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不破
2022-08-11 21:57:37
4877文字
Public
空戦
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#5
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「サイードが?」
誰も居なくなったホールを後にし、ベルリンのランディングに到着したラザフォードは先を行くハーティアが口にした名に目を細めた。
サイード。中東に位置する国家であり、シンクレアによる和平協定が執られていた時代から、協定内の枠組みで協力体制にはあるものの、宗教観の違いによって常にいくつかの国と一定の距離感を置いていた首長国連邦だ。
「
……
ええ、わかった」
と、ハーティアが短く応えて通信を切った。そしてすぐにこちらを振り返ると、厳しい表情で言った。
「サイードがメルゼブルクに軍事介入警告を出したそうよ。間もなくサイードの攻撃艇がここへも到着するわ」
「メルゼブルクの返答が望むものでなければすぐに攻撃すると?」
「そのようね。すぐにベルリンを出るわ」
言いながらも赤いドレスの裾を翻してブラッドローズへと続く舷梯に足をかけたハーティアに続いてブラッドローズへと乗り込んだ。
「艦橋、聞こえるな? すぐにベルリンを立つ。管制は無視して良い」
先んじて艦橋へと連絡を入れながらも廊下を歩き、その船体をエンジンが揺らし始めるのを感じながらハーティアに声をかける。
「少し手荒になるかもしれないぞ」
「非常時だもの。かまわないわ。ええ、かまいませんとも。クルクスの船団に合流後、急いでロンドンへ戻るわっ
……
!」
と、回転を上げていくエンジン音に揺れる船体が揺れた。ランディングの固定台から離れたのだろう。一層音を大きくするエンジンに船体を僅かな浮遊感が揺らす。
ヒールのついた靴にふらついたハーティアを右腕で抱きとめながらも、窓の外に見えるベルリンのランディングが離れていくのを目にする。
「
……
ありがとう。急ぎましょう」
すぐに体勢を整えたハーティアが踵を返して艦橋へと向かう。それに続いて足早に廊下を進んだ。その最中にも、廊下に設置された窓の外では見る見る内にベルリンが離れていく。眼下に広がる青空を背景に、その都市が全貌を示した。
空に浮かぶ天空の都市。それが、かつて地上を滅ぼした自分達人間が辿り着いた、新たなフロンティア。かつての地上に存在した都市の名を冠した数多の天空都市が世界各地の空に浮かぶ。それが、自分達が新たに作り上げたリベルタリアという空の世界だ。その空の世界で長らく続いてきた平和が今、この瞬間に大きく揺らいでいる。人間はかつての地上で引き起こした過ちを、この空でまたしても犯そうとしている。
その事実に、ラザフォードは猛りと同時に、小さな昂りを覚えた。
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