無窓居室
2023-01-12 05:36:35
5982文字
Public 名刺代わりの短編集Ⅰ
 

たとえばこんなConfession

「女子が言われて嬉しい言葉」short https://youtube.com/shorts/2gKw9aqCR7g?feature=share を見て殴り書いた😈→👹告白ネタ。あまりにやっつけなので後で消すかも。誤字脱字ひどかったらごめんなさい。

「なんだよ!!男が夜道で乙女をつかまえて何言い出すかと思えば!」
「アカネさん、声が大きいですよ。時刻も遅いですしここは民家も多いです」
「ぐっでもさぁ」

 夜更けの住宅街を並んで歩く。撮影の打ち合わせ帰りのこの時間がブラックは好きだった。今夜もアカネはブラックの言葉にあたふたと騒ぎ立て、また容易く言いくるめられる。

「守ってもらえて落ち着く、なんてアンタ守られる必要一切ないじゃん。馬鹿にしてアタシてっきりいや、ちょっとだけ……
「あれあれ?今度は声が小さくてよく聞こえないですねぇ〜??」
「ぶっとばすぞ!!」
 
 ただの迷惑な押しかけファンと魔界のトップYouTuberとして始まった関係だった。根が悪い子ではないことは分かっていたが、それだけの。
 しかし多少の仕置きには懲りずに追ってくるアカネをからかいがてら少しの手ほどきを与えてやることは、YouTuberとしてもそれ以外の意味でも思いのほかブラックにとって楽しいものになっていった。
 楽しんでいるうちに何が変わったのかは判然としない。今では押しかけられるばかりでなく、ブラックの方もこうしてアカネを構うのをやめられなくなりつつあることだけが確かだ。

「でも実際守ってくれたでしょう?ほら、あの時」
「あぁ
 
 構い方が無秩序にエスカレートするのは良くないという意識はブラックにもあるので、違った方へ話を向けてみる。
 言われるまで忘れていたようで、アカネは決まり悪そうに頭を掻いた。簡単な脳味噌をしているな、と言えばしこたま殴られるだろうことをブラックは思う。こちらは忘れたときなどないのに。
 かき混ぜられる長い髪が今でも件の光景を思い起こさせる。無数に煌めく光の剣、貫かれた体の重み、それを支えようとした腕に流れた髪の目に刺さるような茜色を。

「山場でずっと休んでるなんて情けないとこ見せたから、あんま思い出さないようにしてるんだ。結局ブラックが勝ってくれたんだし」
「アナタも面白い人ですね。ずっと追い抜きたいと言っているオレちゃんに恩を売るチャンスだったのに。それも自分の身を挺して掴んだ好機、何も恥じることなかったんですよ?」
「アホらし。考えたこともないよ」

 ブラックは笑みを深くした。この鬼の少女の性格は至極分かりやすくて、ほとんどの場面で思い通りに操れるからこそ予想外の言動が印象深いのだ。
 大会の後、自分が予想し半ば望んですらいたのは「アンタに一つ貸しだ」と笑う彼女の姿だったのに。なのに、どうして悪魔にさえ思いもつかないことを。

「何かが欲しくてやる事じゃないだろ。そんな方法じゃどうせ手に入らないし」
「でもね、オレちゃんはアナタに何か差し出したいんですよ。もしアカネさんがこれからもずっとオレちゃんを守りたいと思ってくれるなら

 雰囲気が変わったのを確かめてから相手の顔を覗き込む。至極ブラックの気分は陽気だった。どうせもう彼女に関わるのをやめられないなら、今夜いっそう深くまで踏み込んでしまうのも悪くない。

「ずっとって、それ」
「代償に、悪魔の魂なんてどうです?」

 とん、と自分の胸を人差し指で叩きながら言ってみる。目の前の赤い瞳が丸く縮むのが見え、しばしの沈黙が降りた。


「え……ッえええぇぇええ!?!?」
「アカネさん、さっきも言いましたが深夜です。お静かに」

 ムードが大切な話をしてるんですからと耳打ちでとどめをさしてやろうとして、やたら大胆にこちらを見つめ返してくる相手を意外に思う。いつもなら照れるのを通り越して言葉遊びについてくるどころか、目を合わせることすらできなくなるはずなのに。
 ブラックから一歩後ずさったアカネは、その指先がさす胸とブラックの顔を交互に見てから口を開いた。

「魂のやりとりで取引するなんて、悪魔って本当にそんな事できるのか?」
「はい?」
「てか悪魔の魂ってどんななの?アタシは鬼だから何も知らないんだ。取引に使うってことは目に見えたり手でつまめたりするのかな???」
「つまむ」
「口や鼻から、こう……つきたてのお餅みたいのが出てきたりしてさ」
「いくらなんでもイメージ古すぎでは」
「いやほんと悪魔って、そうなんだ……噂だけは聞いてたけど実際に話を持ちかけられるとビックリするよ」

 怯えと好奇心の相半ばする表情で今度はブラックのをじろじろ眺めるアカネは、どうやら随分と話を取り違えているらしい。
 普段はちょっと話術でくすぐってやればすぐに男女の関係を意識して、面白いように引っかかってくるアカネだが本来は女子力の低い馬鹿──もとい朴直な思考をする娘だ。この網の張り方に掛からないとすれば、彼女の自己犠牲に恋愛が絡む絡まないは大した関係がないのだろう。少なくとも自覚していない。
 ほんの僅かな胸奥の軋みよりも、せっかく思わぬ方向に転がり始めた会話をより面白おかしくしようとするのがブラックだった。

「さっきから本気で言ってます?」
「本気だよ!友達の魂を預かる預からないって話だもん、よく考えなきゃ」
「ちなみにこの取引、今回の場合だとオレちゃんの魂がアカネさんのものになると同時にアカネさんの魂はオレちゃんのものになるのが一般的です」
「何で!?怖っ、そんな一般ある!?」
「怖いんですか?」
「当たり前だろ!」
「そうでないと取引が正しく成立しないんですが」
「怖いんだけど!?守る代償とか言ってたじゃん!」
「そこはほら、悪魔ですから」
「説明雑になってないか!?駄目だよ、アタシのことはともかくそんなノリで魂をあげたり奪ったりしちゃ!!」

 おっかなびっくりだったアカネの表情に力が戻る。強い握力で手首を掴まれ、気取ったポーズをつけたままでいたブラックは珍しくよろめいた。赤い瞳が燃え立つように自身を射抜いている。

「ブラック、もっと自分を大切にしなよ。そんな取引アタシはしない!魂なんかくれなくても、アンタは絶対にアタシが守るから!!」
「カーッカッカッカ!!オレちゃん、フラれてしまうとは!しかもこのフラれ方は予想外!ディスイズ炎ターテイメント!!!」

 真夜中の住宅街に二人の声が朗々と響き渡った。