無窓居室
2023-01-12 05:36:35
5982文字
Public 名刺代わりの短編集Ⅰ
 

たとえばこんなConfession

「女子が言われて嬉しい言葉」short https://youtube.com/shorts/2gKw9aqCR7g?feature=share を見て殴り書いた😈→👹告白ネタ。あまりにやっつけなので後で消すかも。誤字脱字ひどかったらごめんなさい。


……ん、アカネさん!」

 聞き慣れた声で目が覚める。
 触れると点くライトのように世界が戻ってきた。ただの気絶なら底から浮かび上がるような感じくらい残るのに。
 どうしてどれだけ寝ていたのか全く分からないなんて初めてかもしれない。それほど深い意識の落とし方。危なかったんだろうか。気のせいか掛けられた声も珍しく、本当に珍しく少しだけ切迫していた気がする。

ブラック

 目の焦点が合うとそこには思ったとおりよく知った悪魔の顔があった。感情の読めない瞳がじっとこちらを見ている。何だかいたたまれなくて目を逸らした。

また助けられちゃったみたいだな」
「アカネさんがオレちゃんを庇う方が先でしたけどね」
「そうだっけ
「カメラちゃんが撮ってます。後で見せてあげますよ」

 アタシの体に痛みはない。見るかぎり腕と肩に浅い擦り傷が残っていて、動くとひりつくかもしれないと思う程度だ。
 少しずつ気を失う前のことが思い出せるようになってくる。あれは完全に死ぬのを覚悟した……のにこの程度の怪我でアタシが生きているのはまず間違いなくブラックの力だろう。
 アタシの怪我を治すなり、なかったことにするなりで力を使い過ぎたりしてないだろうか。ブラックは。いつもより固く聞こえる口調で、心なしか血の気の引いた顔をしているブラックの心配をしていると、ぽつりと雨の最初の一滴のような声がかけられた。

「なぜこんな無茶をしたんです?あの状態から治癒が成功したのは奇跡です。オレちゃんならまともに喰らってもアナタほど危険なことにはならない。あんな事をすべきではありませんでした」

 助けようとした相手から〝お前は自分より弱い〟と言われてる。ひどいな。ちょっと笑ってしまった。

「ごめん」

 でも、少しも後悔する気になれないのだ。

「謝らなくていいので答えて下さい。これは重要な質問ですよ」

 なんだかブラックが真面目になってるみたいなのでアタシも目を閉じて、どうすればあの時ブラックを庇わずにいられたかを考えようとしてすぐやめた。無理だ。
 たしかにブラックの方がアタシより強いし耐性もあったかもしれない。そもそもブラックって死ぬんだろうか?殺しても死なないような奴だし死んだら蘇るくらいの力はあったって不思議じゃない。でも、もしそうだとしても、アタシはブラックが一時でもやられるのをみすみす見ているだけなんて嫌なんだ。
 それにアタシが行かなければ他の誰かがブラックを助けようとして犠牲になったかもしれない。ブラックには沢山のファンがいるけどアタシほど力が強くて体も丈夫な奴はそういないだろう。なら、アタシが行かなくちゃ。
 さとしなんか一番ダメだ。ブラックが見込んだ子なんだからやる時にはやる男なのかもだけど。でも、子どもにはこれから沢山しなきゃならないことがあるからな。夢を見つけて、頑張って、そしてうんと幸せになること。
 夢──アタシの夢はブラックが気づかせてくれた。それだけで助けるには充分だけど。アタシだけじゃない、ブラックの動画を見て楽しんだり笑顔になった人って大勢いるはずだよね。
 だからアタシはこう言うしかない。

分からない。理由なんて要るの?」

 少し間があった。
 呆れられたかな、もしかしたら嫌われたかもしれない。ブラックに。
 もしそうならすごく悲しいけど仕方がない。アタシ、頭悪いもんねそのうえ力も及ばなくって、迷惑だと思われててもしょうがない。
 疲れたので腕を使って顔を塞いだ。これから来るだろうことを拒むように。今のアタシに受け止める力があるかどうか分からなかった。

「オレちゃんも何がなんだか分かりませんよ」

 掛けられたのは予想外に優しい声だった。ブラックの反応を見る勇気がなくて目を閉じたままだから、声色の変化がよく分かる。

「理解も同意もできないのに、惹きつけられてやまないものがあるんです」

 おそるおそる瞼を上げると、ブラックの真ん丸かった目が少し楕円形になって、見慣れたアタシをからかう時の顔になっている。近い。
 顔色も戻っていたことに少し安心した。このまま、またいつもの関係に戻れるんだろうか。

「愛してます」

 ほらきた暇さえあればすぐに人をおちょくるんだから。しかもこんなタイミングで。
 よりによって、今度は何を企んでるんだろう?そう思って顔を背けたのに、ブラックは回り込んでまでアタシの視界に入ってくる。

「アカネさんを愛してます」
「!?」

 さすがに酷い。何を思いついたのか知らないけど、嫌われるのまで覚悟したアタシへのからかい方としてあんまりだ。
 カッと目の周りが熱くなって、気がついたら拳を振り上げていた。でもまだ力の入らない手はブラックにすぐ捕えられてしまう。

「オレちゃん、恋を知りませんが」

 仕草にどんな魔力を込めているのか、ブラックに撫でられると握っていた手がひとりでに開いていく。その一本一本をブラックのそれ優しく絡ませられた。まるで大切な人にするみたいに。
 怒りに沸騰していた頭の中がひとりでに静まっていって、困惑する。

「アカネさんのことは愛していると思います」
 
 いつも通り飄々としているくせに、聞いたことのない乞うような声。楽しげなのに、どことなく頼りない口調にびっくりした。
 どんなに疑おうとしてももうできない。だってブラックは嘘や冗談でこんなこと絶対にしない。いつも何を考えてるか分からないのに、そんな奴じゃないことだけは分かるから。
 かなり長い間アタシは呆けたように俯いていたと思う。考えは状況についていかないし、感情は胸の中で目まぐるしく暴れるばかりでちゃんと出てきてはくれないのだ。

「本当は、あの時に言おうと思ってたんです。でも素直にそうできなくて……

 あの時っていつだろう。一体どのくらい前からそんなこと言おうとしてくれてたのかなブラックがアタシで遊ぶときの態度、とにかく毎回面白そうなだけで変化とか分からなかったんだけど。
 思い当たりそうな記憶をたぐり寄せているうち、詰まった胸から今までの思い出が溢れてきて止まらなくなる。

「悪魔ですから」
「関係あるか?」

 照れ隠しのように続けられた台詞にツッコむ声が濡れてしまった。アタシにだって言いたいことがとても沢山あるのに、涙でつっかえて言葉にならない。

「お返事、もらえます?」
「言わせるなよ……っ」

 なんとか絞り出した返事の意味が正しく伝わったらしく、ブラックはやっと許しを得たというように指を解いて抱き締めてきた。力が強い。アタシ怪我治してもらったばかりなんだけど?
 文句の一つも言ってやろうとして、相手の肩が震えていることに気付く。喉が小刻みに震えていることも。
 まさかブラックまで泣いてるの!?
 慌てて顔を覗き込もうとしたときだった。

「カーッカッカッカ!!ディスイズ炎ターテイメント!!!」

 爆発するような悪魔の哄笑。
 喜んでくれるのは嬉しいんだけどさ、ここでいつものそれなんだ……もうちょっと雰囲気とか……いや、アタシ達にはガラじゃないよね。
 それに、突飛な企画を思いついたり悪人を成敗するときとは少し違った、ブラックの心底愉快そうな笑顔を見られるのは幸せだ。すごく。

「それにしてもオレちゃんに魂を取られるのは怖がるくせに、命を賭けるのは厭わないなんて……アカネさんって本っっっ当に面白い人です!!」

 ブラックはいっそう大きな声で笑い転げたけれど、いつでも少し表情を読めない顔をしているせいで、目元に滲んだ涙の意味がまるで特定できないのは少しズルいと思った。