ぎんちき
2023-12-21 18:25:45
4664文字
Public
 

【ブン→木手】共に

〈注意〉
・年齢操作
・犯罪行為
・報われない丸井
・モブキャラ(女性)と交際している木手
・子持ちのジャッカル


 ブン太が持ってきた、大きくてシンプルなショートケーキ。甘くて、優しくて、あの頃と変わらない味がした。娘が「こんなに美味しいの食べたことない!」と言えば、それはそれは嬉しそうで。それで浮かれたのかわからないが、珍しいこともあったもんで、俺の淹れたコーヒーをブラックで飲んでは「にがい」と笑っていた。

「あたしねー。大きくなったらブン太と結婚するの」
「あ、おい……
「やった。そしたら毎日ケーキ作っちゃおうかな〜。ってことで、パパ♡ 今後ともシクヨロ」
「あらー、そうなったら家が華やかになっていいわね〜」
 ツッコミ不在かよ!

 ……そもそもこうなったきっかけは、昨晩起きたことにある。寝ようと思った直前、ブン太から久しぶりに電話がかかってきた。
 アイツは家の仕事を手伝ってくれているからほぼ毎日顔を合わせている。その日だってそうだ。だから、わざわざどうしたんだ? と思ってすぐに出た。

『よっ! 元気? 元気だよなぁ。今日会ったから知ってる』
 第一声からして空元気、という単語がよぎる。あまりにもわかりやすくて、わざとかと思えるくらいじゃねぇか。でもそれを口にするのは野暮な気がした。こういう時は余計なことを言わず、好きなように話してもらうべきだよな。多分。
 まずは当たり障りない日常話が繰り広げられた。

――で、買ってきたプリンがうまかったんだよ。ノーマークだったから嬉しい誤算。お前も今度買ってみろって。俺のお墨付きだから! 奥さんも娘ちゃんも喜ぶと思うぜ?』
 ああそうするよ、と返す。本当は買ったものよりも、お前の作るお菓子がまた食べたいよ、俺は……とはとても言えない。
『そんな訳で、テンションが上がったから。…………今日なら、大丈夫かな。って、思って。"葉書"を、見てみたんだ』

 ――葉書? ……ああ。前に話していたやつか。
 半月くらい前だったか、ブン太に少しだけ聞いた。あれ以来、ずっと連絡を取っていなかった相手から一枚の葉書が届いた。何が書かれているのか、チラッと"見えちゃった"けど、まだきちんとは読めずにいる、って。

『きっれーいな海の写真の絵葉書に、小さくて几帳面そうな字でさ。元気か、こっちは沖縄で頑張ってる、って近況報告が書かれてた』
 結構ぎっしり書いてるから、葉書じゃなくて便箋とかを使えばよかったのにな、と文句のようなものを言う。その割には、嬉しそうな声色だ。

『で。入籍、したんだって』

 そのまま明るい声のままで告げるものだから、引っかかりもなく聞き流すところだった。
『もー、ほんとめでてぇよ。お相手もずっと待っててくれたんだろうからなぁ……あ、これは俺の憶測だぜ? いや、邪推か。あはは』
 今、電話の向こうにいる顔がどんなものなのかわからない。それでこっちがどう返すべきか悩んでいると、言葉が続いてきた。
『なんか、式は挙げないで写真だけ撮るらしいぜ。そんなの知らされたらさ、拝んでみたくなるのが人間ってやつじゃん。絶対綺麗なんだろうな〜って。だからさ、俺にも見せてくれよ、って言ってやりたかったのに』

 ことばが途切れる。と、思うと、次に耳へ届いてきたのは笑いを含んだ声だった。
『アイツ、差出人の住所書き忘れてやんの! うっかりにも程があるっつーか、そこはキッチリ決めろよ〜っつーか。いや、待て、そもそも俺の現住所どうやって知ったんだよ! って、あはははは……――っはー、何もかもがおかしくて、おかしくて。だから。だから、お前に電話しちゃった! こんな話、他にできる奴もいないしさ。……遅くに突然、悪かったな』

 そうだったのか。俺でよければ、一向に構わない。それだけだ。俺の口から出せたのは。
『あー、それで。話は変わるんだけど。俺……さっき、さ。ケーキ作ったんだ。いつぶりだろ。こういうのってちゃんと身体が覚えてるもんなんだな。まだ、自分でも食べてないから味の保証はできない。それでもよかったら、明日。って、店、休みじゃん? そっちに持っていくから……一緒に食ってくれる?』
「ああ、勿論だぜ。相棒」
『ありがとうな、ジャッカル』