まめ
2023-12-24 20:24:07
2746文字
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【SS】謎解きはチキンのあとで(平万)

【gnsn】現パロ平万のクリスマスSS




「ありがとうございましたー!!!」

販売時間は少し過ぎていたけど、鼻と耳を真っ赤にして息を切らせたサラリーマンらしきお兄さんを追い返すことはできなかった。
最後のケーキを売り切って、ぺらぺらの赤い帽子を取ると、店長に軽く挨拶をして早々に事務所を出る。
冷たい指先で、履歴の一番上にある名前を選んで発信。いつも同じコールの数で出てくれるから、一回多く鳴っただけでほんの少しだけ不安になってしまった。

「平蔵。終わったのか?」
「うん、ごめんね。ケーキ残らなかったよ」
「それはよかった」
「でも買って帰るから、うちには来て!」

クリスマスケーキを販売するアルバイトは、僕にとって用意したきっかけのうちのひとつだった。
万葉と自宅でクリスマスを一緒に過ごすためにはどうするか。一週間前のイヴの天気予報は雪で、もし客足が落ちて余ったらケーキを引き取るから一緒に食べようと持ちかけた。
当日は星が見えるほどに晴れてケーキは残らなかったけど、約束が目的だったんだから問題ない。というかそのほうがいい。

「もちろんそのつもりでござるよ、ケーキはこちらで買って参ろう」
「いいの?コンビニとかでいいからね」
「わかった」

友達から恋人になって、これ以上求めるものはありませんという顔をしておきながら、その実何もかも足りていないことをお互いに分かっていた。
しかし情けないことに、一年経ってもどうしたらいいのか何もわからない。それなりに楽しく過ごせているせいか、切り替えるスイッチのようなものが見つけられないでいる。僕は謎解きが得意だけど、もう頭でどうにかなるものではないらしくて、目の前にぶらさがった聖夜という紙切れに飛びつくしかなかった。
謎解きは答えが合っていれば正解、でもこれは僕以外に誰も答えてはいけない謎なのだ。少しくらい焦ったって仕方ないよね?





昨日の朝から掃除した部屋にもう一度掃除機をかけ、換気をする。冬のつめたい風が火照った頬を冷やして気持ちよかった。
湯沸かしポットに水を入れ終わった時、ベルが鳴った。玄関を開けた次の瞬間ケーキのものとは違う良い匂いがして視線を向けると、気づいた万葉が笑って片手を持ち上げる。

「腹が減ったであろう、鶏を揚げてきた」
「嘘でしょ、もう大好き」

万葉は器用で何でもできるから、普段から料理もしているようだ。でも、揚げ物を好んで作る方では絶対にない。僕のためにわざわざ作ってきてくれたんだと思うと、それだけでお腹の底まで満たされる心地がした。
もちろんそんな気がしただけで、朝から大声を張り上げケーキを売り続けた腹は、実際にはこれ以上ないほどにペコペコだ。

ありがとう、とケーキの箱(コンビニでいいって言ったのに)とチキンを受け取ると、万葉は上着を肩から下ろす。初めてのデートも冬だったから、その日に着ていたミルク色のニットだった。少し浮ついた頭のまま、あがってくれと促し彼の定位置を案内した。



万葉の作ってくれたチキンは本当に美味しかった。丁寧につくったのだろうなということが舌でもわかる。多分ものすごく幸せな顔をしてたんだろう僕を見て、万葉もつられたように笑う。
しかしすぐに、そんなに急いで食べると胃に良くないなどと言うので、僕は目だけで反論しつつゆっくりと飲み込んでから口を開いた。

「だって、揚げものをめいっぱい楽しめるのは今だけだよ」
「そんなことはなかろう、気をつけさえすれば、いつまでだって楽しめる」


——それって、ずっと一緒にいてくれるってこと?

頭の中でならなんだって言えるのに、いつも万葉の反応を伺ってしまう癖が邪魔して出てこない。そこにもし戸惑いの色を見てしまったらと思うと怖かった。彼が嘘をつけないというより、己の鋭すぎる勘が今は煩わしい。
せめて外れたことがあればいいが今まで一度も違えたことはない。思いを告げた時だけは、このうえなく助けられたものだったが……

「揚げものであろうと何であろうと、ゆっくり噛んで食べる方がよい」

押し黙った僕を見て何か勘違いしたのか、万葉はご親切なアドバイスをくれた。思わず笑ってしまうと同時に、本当にずっとずっと一緒にいたいという気持ちが溢れてくる。
彼のつくったものでお腹を満たして、耳からはそんな優しい声が流れ込んで、いま目の前には彼しかいない。
あまりにも贅沢で、これ以上何もいらないと思いたいけど、それは嘘だ。
油断したら口を滑らせそうで視線を漂わせると、ふと一昨日あたりにポストへ投げ込まれていた広告が視界に入る。そういえばクリスマスプレゼントのことすっかり忘れてた。

小さな炬燵テーブルの上を片付け、湯沸かしポットのスイッチを入れて座布団に戻る。ケーキはまだ冷蔵庫の中だ。

「プレゼント何がいい?今度、一緒に買いに行こうよ」
「いや、誕生日に貰ったばかりであろう。拙者からお主に何か贈ろう」
「誕生日はまた別だよ……でも、そう言われると何がいいのかって悩むね」
「平蔵」

へらりと笑った次の瞬間、突然名前だけを呼ばれて驚く。
万葉は何か、欲しいものがあるのだろうか。もしかしたら、同じものだったりしないかな。

「なんでもよい。拙者に用意できるものなら、形がなくとも」

それはつまりそういうことでしょと目を回しながらも、やっぱり僕の思考回路が都合の良い方向へ誘導してるだけかもしれないという可能性が捨てきれない。
ほんとになんでも?と尋ねると、万葉は小さく頷いた。


……万葉がほしいなぁ、 なん……
「構わぬ」


はっきりと届いた万葉の声が、少しだけ掠れている。緊張で喉を締めている証拠だ。そんなことは分析したがるくせに、僕の頭の中は真っ白に光って静かだった。
ワンルームに小さな炬燵テーブル、彼の背から二歩の距離にベッドが見える。どう動いたらいいかは明らかでも、この身体を動かすにはまだ彼の言葉が必要なようだ。


「こんな特別な夜に家に呼ばれて、期待しないとでも?」


自分の呼吸の音がやけに大きく聞こえる。カチン、と湯沸かしポットのスイッチが下りた。切り替えなんて、こんな簡単なことでよかったんだ。

僕にしか解けない謎には、彼にしか解除できないスイッチが必要だった。思わずサンタさんありがとうなんて呟いたら、彼が軽やかに声をあげて笑った。
一年かけた謎を今夜、ふたりで解く。