みたむら
2023-12-13 12:52:33
8265文字
Public 同人誌発行物まとめ
 

「審神者の復帰2」サンプル

刀剣乱舞:長義さに本3冊目です。


「審神者の復帰2」本文サンプル


プロローグ

 これはある日のこと。
 政府機関に所属する職員は、端末を見ていた。
 部下である山姥切長義やまんばぎりちょうぎが、とある任務で席を外している。その間、上がってきた報告書を読み進めては、判を押す仕事だ。そして、上層部やたまに議会へと書類を回す。

「しっかしまぁ、ここまで細かく報告するものだな」

 完璧すぎて上司としてどこを指摘すればいいのか分からない。それほどまでに、山姥切長義という刀剣男士は完璧だ。
 こうしている今も、臨時移動先で報告書を書き上げているのだろう。

 これは数ヶ月ほど前になる。
 長義が、とある元審神者を復帰させるように説得するという任務を与えられ、現代へ長期間派遣していた。本来ならば上司に頼まれた任務だったのだが、長義は本来は各本丸に所属している身だったのだが、今日こんにちまで政府側の刀として雑用や調査など様々な仕事をこなしていた。
 彼には所属するはずの審神者がすでにいなかった。そのため、特命調査の監査官としても参加出来ず、ここに留まっていた。
 長義には夢があった。いつか、本丸――主の元で刀剣男士として全うする人生を。それを彼にとっては知らないと思っているだろうが、上司は密かに何となく察していた。
 だからこそ、上司がする仕事を彼に押しつけたのだ。説得する元審神者も一応知り合いだったし、彼女がもし復帰する道を選んだのならば、記憶が正しければ〝山姥切長義〟は所持していなかったはず。その枠に部下が入り込めばいい。
 そして、上司の部下に対する仕事は最後だ。長く、補佐をしてもらっていたが、そろそろ彼にも夢を叶えてやりたいと、ずっと思っていた。
 任務が終わり、無事に帰ってきた長義は、どこか清々しい表情をしていた。今までの、どこか上の空というか、目に光を宿していないというか、ただ仕事をこなすだけのロボットのような存在だったのに、今では生き生きしている。
 むしろ、「どんどん仕事を回してくれ」と言われる始末。

 ――アイツに何があったんだ?

 嫌々受け持っていた仕事を、自ら引き受けては調査に向かう。雑用もこなす。その姿は、普段見かける〝山姥切長義〟そのものだった。
 仕事はよくも、逆に女性に対して接することが減ったような気がした。たまに女性職員に報告された。
 ――最近、貴方のところの山姥切長義が冷たいのだと。
 とはいえ、問題を起こしている様子もなく、女性と喧嘩をしているわけでもない。ただ、今まで世間話に付き合ってあげていたのが、挨拶程度に頻度が下がったらしい。仕事が立て込んでいるから、と言って。
 まぁ、よくできた部下だと褒めるところではある。本来そうあるべきであり、むしろ女性たちも仕事をテキパキこなしてほしいところだ。……長義ってかっこいいよね、とうっとりするような余裕があるのならば。
 だが最近思うのは、その長義が本丸へ行ってしまった時のことを考えると、寂しく思う時がある。
 自ら彼に水面下で協力していたのだが、それと同時にこれまで共に過ごしていた日々、彼のおかげで順調に進んでいた仕事。我ながらいいコンビであり、いいビジネスパートナーだと自負している。そんな彼が、審神者――本丸へ異動となると、ほとんど彼と顔を合わせることがなくなる。そして、仕事が丸々こちらに振ってくる未来が待っている。
 ――実に嬉しいのか悲しいのか分からない。
 いつの間にか、山姥切長義がいて当然な日常に、ハマりすぎていたようだ。あの審神者に渡さなければという気持ちと同時に、長義をここに留めておきたいという気持ちが上司を悩ませていた。

「この内容なら、議会に提出すれば問題ないか」

 とはいえ、長義との約束は果たす。
 これだけ報告していれば、議会の材料に取られ、話し合いが始まるだろう。その結果次第では、薄ら開いた扉が、さらに大きく開かれる。
 そこから先は、長義自身がこなすこと。それは、審神者との話し合いもあるだろうし、上司ではない政府の者との話し合いもある。そして最終的には〝運〟が彼に微笑んでくれるかどうかだ。

「いかんいかん。感傷的になるなんて馬鹿馬鹿しい」

 寂しい気持ちはあるが、そこを見届けることが上司の最後の仕事だろう。留まらせることなんてできない。彼が望むしかない。
 上司は、報告書のページを開いていくと、扉からくぐもった声が聞こえた。何やら慌てた様子だ。

「すみません! 緊急事態です!」
「あ? とりあえず中に入れ」
「はい! 失礼します!」

 そう中に通すと、別の部の人間が走ってきたのか息を整えながら入ってきた。
 上司は、残っていたお茶を湯飲みに入れて、彼を落ち着かせるためにさしだすと、「ありがとうございます」と言って一気に飲み干す。そして、落ち着いてきたのか、何回か深呼吸をしている。

「仕事中すみません。こちらも急に入ってきた情報だったので、詳しくは分からないのですが……
「とりあえず、話してみろ」
聚楽第じゅらくていに、時間遡行軍じかんそこうぐんの気配あり、と報告がありました」
……なに?」

 聚楽第――それは、審神者界隈ではたまに開催する特命調査の一つだ。最近では、遡行軍の動きが見られないため、警備も最低限にして、審神者への調査依頼もなくなっていたのだ。
 もしかしたら、それが〝隙〟を生んでしまい、遡行軍が潜入してきたのかもしれない。

「議会はどうなってる?」
「今、緊急で会議を開いて審議中とのこと」
「ったく、いっつも決めることが遅すぎるんだ。おエライ様は!」

 こうしている今も、歴史改変を進めているかもしれない。警備もさほど強くない。今は何もなくとも、いつ強敵が現れるか分からない。聚楽第を潰されるようなことがあれば、さすがの足が速い刀剣男士も間に合わなくなる。

 しばらくすると、職員が端末を見て声を上げた。そしてそれは、上司の端末にも知らされる。

 ――議会の許可が下りた。
 ――特命調査「聚楽第」を開始する。
「先輩、聚楽第調査の許可が下りたみたいです!」
「俺の端末にも来たよ。急ぎ、準備をするように奴らに伝えてくれ」
「はい! 分かりました!」

 後輩はそう言って部屋を出て行った。
 聚楽第調査はいつぶりだったか。
 最近はやっていないので、ざっと三年くらいになるか。
 これが、長義にとって最後のチャンスなのかもしれない。

「お望みのものが来たぞ、山姥切長義」

 上司は、煙草を嗜みつつ小さく呟いた。
 上司の顔はどこか、面白いものを見つけたような笑みを浮かべていた――
 これから長義の端末に知らせを入れる。さぞ、喜ばしいことだろう。

……頑張れよ、山姥切長義」

 そう呟いて、長義の連絡先へ要件を送信した。
 今回の聚楽第調査は、普段のそれとは違うことを知らずに。


第一章 腐れ縁

 ここはとある本丸。
 執務室の中で、一人の審神者が机に向かって、端末を見ていた。
 私は、初期刀である山姥切国広やまんばぎりくにひろを近侍にし、彼に万屋へ買い出しを頼んでおり、その帰りを待っている状態だ。
 書類に使うインクが切れてしまい、執務が中断するしかなかった。買いに行こうと思ったところを、国広が「俺が買ってくる、待っていてくれ」と言ってつい先ほど出て行ったところだった。
 私はふと、これまでのことを振り返りつつ、小休憩を挟むことにする。

 私は数ヶ月前まで、審神者ではなく現代で一般サラリーウーマンをしていた。元々、学生時代から審神者だったのだが、とある事情により、政府から追放されてしまい、審神者業から解雇、現代で社会人として過ごしていた。
 そんなある日、私の前に突如現れた刀剣男士――山姥切長義が、昨今の本丸襲撃事件〝大侵寇〟により多くの審神者や刀剣男士、本丸が襲われてしまい、人手不足になってしまった。新人審神者の勧誘はもちろんのこと、引退した審神者も復帰を呼びかけるほどの事態に。
 私は、審神者に復帰するつもりはなかったのだけど、山姥切長義――長義君が派遣され、私が勤めていた会社に入社するほどに接するようになった。そして、現代でも時間遡行軍がやってくる事態になり、私は審神者になることが使命だと気づき、長義君やこんのすけの説得により、審神者に復帰することになったのだ。
 今はというと、長義君は元々、時の政府所属の刀剣男士のため、私が審神者に正式に処理された時点で、政府側へと帰還していき、それ以来顔を合わせていない。こんのすけは、もともと審神者の時に担当していたこんのすけだったため、復帰後も馴染みのあるこんのすけが政府と本丸の伝達係となった。たまにこんのすけが遊びにくることもある。

「今頃、どうしてるのかな?」

 まだ、あの時の出来事が昨日のことのように思い出せる。
 いつも通っているファミレスで出会った彼。そして、勤務先にまで現れた彼。気がついたら友達のような関係だった。
 ――できれば、彼を〝山姥切長義〟として来てくれたら嬉しいのだけど。

 というのも、私が審神者を辞めた時、政府側に刀剣男士がいたことを知らなかった時だ。つまり、審神者界隈ではいるであろう政府刀たちが顕現した時には、私は既に審神者を辞めていたのだ。そのため、未だに政府刀は一振も本丸にはいない。多分、珍しい部類に入るだろう。
 だが、焦っても仕方ない。今はできることをコツコツ積み上げるしかない。審神者になると決めたのなら、足手まといにならないように感覚を取り戻さなくてはならない。

 そんな数ヶ月前のことを思い出していると、時空が急に歪み始めた。その気配は、相棒の管狐だ。
 こんのすけがぴょん、と空間から降りてくるとこちらを見上げる。

「こんにちは、審神者様」
「こんのすけ」
「元気そうで何よりです」

 こんのすけはそう言って、にっこりと微笑む。黙っていれば可愛い。

「連絡もなしにいきなり来るなんて珍しいね」
「ええ、一応政府より言伝を頂いてきましたから」

 こくりと彼が頷くと、微笑んでいた顔が次第に真面目な表情に切り替わる。政府から、と聞くと私も自然と背筋が伸びる。

「審神者様、任務をこなして頂いていますが、ある一つの任務が出来ていませんね? 審神者様のことです、知らなかった訳ではありませんよね?」
 ――ああ、ついに通告がきたか。
 その未達成任務とは、日課と月課にある『演練』任務だ。
 任務はあくまで任意なので、普段は気にするほどではないのだが、復帰後全くこなしていないものが続くと、管理者はさすがに目に付くようだ。

「まだ審神者の感覚を取り戻していないブランクあり審神者に、演練に参加するのは、ちと厳しくないですかね?」

 一応元審神者をやっていたとて、何だかんだとルールや規則が変わっていて、勉強中の身でもある。

「しかし、演練に参加すると刀剣男士たちの練度も上がって、審神者の感覚を取り戻すのも早いと思いますよ」
「それは、そうなんだけど……

 こんのすけの言い分は正しい。これは、私のワガママでしかない。
 演練は、審神者・刀剣男士同士で仕合をして、力比べをする。そこで出てくる課題などが見えてくるのだ。刀剣男士の経験値も得られるし、審神者たちと交流するきっかけにもなるし、わりと良いことずくめだ。しかし、政府の方針には一つ、どうしても認めたくないことがある。
 ――演練を、見世物のように扱っていること。
 審神者をやっていた時も、見世物のようになっていた。勝敗なんて関係ないはずなのに、期待できる審神者は誰かとか、審神者に相応しくないのは誰か、など政府職員や幹部らでこそこそと探り出すのだ。
 私は、その時に審神者の幹部職にいた師匠の弟子だったので、色物のように見られていた。もちろん、師匠はもっと酷かった。完璧を求められるがあまり、少しミスをすれば陰口をたたかれる。師匠はそれを好きじゃなかったし、私もそんな彼らを嫌っていた。
 そして、ある日を境に演練に参加することを辞めたのだ。
 任意なので毎日出ては気分が悪くなるのなら、参加しなければいいと。初めこそ反発は大きかったが、その分特別任務で実力を出していたので、言われることはなくなっていったのだが。
 演練は、一見いいように見えても、誰かから見れば嫌なものだ。そもそも、私たちの敵は『時間遡行軍』であり、仲間たちではない。審神者に復帰してから知ったのだが、演練を用いた大会、なんてものもたまにやっているらしい。完全にスポーツ大会じゃないか。

「そもそも任務は任意なんだから、どれをこなそうがこなさないが関係ないでしょう? それぞれのペースがあるんだから」
「しかし、政府は貴女の活躍を楽しみにしているのです。一回だけでいいので、演練に参加してください!」

 この通り! と言わんばかりに頭を下げる相棒。背後に政府の目がなければ、仕方ないなぁ参加してやるか、となるのだが。何せ政府だから……私は政府に対して疑っている。
 一度、政府に信用されずに審神者を解雇と現代へ強制追放されたのだから。そんな組織を信用しろという方が無理というもの。

……わたくしも、何とか誤魔化して来ましたが、それも聞けなくなって来まして」
「え、何……まさか強制参加?」
……はい。一回参加すれば、政府も納得すると思いますので、どうかお願いします」

 冷や汗をかくこんのすけを見るに、彼は彼なりに庇ってくれていたのだろう。それも、政府が許してくれなくなった。
 ついでにいうと、明日の演練は参加しろとより詳細に教えられる。

 ――拒否権さえ与えないのかい。

 任意ってどういう意味か分かってるんだろうか。たかが公務員で、安全な場所でぬくぬくとだべっているだけで仕事していると思っている役人共め!
 公務員が一番働かないのは、未来でも現代でも変わらないらしい。

「主、ただいま帰ったぞ」
「国広、お帰り」
「ああ、ただいま。こんのすけ、来ていたのか」
「ご無沙汰してます、山姥切国広」

 襖を開けると、買い出しに出かけていた国広が買い物袋を持ちながら入ってきた。こんのすけを見るなり、少し目を見開く。
 買い出しものを机の上に広げると、私は「ありがとう、助かったよ」とお礼を言う。約束のインクも注文通りの物で、早速インクを入れ替える。身近にあったメモ用紙に適当に書いていくと、インクがにじみ出ている。これで、書類が捗る。

「山姥切国広。貴方も審神者様に言ってください」
「ちょっと! 国広を仲間に入れようっていうの?!」

 国広をこっち側に入れようと思ったのに、こんのすけはちゃっかり国広を仲間にしようとしていた。一歩遅かったか。
 国広は状況が読めず、首をかしげながら話を聞く。

「いったい何があったんだ?」
「政府の通達で、審神者様と刀剣男士には明日の演練に強制参加を要請しているのです」
……なるほどな」
「待ってよ、基本的に任務は〝任意〟なんだよ。それを強制参加ってなに。実力に伴わないから参加しない権利だってあってもいいでしょう!」
――いや、それに関しては否定させてくれ、主」
「え?」

 国広がそう言うと、こちらに真剣な眼差しで私を見る。私は、少し縮こまりつつも話を聞く。

「これまでずっと、出陣して討伐し、遠征にも出向いてばかりだ。成果も見る限り十分通用するし、特別任務も全て踏破している。だから、そろそろ演練に俺たちが出陣しても構わないと思う。……最近連中も暇をもてあましていて、刀剣男士と一戦したいという者も出てきている」
「うっ……
「主の考えは分かっている。それには尊重するが……みんな主のような考えに共感しているわけじゃない」
「プレッシャーに勝てるの? 修行前は、あんなに『どうせ俺なんか……』って引っ込み思案だったじゃない」
「そ、それは昔の話だ。だが、今の俺は主の刀だ。負けるはずがない」

 ――国広は、私が仕合に負けることを恐れていると思っているのだろうか。
 それもなくはない。どちらかというと、周囲の目が怖いのだ。師匠の弟子の力はこんなものかと言われるも、期待通りの実力だと言われるのも嫌なのだ。私はプレッシャーに耐えられない。だから現代では誰にでもいる普通の人として過ごしてきた。リーダーになれと言われても断ってきた。そんな人間が、耐えられるはずもない。

「主。必ず勝利すると誓う。それに、本科にも顔を会わせられるかもしれない」
「ちょっと、今それを出す?」
「? 本科に会いたくないのか?」
「あー……いや、まぁ……そうだけど」

 いつだったか、長義君のことを国広に話したことがあった。まぁ、私が審神者を復帰した過程が知りたいと彼が言ってきたので、話したのだけど。
 確かに演練は政府機関が主催しており、施設も政府が所有している。そのため、職員や政府刀が管理している。だから、国広が言っていることも可能性はあるのだ。

「山姥切国広もこう言っていますし、明日参加してください。勝っても負けても政府は何も口を出しません」

 以前、そう言った行為が嫌だという審神者の苦情があったらしい。それからというもの、政府側も気をつけるようになったようだ。

……分かったよ、明日出たらいいんでしょう?」
「ありがとうございます。審神者様!」

 こんのすけは、尻尾を振って喜ぶ。くそう、可愛いし憎い。憎いけど可愛い。
 国広は「ありがとう、主」と礼を言う。国広も時には大胆に前に出ることもある。実は国広も仲間と仕合をしたかったのかもしれない。

「いいよ。その代わりこの一回だけだからね」
「ああ。必ず勝ってくる」
「しかも自分が出ると確定してるし」
……外すのか?」
「どうでしょうね」

 そうか、と国広は少しがっかりしたような声で言った。どんな時も出陣メンバーに入れていた国広。だから、今回も入れてくるだろうと思ったのだろう。……まぁ、入れるかもしれない。自慢の初期刀だからね。
 私は、残りの書類を処理すると、明日の演練に連れて行くメンバーを決めるため、夕餉の時間まで執務室に籠もっていた。

――山姥切国広、乱藤四郎みだれとうしろう薬研藤四郎やげんとうしろう堀川国広ほりかわくにひろ鶴丸国永つるまるくになが南泉一文字なんせんいちもんじ。以上。
 すると、選ばれた者はやった、と喜ぶ反面、選ばれなかった者は頑張れよと励ましたり、がっかりしている者もいた。

「やはり、言ったとおりだろう?」

 隣で近侍として座っていた国広から耳打ちされる。私は、そんなこというなら外すよと目で訴えると、彼はすまないと言って苦笑した。


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