「あれっ? フェルディナンド様? おーい」
ローゼマインの声がどこか遠い。
私の頭と体は、妻からの仕打ちと熱を解き放った脱力感で、暫く言うことを聞かなかった。
「ローゼマイン」
「はいっ! 何でしょうフェルディナンド様」
私の膝に乗り上げたローゼマインの表情は、「褒めてくださいませ」という文字が読み取れそうなものだった。
広げた彼女の手のひらは私の放った白いもので汚れ、さらにそこからぽたりぽたりと二人の寝着に滴っている。
自分がどれだけの量を放ったのかを見せつけられているようで直視できない。
「ヴァッシェン!」
「え⁉」
勢い余ってローゼマインをまるごと洗浄してしまったが、汚れていたからまあ良いだろう。
簪が落ちて一つに纏めていた髪がはらりと解けてしまったが、普段なら扇情的なその様子も今は情緒に欠ける。
事前に予告もせずにおこなったから、ローゼマインはけほけほと噎せていた。少々やり過ぎたなと罪悪感を覚え上下するその背をさすっていると、ローゼマインがじっとりとした視線で見上げてきた。
「酷いです!」
「酷いのは君だ」
どう考えても、酷いのは、君の頭だ。
十人に聞いても十人がそう答えるはずだ。聞けるようなものでもないが。
「気持ちよかったくせに
……いひゃいです! ごめんにゃひゃい!」
口を尖らせたローゼマインの言葉に、頬を思い切りつまみ上げたのも当然のことだろう。
そう。気持ちよかった。
認めるのは癪だが、確かに気持ちよかったのだ。
そして疑問に思う。ローゼマインは、どこでこのような事を覚えたのか、と。
ある程度の予想はつく。本だ。
あちらの世界では性的な表現を含むものも、年齢制限を設けてはあるがある程度は自由に手にすることが出来たのだと前に話していたことがある。
こちらには成人指定の本とかないんですか? と突然聞かれ、意味が分からず問い質したのは、ローゼマインが成人する直前のことだ。
只でさえドゥルトゼッツェンに祈りを捧げる回数が増えていた時期になんという質問を無邪気に繰り出してくるのかと頭を抱えたこととあわせて、今でも鮮明に覚えていた。
そのような破廉恥な本が容易に手に入る環境そのものに頭が痛いのに、読んだことがあると平然と話すローゼマインに頭痛は増すばかり。
情緒はどうしたら育つのか。
ユストクスには「フェルディナンド様が育てるのですよ」と言われたが、私には荷が重すぎる。
そしてその教育に私は失敗したのだと、今この瞬間にも痛いほどに分かった。
しかし本を読んだだけでここまで実践できるものなのか? 頭で理解することと、実際にやってみることは別の話だ。手先が然程器用ではないローゼマインに、あのような手業が簡単にできるものなのだろうか
……。
「初めての割にはうまく出来たと思ったのに」
危うい思考に足を取られそうな私を知ってか知らでか、ローゼマインは不満そうにそうのたまった。
「
……初めてだったのか?」
「初めてですよ! 初めて
……ですよね?」
私が知りたいのだが⁇ 何故私に聞くのだ。意味が分からない。
今度は私がじとりとした目で見つめていたのだろう。ローゼマインは慌てた様子で続けた。
「記憶のない時にやらかしていなければ初めてです!」
そういうことかと納得した。先日酒を飲んで酔っ払った時の事を言っているようだ。
あの時のローゼマインは愛らしかった
……と噛みしめかけて、はたと気付いた。
「つまり、理性を失っていたらやりかねないくらいにやってみたかったのだな?」
「はい! いつもわたくしがやられっぱなしではないですか。たまにはこうしてわたくしからフェルディナンド様に触れたかったのですよ」
満面の笑みを浮かべるローゼマインに対して、私はこめかみを痙攣させていた。
先ほど強請られるままに許してしまった理由が分かった気がした。勢いに押されたのだ。
「なるほど。では
……」
やられっぱなしは性に合わない。一つため息を吐いた後、私は膝の上の妻の肩をとんと押した。
「ローゼマイン
……」
ふっと耳に息を吹きかけると、私の下で、ローゼマインが面白いくらいにびくびくと跳ねる。
「あっだめ
……!」
肩を押しただけで簡単に倒れたローゼマインの身体を返し、うつ伏せになった華奢な身体の上にのし掛かる。
体重をかけすぎるとローゼマインが潰れてしまうが、逃げられるのも癪に障る。少々「重い」と感じる程度に体重をかければ、ローゼマインはもう逃げられない。
「いや、だめぇッ」
「何故? 君が私にした事だろう?」
唯一自由に動かすことの出来る頭を振り、だめ、だめと繰り返すローゼマインに、私はにやりと笑った。
音を立てて耳に口付け、耳の形を舌でなぞる。
ほんのり色付いてぴくぴくと震える耳が、こんなにも可愛らしいものだとは知らなかった。それに気付かせてくれたことだけは感謝しても良い。
「ひぁッ♡」
「ローゼマイン」
先ほど耳元でローゼマインに名前を呼ばれるだけでもぞくぞくと背筋を何かが駆け抜けたことを思い出し、同じように名前を呼ぶ。予想通り、己の下で細い身体が震えたことにほくそ笑む。
されるがままのローゼマインを見下ろす私は、ローゼマインには見せられない顔をしているはずだ。
「可愛いな、ローゼマイン」
愛らしいものを見ると虐めてしまいたくなるのは、もうどうしようもなかった。先ほどローゼマインが止めても止めなかった理由が分かる気がする。私がかわいいなどとはあり得ぬが。
衝動に駆られるままに、耳輪に歯を立て、こりこりとした歯触りを楽しむ。柔らかな肌は簡単に食い破れそうで、噛み付きたくなるが流石にそこまではと欲求を押さえ込んだ。
「ふぇる
……ッ あ、ぁ
――――♡」
耳の穴に尖らせた舌先を入れて、ぐるりと舐める。
耳の中で響く音に、脳が溶けそうになるだろう? ローゼマイン。
ぴちゃぴちゃと濡れた音と、ローゼマインの感極まった声が天幕の中に響き渡った。
「あ♡ これダメッ♡ だめぇっ♡」
身体を自由に動かせないローゼマインは、快感を逃がすことが出来ずに唯々がくがくと震えていた。ぽろぽろと涙を零す金蜜色の瞳は、強い快楽に溶けている。
もっと良く見たいと思い、乱れていた髪を片側に寄せる。先ほどは情緒に欠けると思った降ろし髪も、今は非常に劣情を煽り立てるものに変わっていた。
露わになった瞳から溢れる涙に口付け舐めとり、甘露を舌の上で転がし飲み込む。
じわりと染み渡る愛おしい魔力に、ローゼマインの痴態でとっくに力を取り戻していたエーヴィリーベの剣が更に硬度を増した。
「フェル、でぃなんど、さまぁッ♡ あたって
……!」
これだけ密着していれば、昂ぶりを誤魔化すことなど出来やしない。寧ろ存在を主張するようにぐっと押しつけ、ローゼマインの腿に擦りつけ腰を揺らした。
「ひゃ
……! ごりごりってッ♡」
やわらかな腿の裏の感触を堪能しながらも、耳を舐めることは止めない。此方も忘れるなとばかりにかぷりと噛み付けば、目を見開いてひくひくと震えていた。
寝具を搔いていた指がぎゅっと握りしめられる。爪で肌が傷つかないとも言えぬ。私の指ならいくら爪を立てても構わない。手を上から重ね、強ばった指を解きながら指を絡ませれば、縋るように握りこまれた。
「ローゼマイン、気持ちいいのか?」
「
……ッ!」
手を握りながら耳元で囁けば、びくりと一度、大きく肩が跳ねた。
「声
……ずるいですぅッ♡ ダメ
……!」
声がずるくて駄目とはどういうことだろうか。よく分からないが、ローゼマインがこの声に弱いということはよく分かった。
初めて知ったローゼマインの弱点に、冷静な時ならば言葉にはしないような直接的な甘い言葉が躊躇いもなく溢れた。
「愛している」
「君だけだ」
「ローゼマイン」
耳に直接囁かれる威力は、すさまじいだろう? 君が教えてくれたことだ。君もその効果がどれほどのものかを知っておいた方が良い。
やわらかな耳朶を食んだときだった。
「ぃ
……、~~~~ッ♡」
ローゼマインの身体が数度痙攣し、その後一気に力が抜けた。まさか。
「達したのか?」
は、は、と苦しげに短く呼吸を繰り返すローゼマインを見下ろしてそう問いかければ、かっと頬が染まった。
充足感に心が満たされる。ローゼマインに、耳と言葉と手淫で高みを見せられた悔しさや情けなさが霧散した。
何しろ私は、ローゼマインの耳にしか触れていないのだから。
余程嬉しそうな顔をしてしまっていたらしくローゼマインから咎めるような視線が送られてきたが、蕩けた目で睨まれても愛らしいとしか思えない。
「フェルディナンド様、重い
……」
呼吸が落ち着くまで涙や唾液で濡れた顔や耳、首筋に口付けを降らせていた。その間は「んっ」「やぁ
……」と啼いていたというのに、落ち着いた途端、ローゼマインはすげなくそう言った。
「もう落ち着いたのか?」
起き上がり、ローゼマインの身体を返しながらそう問えば、彼女は自分の手を耳にあてて首をすくめこくりと頷いた。
「耳、駄目ですね。頭の中までとろとろになってしまうかと思いました。まだぞわぞわしています」
腿を摺り合わせているのは無意識なのだろうか。
ローゼマインがその気ならば、私が我慢する必要もなさそうだ。何しろ私は煽られるばかりで、剣は力を蓄えたままなのだから。
「ちょ
……⁉」
再びのし掛かればローゼマインは抗議の声をあげたが、耳を囓るとくたりと力は抜けた。
肩からずり落ちかけていた寝着をそのまま剥けば、豊かな双丘がたゆん、と揺れながら露わになった。
ローゼマインから耳を責められたときに押し当てられていたことを思い出し、仕返しとばかりにルトレーベのように熟した先端のしこりを強く吸う。
「あぅ
……っ♡」
そのまま徐々に上へと口付けの位置を変えながら、手は逆に下へと伸びていく。
寝着の裾からそっと手を差し込むと、ドロワーズがしっとりと濡れていた。
「こんなに濡らして」
「ひ、あ
――――ッ♡」
再び耳に口付けながらそう囁けば、ローゼマインはあからさまに身体を揺らした。
ああ、これは新しい楽しみを発見してしまった。
じわ、と更に濡れたドロワーズを引き抜き脚を開かせれば、聖杯は蜜を貯めきれずに溢れさせていた。
寝具までたらたらと垂れる蜜を指ですくい、ぺろりと舐める。
「いやらしい染みが寝台にも出来ている」
指でくちくちと杯を掻き混ぜ、耳の穴も舌で嬲る。
「あっ♡ んん
……ッ! 言わな、で
……ッ」
胎の中は酷く熱い。何かを言う度にきゅうきゅうと締まって指を奥へと誘い入れているが、指ではもう足りないだろう? もっと太いものが欲しいのではないか?
指の隙間からとぷりと溢れた蜜を剣に塗り込め、「これが欲しいのだろう?」と囁きながら割れ目に沿ってずりずりと擦った。
「~~~~ッ」
痺れを切らしたらしいローゼマインが首に縋り付いてきた。ぐい、と引き寄せられたその瞬間、ローゼマインは思い切り私の耳朶に噛み付いた。
「はやく
……! 早く下さいませッ」
ジンと痺れる耳、直接脳に囁かれた言葉に、私はうっそりと笑った。
翌朝、目が覚めたローゼマインは昨夜の己の乱れた様を思い出したのか、頬を染め顔を手で覆ってしまった。
「次からは、こうして仕返しされることを覚悟してからやるように」
「はい
……」
素直に答えたローゼマインに、私は満足して鷹揚に頷いたのだった。
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