ぎんちき
2023-12-21 18:25:45
4664文字
Public
 

【ブン→木手】共に

〈注意〉
・年齢操作
・犯罪行為
・報われない丸井
・モブキャラ(女性)と交際している木手
・子持ちのジャッカル

『例え話なんだけど、ずっと好きだった人が突然助けを求めてきたとして……お前ならどうする?』
 電話の向こうから弾んだ声が聞こえる。その言い方、"例え話"とか嘘だろ、って揶揄ってやると誤魔化すみたいに笑っている。ポーカーフェイスが得意なお前らしくもねぇよ。
『あはは。恋は盲目ってヤツかな? ん? 違うか』
 勝手に盛り上がってないで、こっちにもツッコませろって。
『へへ、あ。まぁそこはいいから。質問に答えてくれよ』

 少し考えてから、そりゃまぁ助けるだろうな。別に恋愛感情抜きだって、と答える。
『お〜。お前らしいな。ま、俺もそうだったんだ』
 何というか、どことなくうっとりとしてるような声音になっているような。こりゃ多分長くなるな……

『そもそも、いつから好きだったのかも覚えちゃいねぇけど。でも、気づいたら目で追っていたんだよな。でも、あっちには恋人がいて、自然と惚気けられたりなんかしてさ。まー辛い。暗くなるのは俺のキャラじゃねぇし。経験豊富なふりをしたことだってある。実際、忘れられるんじゃないかって、別の子と付き合ったことだってあったわけだし』
 ああ、この話高校くらいのときの話か。相手が誰か教えてくれなかったけど、よく俺に言ってきてたな。いつも勝ち気なのに珍しいと思ったもんだ。……そこから始まる、ってことは、今もずっと……

『俺は……いい友だちであり続けようって思って……って言うとまるでイイやつみたいだから、違うか。どっかで、隙あらば、とか思ってたのかも。ずりぃよな、なんか。優しくしてさ、何かの弾みにでもあわよくば、なんて……

 それからの数分間、自嘲の混じった恋の話が続いてむず痒かった。話す相手、間違ってないか? って聞けば、合ってるって返されたが。
『で! ここからだ。三ヶ月前に恋人と一緒にそいつがこっちへ越してきた。びっくりだよな。いや、俺はもうちょっと前から話を聞いてたけど』
 ……あれ? その話、俺の知っている範囲で思い当たる人間がひとりいる、けど。いやまさか。それはないだろうから違うよな。
『その恋人も俺的には恋敵ってやつなのに、会ってみたらすっごく……いい人で。あー、このふたりはお互いがお互いに必要なんだろうな、俺の付け入る隙なんかないって、わかって。じゃあ俺は、ちゃんと"友だち"に戻ろう。俺の感情を、元に戻せばいいだけだって、思ったのに』
 深呼吸する音が聞こえる。

『駄目だった。どんどん好きになっちゃうの。むしろ嫌いになった方がいいかなって思って、嫌なところを探した。そしたらすぐ見つかったんだよ。いくつも。なのに。そんなところも、やっぱり……好きで、どうしようもなくて、いつか間違いを犯すんじゃねぇか、って怖くなってきた』

 その後、しばらく沈黙が続いた。何か声をかけるべきか? でも何を……。落ち込むなよ、とかそう言うのは簡単そうだが、あまりにも無責任だよな。
『あー……感傷的になっちまった。うん。よし。本題に入るから。……一昨日。そう、つい一昨日のことだよ。金曜の夜。仕事から帰ったら俺んちのドアの前に、そいつが座り込んでいて。よく見たら、震えてた。珍しいこともあるんだと、肩を叩いて声をかけたらようやく俺に気づいたのか、深刻そうな顔で、助けてくれって。その時の姿はすごく小さく見えた――

 その後に続いた話を要約すると、こうだ。

 こっちへ引っ越してきて、一ヶ月ほど経ったあたりから「好きな人」の「恋人」がストーカー被害に遭い始めた。そのことに気づいた「好きな人」はひとりで解決しようと、ストーカーを誘き出した。話し合いでどうにかしよう、と思って。しかし、逆上した相手に襲われ、無我夢中で抵抗をしている内に、気づけば相手は倒れていた。そのまま、半ば逃げるように助けを求めるべく……
 そんなの作り話で、全部俺を揶揄うために話したんだろう、と思いたかったのに、語る声はひどく真剣で。

『俺、即答できたんだぜ? 勿論、お前を助けるよ、って。でもさ、俺は狡い人間だから……わざわざ、聞いちゃったんだ。それは"恋人"に頼めることか? って。そしたらさ、首を振って』

 ――君にしか頼めない。君だけが頼りなんです。

『なんて言うから。俺も、そっか、って。正直、嬉しくて。コイツを助けられるんだ、って。ふたりで一緒に、"片付け"をしたよ。全部終わったら、家でシャワーを浴びて。……ああ、別々にだぜ? はは、そんなこと聞いちゃいねぇか』

 これは……今、俺と話しているのは、本当に俺の友人である"アイツ"なのだろうか。
『わざわざコンビニに行って、煙草とライターを買ったんだ。家に戻って、ふたりで床に座ったまま吸った。そしたらさ、悪いことしてるみたいな気分になったんだよ。俺たちとっくに成人してるのにな』
 ああ、きっと、そうだ。この声も、話し方も。でも。
『そん時に、告白もしちゃった。鳩が豆鉄砲食らったような顔、ってこれか? って感じ。でさ、アイツ、何て答えたと思う?』
 沈んでいたトーンがひとつ、上がった。やめてほしい。だって、そうすると否が応でも相手が、俺のよく知るアイツだと認めなくてはいけなくなるから。

『恋人がいるから駄目。だけど気持ちはありがたく受け取る、だって! 真面目かよ、ってそりゃそうだ。あははは。それでも、俺に対して引いたりとかはしないところが、アイツらしいなって思うけど……。勢いでちょーっとだけでもオッケーなんて言ってみてくれりゃ、スッキリできたのに! はは。そんなこんなで、俺をフったヤツが今も俺んちに泊まってるわけだけど。……あ、噂をすりゃ。風呂から出てきた。神経質なんだよな〜あれから何回も入ってる。何も変わんねぇのに。もう、何も』

 耳に届く音が篭もる。何か話しているようだが……手で通話口を押さえているんだろうか。なんて考えていると、すぐに戻った。
……わり。えっと、それでさ。何でこんな話をしてきたんだ、って思っただろ? 俺もわかんねぇんだけど。多分、安心したかったんだと思……。お前の声を聞……て。これで、お前に迷惑かける……になるなって話してから気づいた。わり……な。いつも』
 突然、ドアを叩く大きな音がし始めて、話を妨げてきた。もう少し話を続けようとする声に、焦りのようなものは感じなかった、が。
『外、うるさいよな。ごめん。もうちょっと話せるかと思ったんだけど。時間みたい。じゃあ。……本当に、ごめんな』
「あ、おい。ブン太! 待――

 ツー、ツーと流れる無機質な音が、自動で切れるまで。そのまま呆然と聞いてしまった。信じられなかった。これは夢なんじゃないかって。でも、スマホを再起動したって、俺の通話履歴には確かに「丸井ブン太」の文字が残っていた。

 そして。次に俺がアイツの顔を見たのは、ニュース番組の中だった。そこでアイツは「好きな人」と、その名前を列挙されていた。