みたむら
2023-12-13 13:22:36
8097文字
Public 同人誌発行物まとめ
 

「これが選んだ道」サンプル

刀剣乱舞:長義さに本2冊目です。


「これが選んだ道」本文サンプル


プロローグ

 これは数年前のことだ。
 私は、社会人として働いていた。
 就職先は、大手でもないがそれなりに長くある企業だ。そこで、新入社員としてその会社に貢献できるように頑張っていた。しかし、思うようにいかない。先輩や上司の指摘され、仕事のミスで先方へ謝りに向かうなど、理想と現実のギャップを受けつつも、仕事を続けていた。土日の休日は、遊びに行くことも少なく、ただ身体を休ませることが先決で家事もほぼ外食やスーパーのお惣菜、カップ麺などで済ませたりしていた。所謂〝女子力〟たるものが、備わっていない、ただ社畜だけの女性社員だった。化粧も最小限、ファッションも最低限のもの。流行を追いかけるほどの心の余裕はない。そして、友達こそいたが、気がついたら音信不通になっていて、連絡がきたなと思ったら結婚の知らせと結婚式の誘い、披露宴のご招待だったりする。
 喜ばしいと思いつつも、私は何のために働いているんだろう、と気がつけば虚無感が増すようになった。毎日が怠い。休みは取らせてもらえず、会社も最近売り上げがよろしくないのか、上層部からの圧力がやけに厳しい。そして、次から次へと退職していく者も増えていた。私も退職を考えたこともあるが、転職先が見つかる保証ないし、希望も見えないので今のままズルズルと今の会社に残っていた。同期だった人も辞めていき、余計に仕事が山のようにある。

――あれ?」

 仕事場のパソコンを入力している時、視界がぐらりと揺れた。何度か瞬きするも、正常に戻ってはまた霞がかかったように視界が見えなくなっていく。
 側に置いてあるコーヒーの飲みかけを飲み干すものの、頭が冴えない。頭もだんだんぼうっとなっていく。
 そして、ついに私はパソコンの前に倒れてしまう。

――――!! ――――!!」

 先輩たちの声が聞こえる。でも、何を言っているのか分からない。しかし、体が思うように動かない。
 先輩が「大丈夫か?!」と気遣いの言葉に答えようとするも口が動かない。ただ、全身が怠くて返事もままならない。そして、意識が遠のいた。

 私が目を覚ますと、見慣れない天井が広がっていた。そして、独特の薬品のような、鼻につんとくるような癖のあるにおいを嗅ぐ。

(ここは、病院?)

 辺りを軽く見渡すと、ドラマとかで見たことがある病院内の部屋だと分かる。私は、病院のベッドに寝かされていた。

「あっ、気がつきましたか?」
「あの」
「ああ、無理に返事をしなくてもいいですよ。一週間くらい寝ていましたから。今は何も考えず、身体の回復に努めてくださいね」

 巡回に来たのか、担当の看護師が笑顔で窓辺に飾っているお花を新しく持って来た花瓶に入れ替えている。

「先生を呼んできますね」

 失礼しました、と言って看護師は退出する。開けられた窓は風が入ってきて、白いカーテンがそよぐ。風のにおい――空気を吸ってやっと生きた心地がした。
 しばらくして、先生がやってきた。そこで、事情を聞くことになった。
 私は、会社で仕事していたところ、意識が飛んで倒れてしまったらしい。そして救急車に運ばれて診察すると、ストレスと過労が蓄積されたのだろう、ということだった。そして、会社の勤務状況について調査が入ったらしく、所謂〝指導行き〟になったらしい。私に対する処遇は、会社都合で解雇、ということになったようだ。

「解雇……
「私の方も、休職という形で勧めてはみたんですが、会社側が解雇させると言って聞かなかったのです。ショックもあるかもしれませんが、今のあなたに休息が必要です」

 先生は、優しく言ってくれるが私の心はズシンと大きな岩に押しつぶされそうな心地を味わっていた。用無しとして捨てられたのだ――役立たずだからと。
 私の意見も聞く前に一方的にクビと言われて、私はどうしたらいいか分からなかった。社会人になってまだ数年だ、退職金なんてちっぽけだ。しかも、病院に入院料を払わないといけない。そんなお金があるわけない。絶望しかない。
 私は、悔しくて悲しくて目から涙が溢れた。会社のためになっていない自分が悔しくて、会社や病院に迷惑をかけてしまった自分が申し訳なくて。私はなんて無力な人間なんだろうと自分を責めた。

「あなたは頑張ったのです。頑張りすぎたがために、神様が止めてくださったんですよ」

 そう言って先生は優しく頭を撫でる。私は、ただ涙を止めようと必死だった。でも、どんどん溢れていく。

「今日は、ゆっくり過ごしてください。会社があなたを解雇した代わりといっては何ですが、会社の調査に入った政府の者から、あなたに提案があるようです。二日後くらいにあなたと話をしたいと相談が来ていますが、いかがしますか?」

 私は、こくりと頷いた。今の私にはそれが精一杯だった。
 先生は「では、政府の人にお返事しておきますね」とカルテに何やら書き込みながら笑顔で応えた。
 先生が部屋を退出すると、一人でこれからのことを考えていた。会社から解雇されたなら、転職活動するしかない。その代わり自己都合にされつつある中で、会社都合に取り合ってくれたことが幸いなのかもしれない。履歴書に少しの汚名で済んだ。次も正社員で受かるかどうかも分からないので、もしかしたら住居ランクも下げないといけないかもしれない。最悪、実家がある地方へ帰ることも視野に入れないといけない。家族にはなんて報告すればいいか、分からない。情けない、と怒られるのだろうか。それとも、医者の先生みたいに慰めてくれるのだろうか。

「問題が山積みだ……

 体調を整えて、なんて悠長なこと考えられない。しかし、まだ身体が本調子じゃないことも事実なので、今はゆっくり寝ることにした。

* * * * * *



 先生と話をした二日後、私の病室に黒いスーツを着た男の人が訪れた。先生も一緒にいたので、彼が以前話していた〝政府関係者の人〟なのだろう。

「この人が、この間話していた政府の人です。とりあえず、話を聞いてみてください」
「はい。分かりました」
「初めまして。あなたの会社について怪しいところがあったので、あなたが病院に運ばれた後、調査をしましたところ、パワハラの激しい環境だったことが分かったんです」

 私だけでなく、これまで退職していった人たちも半分かそれ以上の人が過労で辞職に追い込まれたらしかった。役所が持つ転職活動相談所らが、あまりにも私が勤めていた会社を辞める人が後が立たないことが気がかりで、政府の方へ耳が届き、直接政府の人間が調査に乗り出したとのことだ。パワハラや、女性ならばセクハラなど日常茶飯事だったらしい。確かに、美人だなぁっていう人は日に日に元気がなくなっていったような気がする。仕事が終わると、そそくさと退社していたのを覚えている。それは、セクハラから逃れるためだったのかもしれない。そして、私という新しく入ってさほど経っておらず、何も知らない人間が入ったので、ターゲットが私にきたようだ。初めは仕事をこれでもかと押しつけ、少しのミスがあれば怒号を浴びられる。それが、実は私の上司だったのが分かったらしい。上司はもうすでに退職済みだ。

「先生の説明に少し補足すると、会社側はあなたを引き留めたかったようですが、それを私たちが止めました――勝手ながら、我々政府側の〝とある診断〟を受けていただきました」

 そう言って彼はにっこりと微笑んだ。その笑みが少し恐怖に感じた。

「我々があなたを調査した結果、我々政府が持つ〝審神者さにわ〟の適正がありました」
「さにわ?」

 聞いたことがなく、言葉を口にした。すると、審神者のことを教えてくれた。

「審神者の素質がある人間を我々政府は求めていまして、あなたさえよければ是非、審神者になってもらいたい」

 審神者は一応、政府管理下に入るので世間体では〝国家公務員〟の扱いになるらしい。その代わり、このことは表には告げてはいけないとのことだ。審神者は顕現する付喪神と共に歴史を改変しようとする遡行軍という敵を倒す仕事らしく、この戦いに負ければ歴史が書き換えられ、この世界が歪んでしまうという。
 国家公務員として働くが、ほとんどは本丸と呼ばれる施設で住む形になり、現代とはかけ離れた異世界に行くことになる。そのため、審神者になったらこの現代とはほぼさよならに近いようだ。

「ただし、条件があります」
「条件?」
「ただ審神者になれ、というだけでは不都合でしょう。そのため、今回の入院料、治療費は全てこちら側が持ちましょう。その代わり、あなたは審神者になってもらう――いかがでしょう?」

 今回の入院料、治療費はとてもじゃないが払えない。正直、困っていた。それが、私が審神者になれば政府が代わりに払ってくれるという。審神者になるということは、歴史を守るために身を捧げろと言っているようなものだった。
 これを断れば、転職活動をしなければいけない。それがうまくいく未来はとても見えない。かといって親元に帰るのはしたくないのが本音だった。

「分かりました……その条件、のみます」
「理解が早くて有り難い――といっても、既に政府が費用を払っているのでどのみち審神者になるしか道はないのですが」
「は?」
「こちらも、結構深刻でして。ご理解いただき、ありがとうございます」
「よかったですね」

 先生もにっこりと笑っている。二人の笑みが、とても怖く感じた。私は、とんでもないことに巻き込まれたのではないのか、と心の中で思う。

――で、あともう一つ通達があります。先ほどの条件に追加をさせていただきます。あなたは、未婚で間違いないですか?」
「え、ええ」

 何で未婚だと知っているのか。会社の調査の時に履歴書とか見られたのかもしれない。なんで、婚姻情報なんているのか疑問だが。

「テレビのニュースなどで『少子化』などと騒いでいるのは少なからず聞いたことがありますか?」
「まぁ、一応」
「少子化問題も、実は我が政府側も深刻でして、審神者の中にも後を引き継ぐ者が年々減ってきているのです」
「私のように勧誘とかすればいいのでは?」
「もちろん、それもやっていますがこちらは異世界での戦いとはいえ、死者も出ています。中には幼子のままで亡くなった者も増えているのです」

 急に深刻な話になって、少しずつ嫌な予感が漂ってくる。私がとても……会社でこき使われ過労で倒れた事以上に嫌なこと。

「そのため、最近時の政府側の議会で決まった方針として、未婚の審神者・政府職員は、結婚することを義務とするようになりました。未婚であるあなたは、男性の審神者、もしくは政府の人間と結婚し、子を残していただきたい」
「あの、やっぱり私――
「拒否権はございません。これも運命だと思って、受け入れていただきます。心配せずとも、あの会社よりは快適な生活をお届けします」

 戦の時を除いて――と、政府の男は今度こそ、にんまりと、冷たい笑みを零したのだった。

第一章 結婚

 小鳥のさえずりで、目を覚ます。
 目を何回かぱちくりすれば、朝が来たと気づく。今は梅雨時だが、日は昇ったばかりだ。昨夜は雨が降ったせいか少し肌寒いほどだ。
 嫌な夢をみた。私が政府になる前の、ゾッと恐ろしい政府との出会いだ。今思えば、もう強制連行のようなものだ。あそこまで脅されて、断れる強者がいればお目にかかりたい。しかも、あんな頭がこんがらがっていてこれからどうしようかという時に、だ。
 私はあの後、時の政府の管理下にある審神者となって、本丸を与えられ、刀剣の付喪神つくもがみを顕現化し、今では刀剣男士と共に時間遡行軍じかんそこうぐんとの戦いを繰り広げている。
 最初は、審神者の適正があると聞いて半信半疑だったが、審神者になるための学校に入り、それなりに修行を積んだ。何とか、それなりの戦力にはなっている――はず。
 もう少し寝たい気持ちを何とか鼓舞し、布団から起き上がる。せっせと身支度を調えると、端末を立ち上げる。
 私の審神者としての一日は、早起きから始まる。今は朝五時頃だろうか。そろそろ早起きが好きな刀剣男士たちも起きて来る頃だろう。とはいえ、私が彼らに顔を出すのは朝餉の時であり、実はすでに起きていることは一部の刀剣男士しか知らない。

……主、起きているか?」
「はい、どうぞ」
「失礼する」

 障子の向こうから小さい声で告げる言葉に、私は了承する。すっと音を立てないように、既に身支度を調えた刀剣男士が顔を出す。
 近侍――山姥切長義やまんばぎりちょうぎ
 最初は近侍である彼を道連れにするつもりはなかったのだが、気がつけば、私に合わせて早起きし、仕事の補佐へと動いてくれている。個人的にやっていることであり、近侍までしなくてもよい、朝餉の後に手伝ってくれればいいと言ったのだが、この生活を知ったら知らぬ振りはできない、と言って今のようになってしまった。非番の日を設けているが、早朝に起きることが癖になってしまったのか、近侍の仕事がなくとも、鍛錬したりしているらしい。

「おはよう。よく眠れたかな?」
「おはよう長義――よく眠れたかもしれないけど、気分は最悪ね」
「へぇ、どんな悪夢を見たのかな?」
「昔の夢。たまに見るの」

 これ以上は教えない、というように口を閉ざすと彼も分かっていると言わんばかりに、突っ込まなかった。
 そんな他愛のない会話をしつつ、準備に取りかかる。
 何故、今更審神者になった頃の夢を見たのだろうか。
 審神者になって、それなりの実力を担うようになり、特命調査などにも駆り出されるほどだ。
 歴史を守るために戦うこと、それは国や人々への貢献をしていると思うが、同時に刻々と〝危機〟が迫ってきているようにも思う。
 審神者や政府職員は、適正がある人間のみが所属できる。ただ運動や頭がいいだけでは入れない、特殊型エリートだ。
 私は病院でお世話になっている間に、身体検査を受けていたらしくて政府側がやってきた時に適正ありと報告されたのだ。半分……いや、ほぼ強制的に審神者になるように言われ、養成学校できっちり勉強をたたき込まれ、本丸と初期刀の山姥切国広やまんばぎりくにひろを与えられ、今では多くの刀剣男士がここ本丸に集っている。
 長義とは聚楽第の調査で『優』判定をもらい、我が本丸へ所属してきた、元政府側の刀剣男士だ。他にもそういった事情の刀剣男士もいて、政府側の指示で本丸に所属し、審神者の補佐として働いているようなものだった。長義は、私が顕現した刀ではない。だからなのか、どこか信用できない部分があるのも確かだ。

(長義のことは、よく働いてくれていい刀だけどね)

 政府側で働いていた、ということで逆に言わせれば『監視役や諜報部隊として送り込まれた』とも取れるのだ。彼はそんな任を受けていないと言っているが、実際はどうかは定かではない。一応深い関わりのある山姥切国広は「あいつを信頼してやってくれ。俺が保証する」と仲がよくないのに、庇ったほどだ。今のところ、長義は裏切り行為はしていない。
 審神者になる条件――あの時の入院料、治療費を時の政府が請け負ってくれたのは感謝している。そのために、審神者になったことについては後悔していない。もう一つの特別に措置された条件を除けば。
 ――同業者と婚約し、跡継ぎする子を宿すこと。
 私は小さい頃からどうも、恋愛や結婚、出産といったことには関心がなかった。恋愛はまぁ、漫画や小説など興味本位で読むこともあるが、それで十分だ。それを実際に体験したいとは思わなかった。結婚などもっての外だ。……まぁ、前職の同期が結婚退社した時の幸せそうな笑顔には少々羨ましくも思ったが。
 できれば、結婚なんてしなくても審神者として働けたらいいのだが……今のところ、そういう話はまだ来ていないので心の中でビクビクしながら過ごしていた。

(でも、政府側の深刻さも分からないわけじゃないけど……何も私にもしなくてもいいだろうに)

 政府の人間が言っていた結婚して子を残すこと――それは、政府の議会で最近可決したらしい『強制結婚制度きょうせいけっこんせいど』によるものだった。
 未成年は除き、未婚の成人は同業者内で強制的に結婚することが義務になってしまったのだ。それを知ったならば、審神者になる道は辞めていたんだろうが、あの職員は、断れるだろうと高をくくっていたのか、審神者になると言った後に条件を増やしてきた。……何よ『強制結婚制度』って。ここは近未来のはずなのに制度が逆行してるじゃないか。
 そんなこんなで、今日まで何事も無く順調に過ごしてきている。そのために、いつ結婚の話が政府側からくるのかヒヤヒヤしている。それが最近悪夢として出てきているようだ。

「? どうかしたかな? 顔色がよくないようだが」
「ううん、何でもないの。じゃあ今日の出陣メンバーを決めましょうか」
「ああ。その前に、政府から手紙を来ていたよ」
「政府から?」

 長義は、懐から質素な白い封筒を私の机の前に出した。

(嫌な予感だ)

 一つ深呼吸して、心の中で『どうか、例の話じゃありませんように』と願いつつ封を開ける。

 『拝啓、審神者様。
 ご無沙汰しております。病院で審神者の勧誘をしていた原田はらだです。覚えていますか?
 審神者としての活躍は私どもの耳にも聞き届いております。
 要件は「時の政府内にいる者との婚約の件について」です。つきましては、婚約候補者として別紙のプロフィールを参照の上、返答の文を返して頂きたく存じます。
 よい返事をお待ちしています。原田』

残りは製本版を購入の上、お楽しみください。


*製本版を購入の上、お楽しみください。*