冬灯夜
2023-01-27 20:36:07
8478文字
Public ルミナリア
 

何だかんだ言ったって

ルミナリア 成立済みのエドリディ+ガスリゼ
・平和な謎時空
・エドリディの喧嘩に巻き込まれるガスリゼ
・当社比だいぶ甘々です(どっちも)



《その後:エドワールとリディ》


「「あ」」
 と声を重ねたのはエドワールとリディで、やっぱりな、と視線を交わしたのはガスパルとリゼットだった。
 エドワールは咄嗟にリゼットを見る。
「あんた、だからわざわざ……
「まあ、上手くタイミングが合って何よりだ」
 同じようにリディもジト目でガスパルを見上げていた。
「いつ連絡したの?」
「してませーん。見てたでしょーが」
 詰る所、ガスパルとリゼットの予測がぴったりとハマった、というだけのことだ。
「何にせよ、今日の内にリディの家まで来たのはお前の意思だろう」
……まあ」
……ふぅん」
 目を逸らして口籠るエドワールに、リディが呟く。少しだけ声が上向いていたのを、横にいたガスパルだけは聞き取っていた。
「じゃ、後は二人でごゆっくり」
 おどけてガスパルが遠ざかり、流れるようにリゼットもその隣に並んだ。
 ごゆっくり、なんて言いつつ会話はしっかり聞き取れる距離に大人二人はいる。エドワールは抗議の意を込めて目を向けるが、当然の如くどこ吹く風である。
 仕方なしにガスパルとリゼットは放置して、エドワールは恐る恐るリディに向き合う。リディは下に目を向けたまま、だが身体はしっかりとエドワールの方を向いていた。
 沈黙。
 静かに長く息を吐く音がした。
……その、リディ」
 沈黙を破ったのはエドワールだった。
「今日は、悪かった」
「それは何に対して?」
 間髪入れない反問に一瞬、エドワールは詰るが、すぐにリディの目を見返した。
「突然、置いていったことだ」
「そうね」
 喫茶店でリディが少し席を離れていた間のことだ。急いだ様子の男性が小さなケースを落としたまま店を出ていった。エドワールは走っている彼を追いかけ、ケースを渡した。持病の薬が入っているのだと感謝され、再び走って店まで戻った。
『すまん、落とし物を届けてた』
……びっくりしたわ、居なかったから』
 それまで何でもなさそうな顔で座っていたリディは、エドワールを視界入れた途端、安堵の色を覗かせた。
「あと、道案内を勝手に引き受けた」
「それは一応了承したけど」
「それから……逆ナンされた」
「かっこいいものね、エドは」
 エドワールが挙げる諸々に、リディは淡々と返す。他にもまだあるが、一度止めた。
 リディは怒っているようには見えない。けれど。
……今日、リディはオレとの時間を作ってくれたのに、一方的に蔑ろにした。すまなかった」
 リディにも友人付き合いや勉強や研究、やりたいことがある。その上でエドワールとの時間を作ってくれたのに、予定していたことの半分も出来なかった。
 やったことを後悔しているかというと決してそうではないが、何も言わずに居なくなったり、楽しみにしていた場所に着くのが遅くなったり、色んな人に関わってしまったり。楽しい時間を過ごしたい筈なのに、不安にばかりさせた。
……もういい』
『リディ?』
『また今度にして。今日はエドの顔見たくない』
 喫茶店での表情には罪悪感を持っていたが、リディがそう告げるまで、エドワールはちゃんと気付いていなかった。そうして走り去ったリディを引き留めることも出来ず、散々悩んだ末にリゼットに助言を求めたのだ。
「あたしも、酷いこと言ったわ」
「オレは別にそう思ってない」
「ううん。八つ当たりよ。だから顔も見たくないなんて言ったの」
 リディが強い言葉を使ってしまったのは、不安で悲しい気持ちを子供っぽく感じたし、それを悟られたくなかったからだ。エドワールが何かあれば人助けをしてしまうのなんて、よく知っているのに。
 子供っぽいと思われたくないのに、八つ当たりをする子供そのものの言動を取ってしまった。エドワールに嫌な物言いをした後悔と、今日味わった不安とモヤモヤと、リディ自身に対する怒りと。
 一人で街を歩いてもちっとも気分が晴れず、結局リディは仕事終わりのガスパルを訪ねたのだ。
「ごめんなさい。ちゃんと話すべきだったわ。……あと、遅い時間まで出歩いてたのも」
「いや。オレの方こそ」
 付け足された一言に少々居心地悪くエドワールは答えた。リディは気にしないだろうと思っているが、この時間までリゼットの家に居たのは事実だ。
「まあ、今日のことはお互いもういいとして、今後のことを話す必要はあると思うわ」
 そんなエドワールに気付いているのかいないのか、リディはさっぱりした口調で話題を変えた。こうした気持ちと事実の切り替えはなかなか出来ることじゃない。それが出来るリディは凄い、とエドワールは尊敬の念を抱いている。
「そう、だな。……リディといる時は、リディを優先したいと思ってる」
「それは嬉しいけど、でも、エドはやっぱり行くと思うわ」
 確信を持った言葉に、エドワールは黙る。本当に徹底できるかというと自分でも断言は出来ない。
……あたし、そういう所も全部含めて、あなたのこと好きだもの。目の前の困ってる人を放っておくエドになって欲しいわけじゃない」
 だから、リディが欲しいのは、リディの所に帰ってくるという確信だ。
 それを口にするのは本当に子供っぽくて、リディは俯く。
 エドワールがリディを大切にしてくれてるのは分かっている、つもりなのに。
 沈黙が暫し落ちる。
……アクセサリーを」
 小さく、呟くような声量でエドワールは言った。
「何か、約束の形になるようなものを、贈ってもいいか?」
「え」
「あ、いや、物で釣るとかそういうつもりじゃない!」
 弾かれるように顔を上げたリディが非難しているように見えたのか、エドワールは慌てて声を上げた。
「ただ、オレが不安にさせることは、たくさん、あるから……形で見えるようにしたら、少しはマシにならないか、と考えた……んだが……
 段々と自信なさげにエドワールの声が沈んでいく。
 違うのに。だって、今まさに、リディの不安を汲んでくれたから驚いたのに。
 エドワールがリディの為にと考えて、向き合って、汲み取ってくれていることが、とても嬉しい。なのにエドワールが自信のない素振りを見せるのが、少しおかしくて。
 だから、リディは口の端を上げて、言ってみた。
「じゃあ、指輪」
「まだ早い」
 即答された。けれど。
 まだ、とは、いつか、の意味を含むのだが、エドワールは気付いているのだろうか。
「髪飾りも考えたんだが……ペンダントはどうだ?」
「お揃いの?」
……お揃いの」
 視線を外して頷いたエドワールに、再びリディは笑った。照れるくせに、エドワールはリディを優先してくれる。
「じゃあ、また約束しないとね?」
「ああ。気に入るやつを買いに行こう」
「エドもよ? あたし達二人ともが気に入るペンダント」
「分かってる」
 ふ、とエドワールは安堵したように、破顔する。……今度はリディが照れてしまうくらいの、嬉しそうな笑顔だった。
……あんた達には迷惑掛けた。ありが、」
 エドワールはガスパルとリゼットの方を振り向く。リディも目線を向ける。
 が、そこには既に誰もおらず、エドワールとリディは揃って目を丸くした。
「いつから居なかったのかしら」
「分からん」
 まったくあの二人は、とエドワールは疲れたようにため息を吐く。
 人の気配には鋭い方のエドワールが気付かなかったということは、それだけリディのことに集中していたのだろうか。そう思うとリディの心は弾んでいく。この天才をこうも単純にさせるとは、目の前のひとはなんて厄介なんだろう。
……どうかしたか?」
「何でもないわ。じゃあ、おやすみなさい。気を付けて」
「ああ、おやすみ」
 おやすみの挨拶を交わしてもリディはまだ家に入ろうとしない。
 ……これは、前に教えたいい夢を見るおまじないを要求されているな、とエドワールは察した。周囲を見回し、人気がないことを確認する。リディの頭に手を触れた。
「悪い夢はボザーク様の角に弾かれて、リディの夢に入ってこれませんように」
 そして頭の天辺に唇を落として、すぐに離れた。
「ありがとう、エド。サンカラ様のヒレのように煌めくよい夢を」
 リディは今日一番の柔らかな笑顔を見せた。エドワールはその眩しさに瞬間、言葉を失う。その間にリディは自宅へと入っていった。
 リディといると、喧嘩をしても、何をしても、最終的にはあたたかい気持ちが胸に広がる。
 どうにも敵わないことばかりだ、と。エドワールの吐き出した息は、ただ静かに夜の静寂に消えていった。


《その後:ガスパルとリゼット》


「最後まで見とかなくていいのか?」
 そっとその場を離れながら、小声でガスパルが確認する。
「そこまでは野暮だろう」
「まあな」
 あの様子なら大丈夫だろう。元よりガスパルもリゼットも、あの二人が喧嘩別れして終わるなどとは思っていない。
「じゃ、送ってくわ」
「いい、面倒だ。お前のうちで」
「はいはい」
 一言の相談もなく決定事項を告げたリゼットに、ガスパルは肩を竦める。と、ふとリゼットに顔を寄せて、一嗅ぎした。
……飲んだ?」
「一杯だけな」
「ふーーーーん?」
 大した量でもないのによく気付いたものだ。抑えてこそいるものの、隠す気もなく面白くないと声を上げるガスパルに、リゼットは笑いを噛み殺す。そのまま歩を進めて。
「ところで、ガスパルさんちにはリゼットさん好みのワイン、いつでも置いてるんですけど」
 俺の方が分かってると言わんばかりの物言いに、とうとう堪えきれず、リゼットは笑いを零した。というか今、ガスパルの家に向かっている最中だというのに。
「どうせ私の好みをエドに教えたのはお前だろう」
「それとこれとは話が別ってやつ」
「たまにかわいいな、お前は」
「うるせ」
 がしがしと頭を掻くガスパルの耳がほんのり赤いのは、見なくても分かっていた。
「では、ご自慢の美酒をご相伴に預かろうか」
「喜んで、女王様。……いてっ」
 大仰に言うリゼットにガスパルも同じように返す。ついでに肘を軽く脇腹に入れられて、ガスパルはわざとらしく痛がってみせた。
 それにしても、とガスパルは隣を歩くリゼットを見下ろす。
 かわいいなどと言われたが、当のリゼットだって明日は仕事なのに、ガスパルの家に来ようとしている。わざわざ仕事に必要な荷物を持ち出してまで。
 つん、とその荷物をつつく。私物なら遠慮はないが、仕事道具は自分で持ちたい人だから、つつくだけ。
「お前もそういうとこ、かわいいよなあ」
…………うるさい」
 ガスパルの言う意味は伝わっただろうに、リゼットは否定しない。そういう所もかわいいのだとガスパルは思う。
 指を絡めてみても、やはりリゼットは振り解かない。誰よりもかわいい恋人に頬を緩め、すっかり上機嫌な足取りで、ガスパルは我が家へとリゼットの手を引いた。