池の魚

お題アンケートから「酔った勢いで」乙普

乙普に巻き込まれる人たち。
「知らん」

「ああもう、どうしよう」
かれこれ何十回目かのそれを耳にして、哪吒はため息をついた。何百回か目の前を行ったり来たりされ、それだけでも目障りなのに、目が合うたび「どうしよう」と訊かれて、そろそろ我慢の限界だった。無言で乾坤圏を向けると、びくりと肩を竦め、そのときはおとなしくなるがまたしばらくすると「どうしよう、哪吒」と元の木阿弥である。
「知らん」
それももう何十回言ったか。おそらくこいつは相談しているつもりなどないし別に答えなど求めていない。要するに、不安のはけ口にされているだけだ。それが余計に腹立たしい。

「好きな人がいるんだ」
ある日太乙真人がそう訴えた。やけに真剣な表情だった。哪吒は眉を寄せ、無言で首を傾げた。キサマの好き嫌いなど一ミリも興味はない、そんなことに悩んでいるくらいなら新しい宝貝を寄越せ、という意思表示をしたつもりだった。だが相手は「詳しく聞きたがっている」と受け取ったらしい。
「実はよく知っている子なんだけど、私よりずいぶん若くてさ、」
相手のどこがどのように好きで、笑顔がどんなにかわいいかをとうとうと語り始めた。普段宝貝についてうんちくを垂れるのと同じ表情だったが、宝貝みたいに完成して喜ぶ、というところには至っていないらしい。
「伝えていいものかどうか、迷っているんだよ、迷惑かもしれないし」
「言えばいいだろう」
「なんでそんな簡単にいうんだい。そんなの酔った勢いでもないと言えるわけないじゃないか」
興味のない与太話に付き合ってやった挙句この仕打ちだ。両腕で乾坤圏を構えると「知らん」ともう一度繰り返した。
「酔っていないと言えないなら、酔えばいい」
太乙はぱちりと瞬きをし、それから「そっかそうかも」とぶつぶつ呟いた。