ナガレ
2021-02-14 22:18:34
5464文字
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ルビーの騎士とターコイズの涙(ぶぜまつ) ※聖剣伝説LOMパロ

「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」というゲームのストーリーの一つ「宝石泥棒編」のメイン登場人物(種族)である「珠魅」の設定を下敷きに、捏造や脚色しまくったパロディです。


豊前は輝石の座に属する騎士だ。パートナーはまだいない。一族の長に愛と忠誠を誓ったかつての騎士長と同じ、ルビーを核として生まれた珠魅の騎士だ。それだけで豊前は珠魅一族の将来を担う者として期待され、一際目を引く容姿も相まって数多の姫からパートナーの申し出があった。だが、豊前はすべての申し出を断っていた。
パートナーを作るつもりが無いわけではない。豊前がパートナーにしたい相手は一人だけ。ターコイズの核を持つ、その珠魅一人だけだ。パートナーになってくれと申し出るたびに振られ続けているが、豊前は諦めていなかった。

「で、また振られてきたんだ」
「そーなるな」

珠魅達の暮らす街の一つ、煌めきの都市。その中層階に豊前は気心知れた騎士仲間の桑名といた。珠魅の世界は階級社会なので、属する座の異なる者同士がつるむ事は少ない。だが、豊前はそんなこと関係無いと言わんばかりに桑名と親交を深め、いつしか二人の仲は悪友と呼べる域にまで達していた。ここまで仲良くなってしまえば、古老の珠魅達も黙認状態である。

「身分違いだっつーけど、輝石の座だろうが捨石の座だろうがそんなの関係ねーのに」
「それは豊前だから言えるんだよ。捨石の座から見たら、輝石の座なんて雲の上の存在。しかも将来の騎士長候補。逃げられないだけでもマシだと思わないと」

豊前は珠魅として生まれた時から、ずっと一人の珠魅だけを求めていた。自分の属する座を知らなかった頃から、ただ一人だけを一途に。時が経つにつれて核の輝きが増すようになると、豊前の元には様々な誘いが舞い込むようになった。古老達に押しつけられる騎士長候補としての役割、パートナーを求める姫からの恋文としか思えない便り。全てが煩わしかった。
生まれ育ったこの光り輝く街は嫌いじゃないが、時々ひどく窮屈だ。それはこの悪友も同じらしく、事あるごとに「綺麗だけどここには大地がない」と嘆いている。世界にはこんなにも広い場所があるのかと、旅先で無限に広がる大地を見て感動したらしい。いつかこの街を出て、マナに満ちた世界を旅をしてみたいというのが二人の野望だった。

「外に出てーな……
「同じく。でも、外では珠魅狩りが流行ってるらしいからね。みんなピリピリしてる」

珠魅狩り、それはかつて一族を滅びの危機に追いやった災難だ。元々珠魅の持つ核は宝石としての希少価値が高く、欲に目が眩んだ者達によって強奪される事がしばしばあった。それで他種族との紛争になった事もある。争いで数を減らした珠魅。マナの英雄が珠魅一族の最期に涙した事により珠魅は再び栄える事ができたのだが、豊前達からしてみればそれは昔話だった。
少しでも新鮮な空気を吸いたくて、豊前は窓から下を覗き込んでみた。街中に敷き詰められた宝石に日の光が反射して眩しい。綺麗だけれど、やっぱりこの街はどこか息苦しいと思う。

「あれ、松井じゃない?」

同じように窓から顔を出した桑名が、よく見知った後ろ姿を見つけた。――豊前が求めてやまないターコイズの核を持つ珠魅、松井だ。都市の外に行くのだろうか。松井は門を抜けていった。


*****


松井は捨石の座に属す珠魅だ。珠魅の位としては最下層にいる。ひっそりと市井の片隅で生きていきたいのに、事あるごとに殿上人である輝石の座の騎士に声を掛けられ、松井は困惑していた。彼の事が嫌いなわけではない。人となりはとても好ましいと思っている。ただ、彼とはあまりにも立場が違いすぎるのだ。自分は何も返す事ができないのに。
そんな松井はアクセサリーを売って細々と生計を立てていた。材料となる宝石は山のようにあるので、それを首飾りや指輪にして他の街で売るのだ。いくつか新作が完成したので、早速ドミナの街へ売りに行くところだった。
移動するにあたり、最も気をつけるべき存在はモンスターではない。珠魅にとってはもっと恐ろしい存在、珠魅狩りだ。珠魅狩りは珠魅達を良く言えば宝石、金蔓としか見ていない。松井は核が外から見えないようにシャツのボタンを一番上まで締めて、ストールをしっかりと巻き付けていた。
山を一つ越すと大きな街道に出る。そこから洞窟を抜ければドミナの街は目の前だ。ノルン山脈に足を踏み入れたところで、松井は嫌な気配を感じた。

……珠魅狩りか?)

松井は立ち止まった。ここは逃げるべきか。一度街に戻り、日を改めた方がいいかもしれない。そう決めた松井はくるりと踵を返そうとしたが、すでに取り囲まれていた。……ちっ。思わず松井から舌打ちが漏れた。
松井はウンディーネの力を込めた魔法を奏でる楽器を懐から出した。これでも将来の騎士達と共に遊んで育った身なので多少は武芸の心得があるし、護身用に片手剣も持っている。しかし今は正面切って相手をするよりも、この場から逃げた方がいい。松井はそう判断した。
逃げ切って煌めきの都市の近くまで戻れば、助けを求める事もできる。松井は小声で水の魔法を詠唱した。水の精霊ウンディーネが宿る小さなフルートが奏でるメロディと共に、どこからともなく水流が押し寄せた。

「魔法だと!」

逃がすなという声が聞こえたような気がしたが、そんなの無視だ。松井は相手が怯んでいる隙をつき、その場から脱兎のごとく逃げ出した。

だが、多勢に無勢だった。水流の弱いところにいた賊の一人が咄嗟に松井の腕を掴んだ。足を縺れさせ、地面に倒れ込む松井。咄嗟に胸を庇ったのを見られてしまった。

「珠魅だ!」

その行動が松井が珠魅だと相手に確信を与えてしまった。ストールを剥ぎ取られ、シャツが破かれる。輝く胸のターコイズ。これは上物だと、頭上から卑しい声が聞こえた。
松井は抵抗を試みたが、手足を押さえつけられ身動きを封じられてしまった。珠魅狩りの手が核に伸びる。珠魅は核が無くては生きていけない。松井は青ざめた。誰か助けて、―――

……ここで何してんだ?」

不意に聞こえてきた、抑揚のない無機質な声色。松井の核を奪おうとしていた賊の首に、ぴたと銀色の刃が当てられていた。――豊前だ。豊前の放つ異様なまでの殺気に、辺りの空気が絶対零度まで下がっていく。松井からは見えなかったが、赤色の視線はとても冷たかった。

「悪ぃな。きさんらを見逃してやれるほど、心が広くないんだ」

豊前は珠魅の騎士達の中でも一、二を争うほどの腕を持っている。その力量差は歴然で、生兵法の賊達の相手なんぞは朝飯前だった。数分後、松井を取り囲んでいた賊共は物言わぬ姿と成り果てて山頂へと続く道の脇に転がっていた。

「豊前……
「松井が外に行くのを見て、何か嫌な予感がしたから慌てて追っ掛けきた。……無事でよかった」

豊前が松井に手を差し出した。松井はその手を取ると、身を起こした。大きな怪我は無く、核もほぼ無傷だ。もし豊前が来るのが少し遅れていたらと思うと、松井の体がぶるりと震えた。

「助けてくれてありがとう。でも、君に怪我が……

しばしの躊躇いの後、松井は豊前の核に手をかざして触れた。珠魅が騎士と姫という二つの役割に分かれているのは、騎士が珠魅のため姫のために戦い、姫が騎士の負った傷を癒やすため。そうやって珠魅は今日まで続いてきた。
騎士のパートナーになった姫は、生涯をかけてその騎士を癒し続ける。松井が豊前を癒やそうとしているという事は――
その意味を理解した豊前の体がびくりと跳ねた。ついに求め続けた存在を手に入れる事ができたと、体の奥底から歓喜が湧いてきた。松井が涙石を零せば、豊前の核が癒える。そして……

だが、松井の緑青色の瞳から涙石がこぼれ落ちる事はなかった。

……これでわかっただろう?君を癒したくても涙を流すことができない。僕は姫じゃないから。ルビーの騎士である君のパートナーにはなれないんだ」

そう言って自嘲すると、松井は触れていた豊前の核から手を離した。身分差以前に、パートナーになる資格が無いのだ。そのうち豊前も目が覚めるだろうと、松井は断り続けていた。しかし豊前は諦めなかった。一途に松井をパートナーにしたいと求めてくる。だから松井は現実を見せつけるしかなかった。僕は君のパートナーになれないのだと。

「僕は癒しの力を持っていない。騎士になれるほどの戦う力もない。そんな中途半端な珠魅なんだ。それでも――

僕をパートナーにしたいと言えるのか。松井は言外に問う。どうかこれで目が覚ましてほしい。松井が己を欺き続ける重みに押しつぶされてしまう前に、豊前の方から離れていってもらいたかった。揺れる瞳を見られたくなくてそっと目を伏せた松井に、豊前は優しく声をかけた。

「そんなもの関係ない。俺が欲しいのは松井なんだよ」

核に貴賤は無い。豊前が一番綺麗だと思うのは松井の胸にあるターコイズの核で、その輝きは何よりも美しい。座とか役割とかそんなものはどうでもよくて、豊前は目の前の美しいものを手に入れたいだけだった。松井が拒む理由が身分や役割だというのなら、豊前の答えは決まっているし、変わらない。同じ事を言うだけだ。

「俺のパートナーになってください」

真っ直ぐに松井を射貫くルビーの瞳。胸の核もほんのりと輝きを放っている。こんな自分なのに、豊前は変わらずに求めてくれる。差し出せるものはこの身に宿した核しかないけれど、彼がそれだけでいいと言うのなら差し出そう。欺き続けた想いを認めた松井は小さく頷いた。
輝石の豊前と、捨石の己。誰もが憧れる最高位の騎士と、何の力も持たず何者にもなれない自分。身分違いも甚だしいし、きっと珠魅のあり方としても間違っている。きっと豊前は色々と言われるだろうから、辛い思いをさせてしまうかもしれない。自分は何を言われても耐えられるけど、彼があること無いこと言われるのは辛い。
けれど、松井はこれ以上嘘をつきたくなかった。松井だから欲しいんだと言って求めてくれる豊前のために。

「松井」

豊前が万感の思いと熱を込めて松井の名前を呼んだ。その赤い瞳はどこか悦に入っていた。ようやく手に入れたのだ。欲してやまなかった、この世界で一番綺麗なものを。大切なひとを。

「やっぱり、松井の核が一番綺麗だ」

そう言って、豊前は松井の剥き出しの核に口づけた。その口づけに共鳴して松井の核が輝きを放つ。核は珠魅の心臓であり、命そのもの。いくら言葉や態度で繕ったって、この輝きだけは誤魔化せない。ついに松井が豊前を受け入れてくれた。これに勝る喜びがあるだろうか。豊前がその細い体を強く抱き締めると、核同士が当たって硬い音を立てた。

「あの街は嫌いじゃねーけど、息苦しい。どこか違う街に行って暮らそーぜ。どこ行きたい?魔法都市なら何でもあるし、松井なら月夜の町も気に入りそうだ。……でーじょうぶだよ。俺とお前なら、きっと」

何だってできるし、何にだってなれる。

その言葉に、松井の眦から一粒の小さなターコイズがこぼれ落ちた。――涙石だ。松井の涙石は癒しの力を持たない。そんなものに価値はあるのだろうか。「泣けない珠魅に価値は無い」。宝石泥棒はそう言って珠魅から核を奪い、一族は滅びの危機に陥った。遠い昔の話だ。
価値ならここにある。世界で一番綺麗な涙の価値は自分だけが知っていればいい。豊前はこぼれ落ちたターコイズを手で受け止めると、そのままゆっくりと飲み込んだ。――誰にも渡してやるものか。全部、自分のものだ。



――ルビーの騎士が出奔した。

そのニュースはあっという間に煌めきの都市を駆け巡り、強い衝撃を与えた。将来を期待されている騎士長候補がそんなまさか。古老達は方々手を尽くして彼を探したが、見つける事はできなかった。それと同時に捨石の珠魅も姿を消していたのだが、その事は全く話に上がらなかった。消えた事に気づいているのかも怪しいぐらいだ。
それを追うように二人の珠魅も姿を消すのだが、それはもう少し後の事。彼らの行方もまた、わからなかった。


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ミュ江のカラーが宝石の名前だということで、これは一度書かねばと。
大好きなゲームの一つなので、いつかリメイクが出て欲しいものです。


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