【可惜夜廻】蛇足

『「すみません、よくわかりません。」』現行未通過×
※夜廻パロ





ギシリ ギシリ


縦に伸びた黒色が、一本の赤い縄で宙に浮いている。吊り下がったソレは、既に21.3グラム以上を失っているだろう。医療知識がある自分は、見ただけで確信してしまう。彼は、カンジはもう、今から何をどうやっても、死んでしまってることを。


ギシリ ギシリ


彼の足が揺れて、腕が揺れて、身体が回る。夕暮れの赤を背後に受けて、影になった顔は見えない。否、意識的に見ることを拒否してしまう。視認しているはずなのに、脳に伝達される情報は暗闇だけ。隣にいる、英雄という二つ名を付けられた彼は分からないが。


……カンジを、おろさないと」


ヒロはふらりと前に出て、カンジと呼ばれていた肉塊を縄から解放する。結ばれていた縄を器用に解いて、落下する死体を抱えて横たわらせる。遅れて歩み寄れば、カンジの顔にはタオルが置かれている。滲み出る汚れが、その布の下が惨状であることを無言で語る。


「ソウゲツには伝えないでくれ」

「!? ヒロそれは、」

「アイツはカンジを、最愛を救ったと救えたと思ってるんだ。だから

「また隠すつもりなの!?」


激情に任せて胸ぐらをつかめば、俯いて見えなかった彼の表情が明らかになる。きっと悔しそうな顔をしているのだろうと、そう考えていた。それで無くても確実に、苦痛の感情に苛まれているのだろうと、そう思っていた。


「ごめん。でも、オマエにしか頼めないんだ。頼むよアサヒ」


彼の瞳に、淀みは無い。無表情、無感情と言うに相応しい仮面の顔。下手な素人が人の仮面を作ったとて、これより人間らしさがあるだろう。それほどまでにゴッソリと、人間の性質が抜けている。ああ、違う、そうじゃない。何も無いわけがない。ただ一点の曇りも見えないほど、淀みが広がっているだけだ。

そんな嫌なモノで満ちた顔で、自分に頼ってくるなんて。彼は一体、何に成ってしまったのだろうか。何に成ってしまうのだろうか。自分が止めなくてはならない。彼の、彼らの友人である自分が。怪物に堕ちようとしている友人を、見ているだけなんてできない。

そう。止めなくてはならない、のに。


「────いいよ。一緒にしてあげる」


止まることなど、できなかった。