池の魚

お題アンケートから「酔った勢いで」乙普

乙普に巻き込まれる人たち。
「知らん」


「ああもう、どうしよう」
かれこれ何十回目かのそれを耳にして、太公望と木吒はため息をついた。何百回も目の前を行ったり来たりされ、それだけでも目障りなのに、目が合うたび「どうしたらいいと思う?」と訊かれて、そろそろ我慢の限界だった。「そうだ、修行に行かなきゃ……」と中座しようとする木吒を太公望は無理やり引き止める。自分だけが付き合わされるのは勘弁してほしい。

「好きな人がいるんだ」
ある日普賢がそう訴えた。この世の終わりみたいな真剣な表情だった。木吒と太公望は顔を見合わせた。師匠の色恋と、同期の色恋、そういうこともあるだろうと感慨深く受け止めるにはどちらも少々時間が必要だったのだけれど、二人が頷き合ったのを普賢は「詳しく聞きたがっている」と受け取ったらしい。
「実はよく知っている人なんだけど、僕よりずっと年上でね、」
相手のどこがどのように好きで、笑顔がどんなに素敵なのかをとうとうと語り始める。普段物理についてよくわからない話をいつまでもやめないのと、同じ調子だったが、一つちがうのは、物理法則のようにはっきりと答えが出ていないらしいことだった。
「伝えていいものかどうか、迷っているんだ、迷惑かもしれないし」
「言えばよかろう」
「言わないと伝わらないですよ」
「望ちゃんも木吒も、どうしてそんな簡単に言う? 酔った勢いでもないと言えるわけないじゃないか」
与太話に付き合ってやった挙句この仕打ちだ。二人は諦めの表情で目を伏せてから「知らぬ」「知らないですよ」と肩を竦めた。
「酔っていないと言えないなら、とっとと酔えばいいではないか」
普賢ははっと息を飲み、それから「そっかそうかも」とぶつぶつ呟いた。