【失笑の歌と蒼い月】三章/後編

一ページ目必読
※Ibパロ




コツコツという靴音と、ボンヤリとした視界。僅かに分かるのは、カンテラの燃料がジワジワと消費される気配。
このままずっと進むことになったらどうしようなんて考えていると、明かりが唐突に突き当りを照らす。前に上げてみれば、そこには質素な扉がある。扉を開けようと、カンジは手を伸ばす。しかしカンジが触れる前に、扉はガチャリと唐突に開け放たれる。


「うわっ!?」


驚きの声を上げるのと同時に、カンジはカンテラを落としそうになる。慌てて掴み直し、目の前の状況を確認する。そこには、困惑した様子の青年がいる。年齢は同じぐらいだろうか、全体的に青みがかった印象を受ける。彼の背後には、下へ続く階段がある。


「オマエは……美術館にいた人間か?」

「お、おう。大学のイベントで

「そうか。なら、オレと同じだな」


表情には出ていないが、彼はとても嬉しそうな雰囲気である。同じ境遇の仲間が見つかったからだろう、カンジも遅れて笑顔になる。


「オレはカミカゼ ソウゲツ。オマエの名前は?」

「オレはカンジ。タイショウ カンジ。よろしくソウゲツ!」


握手を求めれば、快くソウゲツは応じてくれる。妙に強く握られた気がして、きっと急に出会ったことで緊張しているのだろうと思う。その緊張を解そうと、明るく問いかける。


「ソウゲツはなんで下から来たんや?」

「オレは美術館を見て回っていたら、突然照明が落ちて……気付いたら、そこの階段途中にいたんだ。目覚めたのはついさっきだが」

「起きた場所が違ったんか……なんでやろ?」

「さぁなまぁ、一人でいるよりは安心できる」

「確かに! ここまで〈作品〉には会ったけど、人には会わんかったから……あ! 〈作品〉っていうのはな、この空間に住んどる存在らしいんや。人っぽいけど人やないんやって」

「へぇ……危ないヤツらなのか?」

「う〜ん、どうやろ。危ないヤツもおったけど、大体はええヤツらやったで! 出口は下の階にあるって聞いたから、ソウゲツも降りよーや! まぁ、来た道戻ることになるけど

「いや、構わない」


長話を終え、二人で階段を降りる。カンテラの火を消して、ポシェットに押し込む。少しぎゅうぎゅうになっているが、黄色いバラを押しのけてはいない。ふと見れば、ソウゲツの胸元には青いバラがある。きっと自分のバラと同じ役目をしているのだろう。

カンジはソウゲツに、小さな違和感を覚える。僅かに疑問を浮かべるが、すぐに気の所為だと思うほどに小さなもの。
その違和感が既視感だと、カンジが知ることは無かった。