takisaka
2017-02-19 18:46:51
1231文字
Public コンレボ
 

疎林

コンレボ習作

 この鋼の体に、心以外、おのれの意志以外、それ以上に確実な安全装置などありはしない。
 攻撃しようと思えば、思うだけで、感覚は自然に加速され照準は視線ひとつでなされる。弾頭が受ける重力による放物線はスコープアイに目標を捕捉した時点で自動的に補正され、関節部に仕掛けられたギミックは息をするのと同じ滑らかさで口を開ける。
 およそ思いつくかぎりのありとあらゆる場所に大量に仕込まれた兵装は過積載のきらいさえある、かれの基本的な設計目的は戦闘と諜報のための兵器だ。こうして戦えば、戦うだけで、それがわかる――

 知っている。

 この機体が何のためにつくられたか。およそ機械であれば、機械である限り、それを知っているのだ。皮肉なことに。設計された目的の為に動くのは、すべての機械にとってはただ当たり前の、重力が星の中心に向かうほどに当たり前の物理法則だ。

 それでもなお、何のために戦うのか、それだけは、せめて。

◇◇◇

 銃口が音をたててさしのべた五指のすべてに開き、マズルフラッシュが視界を占拠する。

 人吉爾朗が身を隠していた茂みから飛び出し、自動警備機械がそれに反応するまでの、ほんの一呼吸のタイムラグ。そこに後方から飛来した機銃の弾丸はそのぎりぎりのタイミングで走りはしる青年のさくら色の髪を幾本か殺ぎ落として通り過ぎ、そしてその着弾の衝撃でもって重機のなりをした兵器の動作を牽制した。
 基地にほど近い森のさなか。人目にはけっしてつかぬ、鉄線とフェンスで囲まれ、自動機械に警備された一角だ。木々と腐葉土のにおい。樹冠越しの青空には発着陸の爆音が響き、頭上をよぎる飛行機雲の名残がたなびく。

「あんたほんと容赦ないな!」

 叫ぶ青年に援護をした当の相手――柴来人は、ただふんと鼻を鳴らした。
 地面に手をつき、猫のように一回転。背後に流れるマフラーは一瞬くれないの炎とまがい、それと同時に大振りに振られたかれの左腕がはじけるようにほんものの炎を現出させる。息を吐くとともに放たれたそれは、あたかも生きているかのようにあきらかな指向性をもち、眼前の敵をつつみこんだ。
 
「いいからさっさと行け!」

 そう叱咤しながら男は、先行して自動兵器と対峙する爾朗にほんの指呼の間で追いつき、追い抜いた。両の革靴、その踵に仕込まれたブースターがあおじろい光を放つ、爆発的な加速――反対方向に回り込みながらスラスター噴射で自身の方向と姿勢を調整。そのさなかにもいつもの白い手袋のない、今は金属光沢をあらわにした義手は音をたてて変形しつつあった。肘から先が関節部分で外れて垂れ、格納されていた照準器が立ち上がり、砲口が口を開ける。あらわれる弾頭は光を反射してぎらりと輝く、止まれを示す信号機の赤色だ。
 発射の反動で着弾地点からの距離を稼ぐものの、みずからもその強烈な炸裂の余波を浴びてひらめく白い外套の裾――

 それを横目に、爾朗は走り出した。