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ナガレ
2021-09-03 21:05:08
4984文字
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暴風雨/ビタースイート(ぶぜまつ)
嵐の夜に始まるぶぜまつの話。雰囲気SSなので雰囲気を感じ取ってもらえれば。
1
2
豊前と寝た。
それは酒の勢いでも気の迷いでもなく、合意の上だった。言葉を交して確認したわけではないけれど、おそらくそう。
その日、僕は主から現世への遠征を命じられた。ちょっとしたお遣いだからと派遣されたのは僕と豊前の二振りだけで、予定を済ませてそろそろ帰還しようかとした時に事件は起きた。
突然の雷鳴と叩きつけるような激しい雨。一雨なんてものでは収まらないと、僕達は慌てて近くの店に入った。
入ったのは現世でよく見る珈琲屋で、時間潰しに飲み物を頼むと支給されている電子端末で現在地の天気を確認した。そしてため息をついた。
雨雲の様子を伝える地図は何時になっても真っ赤なままで、しばらく雨が止みそうに事を如実に伝えていたからだ。
頼んだ飲み物を飲み切ってしまい、何なら軽い食事までしてしまったが、雨は一向に止む気配を見せない。それどころか勢いを増している。
これは夜通し降るかもしれないと、僕達は雨宿りに見切りをつけた。主に、荒天で転送位置まで辿り着けそうにないため帰還が明日になる事を連絡する豊前。その間に僕は近場で雨風を凌げそうな場所を探した。
軒並み満室の中からどうにか見つけ出したのは、当代の連れ込み宿。手頃な価格の宿は既に埋まってしまっていたし、この豪雨の中を移動する気にはなれなかった。背に腹は替えられない。雨の中を走ると二振りでそこに飛び込んだ。
薄暗い無人の受付。機械に予約番号を打ち込むと鍵が出てきた。通されたのは大人二人が一泊できる部屋だった。エレベーターで階を上がり、鍵に書かれた号室と同じ部屋を見つけて鍵を開ける。解錠のがちゃりという音が、やけに大きく聞こえた。
部屋は値段の割に広くて落ち着いた部屋で、これならまぁ悪くないと思った。一つだけ置かれた大きな寝台も不思議と馴染んでいた。
この肉体は案外脆い。風邪をひくといけないので、濡れた衣服を片っ端から脱ぐと、できるだけ広げてあちらこちらに掛けていった。その後、交代で風呂に入って体を温めた。やっと一息つけた気分だった。
風呂場の脱衣所に洋風の浴衣が二着あったので、風呂上がりは各々それを借りて着替え、手持ち無沙汰にぼんやりと外を見ていた。
外は相変わらず稲妻が光って雷鳴が轟き、大粒の雨が窓ガラスを激しく叩いている。何だか今にも割れてしまいそうなぐらいな勢いで、少しばかり恐ろしさを感じるくらいだった。
空調が効きすぎていて少し肌寒い室内。僕は布団に包まり、豊前は隣で布団の上に寝転がって窓の外を見ている。
雨宿りに見切りをつけて正解だった。あのまま閉店時間になり店を追い出されてしまっていたら、今頃どうなっていたのやら。
ずぶ濡れになりながら本丸に帰ろうしたのか、必死に雨風を凌げる場所を探したのか。あまり考えたくないが、野宿する羽目になっていたかもしれない。現世なのに。
「
……
雨、やみそうにないね」
「そうだな」
その時、白い閃光とともに一際大きな破裂音が響き、僕は思わずびくりと身を竦めた。部屋の電気が切れて、窓越しの稲光が部屋の中を照らす。大丈夫かと尋ねてきた豊前の赤い瞳がこちらを向いた。
停電は一分にも満たなかったと思う。電気は復旧して僕もすぐに落ち着いたが、それも束の間。すぐに二度目の白い閃光が走り、間髪入れずに轟音が落ちてきた。その音は先程のものよりも大きくて、重たかった。
それが引き金だったのかもしれない。僕が豊前を引きずり込むのも、豊前が僕に覆い被さるのも、ほとんど同じタイミングだった。あとはもう、すべてなし崩しだった。
雷鳴は一晩中鳴り響き、窓ガラスを打ちつける銃弾のような雨の音も止まなかった。
翌朝は晴天だった。夜の間に嵐は通り過ぎたのか、早朝の空は底が抜けるぐらいに青かった。閉め忘れたカーテン眩しさで目が覚めて起き上がる。そこに後朝なんていう情緒は無かった。僕も豊前も黙って生乾きの衣服を身につけた。
寝台横のくず入れには昨夜の残骸。手慣れた様子で寝台脇の引き出しを漁っていた豊前の姿を思い出した。宿を探している時にここしか空いていないと告げた時も動じていなかったし、彼はこういう所に来た事あるのかもしれない。
小物はすべて使い切ったわけではないから、中途半端な残りはそのまま放置されている。余りを持って帰るかと豊前に聞かれたけれど、僕は首を横に振った。持って帰ったところで一体どうするのやら。次に使う機会なんて無いのに。
部屋の精算はいつの間にか豊前が済ませていた。半分払おうと財布を出すと、後でいいし何なら払わなくてもいいと言われた。そんな事を言われると、すこし困ってしまう。
物言いたげな僕を素通りする豊前。忘れ物がないならもう行くぞと、部屋の扉の前で呼ばれた。相変わらず何事も早い男士だ。
「あ、悪ぃ
……
」
部屋の出入り口で、扉を開けようとした豊前の背中にぶつかった。昨夜は気づかなかった部屋の内装に気を取られて前を見ていなかった僕は、こちらこそすまないと顔を上げた。
――
振り向いた豊前の顔が、すごく近い。
「
……
」
「
……
」
無言でどちらともなく顔を寄せた。昨夜は淡々と行為を進めるだけで、こんな事は一度しなかった。そこがかさついている事も、ほのかに温かい事も、僕達は何一つ知らなかった。
*****
あの暴風雨の一夜から幾許か経った頃、僕達は再び現世に来ていた。今回も主のお遣いだ。今回は自由時間を貰えたので、用事を終えるとこちらで夕飯を済ませ、一度行ってみたかったんだという豊前に付き合い、お洒落なバーにも行った。ほろ苦くて甘くて少し辛い、そんな酒を飲むのは初めてだった。
端の席に並んで座り、グラスを手に小声で会話を楽しむ。いつもとは違う視線の合い方が新鮮だった。時間はあっという間に過ぎていき、気づけば店の壁に掛けられている時計の針はそろそろ帰らないといけない時間を示していた。今から帰還地点に向かえば、日付が変わる前には本丸に戻れるだろう。
不意にまだ帰りたくないと思った。もう一杯だけ何か飲もうと品書きを手に取った僕の手を掴むと、豊前がちらりとこちらを見た。品書きを戻す僕。何か頼むこともなく、会計をして店を出た。
店の外、歩道の端で電子端末を取り出した。僕も豊前も。
そして、あの夜と同じように僕達は
――
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