冬灯夜
2022-12-06 22:48:49
1558文字
Public ルミナリア
 

言葉はいらない

ルミナリア ガスリゼ
・リップクリームを塗ってる教官を眺めるガスパルさん
・約束はいらない https://privatter.me/page/6583e1631dfe9 の続きっぽい

 リゼットの部屋で、何をするでもなくぼんやりとする。
 大抵は酒でも飲むのだが、今日のリゼットはそんなつもりもないようで、さっさと着替えて早めの就寝準備を進めていた。
 リゼットは私服や部屋着の方が露出が少なくなる。つまり平素のあれは意図的な部分が多分にあるのだろう。戦場であのリゼットを見ればまずぎょっとする。次いで、晒されたエンブリオに慄く。そして鎧のないその格好が「お前達では傷をつけることも叶わない」と宣言する。まあ、単純に温暖な気候を楽しんでいるのかもしれないが。
 窓辺に腰を下ろしたリゼットは、小さな缶の蓋を開ける。飾り気のない平らな缶はリップクリームらしく、小指に取ったクリームを唇に伸ばし始めた。薄く開いた唇に、白い指で艶やかな光沢が引かれていく様をじっと見つめる。
「何だ」
「別に?」
 頬杖をついたまま返すと、リゼットは口を閉じ、上下の唇を塗り合わせる。こちらを見ていた、と思いきや立ち上がって、すぐ近くにまで寄って来た。
「え、おい、何だよ」
「動くな」
 テーブルに缶が置かれる。左手は俺の頬に。右手は親指でクリームを取り、残りの指は俺の頬と顎を固定した。そのまま親指が唇に押し当てられる。ふわりと微かなバラの香りがした。
 ゆっくりと、リゼットの指が俺の唇をなぞる。多量のクリームが下唇を覆い、端まで到達したら上唇へ。リゼットの瞳から目が離せない。薄鈍色の瞳は真剣に、一心に俺の唇を見つめている。やがて指と、温度で溶けたクリームが唇全てをなぞり終える。
「荒れてる」
 一言だけ告げて離れていくリゼットの手。
 掴んで引き留める。何事か言われる前に、そのままリゼットの小指に唇を寄せた。一瞬、リゼットの手が揺れる。触れていた親指よりも、ほんの少しだけ冷えた指先。
……多いからといって人の指で拭うな」
「いいだろ、どうせ元々ついてたんだし」
 手を引いたリゼットに逆らわず、手を離す。
 リゼットが缶の蓋を閉めて、初めてそこに簡素な花の刻印がされていたことに気づいた。
 棚に手入れ用品をしまうリゼットの背を眺めながら、唇を合わせて厚く塗られたクリームを伸ばす。じんわり沁みるような気がした。
 そういえば、こういう香りのものはあまりリゼットが使っている所を見ない。
「花の香りするやつ、他のは使わねえの?」
「香りは別に興味はない」
「ふぅん。同じ香りのやつ、ヘアオイルでも買ってやろうか」
 ぱたん、と音がした。
「いらん」
 あ、いま閉じたな。
 時折開いているリゼットの窓。
 何で、だとかそれ以上の追及はせず、立ち上がって酒棚を漁る。小さな瓶とグラスを二つ取り出した。テーブルまで戻るとリゼットは眉をひそめていたが、止められないのだから問題はない。
「ま、晩酌くらい付き合うぜ」
「私の酒だろうが」
 ため息を吐きながら、リゼットはテーブルについた。
 酒を注いで杯を重ねる。暫し会話もなく、つまみもなく酌み交わせば、あっという間にグラスも瓶も空いた。片付けようとするリゼットの手からグラスを取り上げて、流しに持っていく。
……お前はものを増やそうとしないくせに」
 その内に、背後からぽつりとリゼットの呟きが聞こえた。返事はせずに片付けを続ける。
 ふわり、と。とっくに消えた筈の花の香りが、酒の香りに混じって何故だか甦ったような気がした。









17.カルディアー【閉じる】【窓】【唇】
(雅)さんからガスリゼ

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