豆
2021-02-18 22:40:45
1861文字
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秘密の傷

一ページ目がダンデさんで二ページ目がキバナさんです


鼻歌混じりに戻ってきたその人に、私はふむと考える。
控え室、ベンチで待っていた私の前戻ってきたその人は、床に敷いたマットの上で寝転がってストレッチを始めた。それはいつものルーティンだから気にしない。タッグを組むときにはよく見る光景だ。
だけれどそう、やけに触る箇所が気になる。
グローブの上、こりこりと撫でる仕草は態とらしい。最後に俯せに体を弛緩させて調整に入る。その姿に瞬きをしながら、私はベンチから立ち上がる。ひょこひょこ近づきしゃがみ込む。
そんな私に上目遣いでにぱりと笑って、どうしたなんて尋ねてくるから、ついと人差し指を差し向け落とした。
「何、したんですか」
端的に尋ねた私にキバナさんはきらりと虹彩を煌めかせる。
どこか浮かれ調子に、わかっちゃったぁ?なんて笑うから私の目尻はしおしお下がる。いらないことを聞いてしまった。これはちょっぴり悪手だ。
むぅと唇を拉る私にお構いなしに、腕枕に顎を乗せするする指先を伸ばしていく。かっくんと手首を曲げてグローブに指を滑り込ませてはくくぅと布地を捲り上げる。顕になる親指の付け根には、ぐちりと皮膚を食い破った二箇所の小さな傷がある。
未だ新鮮な傷口はうっすらと血を固まらせて、その周りを赤黒く鬱血させる。洗ったりはしたんだろうが、手当てはしていない。
そうして思考はこちかち巡る。
先程、この人はとある人を見つけたと意気揚々廊下で別れた。全く持って浮かれ倒していて私は益々目元を歪めたのだった。だって今日は兄が組む相手だ。変なものを兄に見せては欲しくない。
じっとり睨む私にキバナさんは堪えた様子もなく、静かに微笑んでいた。
「いいだろ、自慢」
「大人気ないなぁ」
溜息混じりに呻いた私にキバナさんはにっぱり笑って体を起こす。
そうしてぐっぐっと伸びをして立ち上がる。見上げた体は大きくて、あぁ確かにあの人の隣に並ぶに相応しい身姿だなと思った。
「お前は素直な反応で可愛いねぇ」
「どうでもいいですけど、お兄ちゃんには見せないでくださいよ」
むっすりする私にキバナさんはにこりと笑んで手元を隠し直した。
そのまま何も言わずにコートへつながる通路へ向かう。まさかと声を震わせて、慌てて立ち上がり追いかければキバナさんはぽりぽり頰を掻いたのだった。
「手当てはしたし、それに頸らへんだったしなぁ」
「隣にいたら見えちゃいますよ!」
「えぇ?そぉ?」
わかってる癖に白々しい言葉尻に目を剥いた。そこまでして主張したいものだろうか。私はがっくり項垂れとぼとぼ歩く。
「大人気ないなぁ」
「ふふふ、お前もそのうちわかるさ」
そんなものわかってたまるかと、私は惚気に勤しむ竜の嵐を蹴り上げたのだった。