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太公望と普賢
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伏羲の話。最後の一文で読み方が変わる話。
「もう少しゆっくりしていけばいいのに」
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その姿が風の中に消えてしまってから、「やっぱり」と声に出した。
「出かけるから、かわりに待っていてあげてよ」
そう頼まれたのは三日ほど前のこと。もちろん断った。こんな頼み事ははじめてではなかったし、なにより毎回、どこかがっかりしたように去っていく背中を見るのは忍びなかったのだ。神になったその人は「お願い」と両手を合わせた。
「大丈夫、きみの変化は完璧だから」
「いや、絶対バレますって」
そう引き下がったが、普賢は「大丈夫、大丈夫」と笑うばかり。あまりな態度に、頼みの綱である師に相談したものの「あの子は忙しそうだが、とてもいきいきしているよ」とほほえましそうに頷くので眩暈がした。すこしくらいは諫めてほしい。だって彼らは大切な友人同士ではないか。
「普賢がじっとしていないことくらい、太公望にもわかっているだろう」
愚痴をこぼす楊戩に「昔からそうだったよ」と玉鼎はおかしそうに言った。
「もちろん普賢も。あれはあれで、ちゃんと太公望を気にかけている」
「本当ですか?」
「気にしていなければ、かわりに待ってやってほしいと頼んだりしないだろう」
顔を合わせないからといって、気にしていないわけではない。それぞれがそれぞれの道をそれぞれのペースで歩みはじめたことを、普賢はちゃんと歓迎して受け入れて、だからこそ目の前のことに忙しいのだ。
「それはそれとして、やっぱり僕を巻き込むのはやめてほしいですね」
「おや。お前は太公望に会いたくないのか」
「ダシにされるのは嫌なんです」
今度頼まれたら太乙真人さまに丸投げしよう。ボイスチェンジャーでも作ってもらって、誰でも普賢師弟の居留守ができるようになったら、さすがの師叔も黙ってはいられないんじゃないだろうか。
晴れやかな夏空にかの人の忍び笑いが聞こえた気がした。
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