番外編.A

一ページ目必読
※MHパロ


ハンターの仕事は非常に幅が広い。
狩猟は勿論のこと、捕獲、撃退、あるいは素材採取も含まれる。人の管理された場所以外に無策で出立するのは、(少なくともこの世界では)愚行であるためだ。異例のモンスターが現れ団体が壊滅するだとか、採取に出かけた人間が戻ってこなかったなんて話も珍しくない。モンスターとはそれほどまでに未知数で、また危険なものなのである。そのモンスターに対応し策を練ることができるハンターが尊敬と畏怖の視線を浴びるのも、また当然のことだろう。


さて、今回はそんなハンターの一人ヒロという上位ハンターとその知人たちを紹介したい。ヒロには非常に親しい三人のハンター仲間以外にも、ハンター業で世話になっている者が多く存在する。

例えば、オレンジ髪の変わった錬金術師。
彼は王国で化粧家も兼用している多忙者で、少々(?)ズレた感性を持っている。とはいえ仕事に対する熱意は本物のため、それを知っているヒロも錬金術師としての仕事を頼むことがある。化粧品を作るためにリオレイヤの素材がほしいと依頼された時は、さすがのヒロも耳を疑ったが。

例えば、カメラを持ったモンスター専門研究家。
下位ハンターでもある彼は、主にモンスターの生態を写真として残すことを生業としている。モンスター生態をまとめた多くの資料には、彼の撮った生態写真が何枚も記載されている。実際に会合した回数こそ少ないが、ヒロは彼と有効的な関係を築けている。

他にも甘味好きの珍しい亜人、元ハンター志望の木苺色の髪をしたガーディアン、元ソロ下位ハンターで現在はチームを組んでいる上位ハンター、近いうちにG級昇格試験を受ける上位ハンター……元G級現上位ハンターということを差し引いても、ヒロの交友関係は非常に広い。


そんなヒロが今日訪れたのは、なんと王国。モンスターから徹底的に隔離された人間のためだけの都。モンスターを狩るハンターではなく人間を規律するためのガーディアンにより、平和な日々が保たれている。極稀にモンスターによる危機もあるが、その全てをハンターたちが蹴散らしていた。

昼間の人混みを歩くのは、王国の人間としては正しい庶民の服に身を包んだヒロ。ハンターにしては軽すぎる装備だが、背負った大きな鞄の重量は並の人間には引き摺ることもできないほどの密度である。それでも装備の量が少ない分、普段より軽やかな足取りでヒロは目的地に向かう。
しばらく歩いて着いたのは、庶民的な食堂。昼食を目当てに来た客を少し眺めてから、ヒロは店の裏手に回る。渡されていた合鍵で裏口の扉を開き、中に入る。忘れる前にしっかり鍵をかけながら、中に居た少年に声をかける。


「よう、キズム。依頼品持ってきたぜ」


少年の名は、キズム。この食堂の料理人であり、モンスター素材を扱う王国では希少な料理班だ。まだ少年と呼べる若さだと言うのに、キズムの腕はハンター界隈でも名を聞くほど凄まじいものである。本店は王国に構えているが、たまに王国外に出てハンター向けに料理を出している。


「ありがとうヒロ兄さん。今回はどんなのがあるの?」

「ケルビ肉が多めだな。あとは……ああ、ホタテチップもそれなりに」

「わ、ケルビ肉は嬉しいなぁ。これの角煮、とっても人気だから」


背負っていた鞄を置いて、モンスターの素材を数えて渡す。獣肉の塊、瓶に詰まったハチミツ、冷凍された魚介類などなど。王国の人間からすれば珍しい『食材』の数々。
ヒロとキズムの出会いは、モンスター素材採取依頼によるものだ。キズムがモンスター素材の採取を依頼し、ヒロがその依頼を受けたというありふれた会合。先述した通り、ハンターの稼業は広く簡単な依頼は数が多い。故に、簡単な依頼はどうしても杜撰な面が出てしまう。しかしただ採取するだけの依頼だとしても、ヒロは妥協しない。そういうところを気に入られ、キズムはヒロに指名依頼を繰り返しているのだ。


「この後、王様に会いに行くの?」

「ああ。正式に王国から依頼を出すから、その細かい手続きを手伝いに」

やっぱり、ミラボレアスが“居た”んだね」


ミラボレアス。
それは『実在するハズの無い怪物』で、伝承にしかいない存在。古龍を超越した、自然を司り世界に君臨する帝王。王国に住む民は勿論、ハンターの中でもそれが存在していると信じるものは僅かである。

しかしつい先日、王の間に白銀の長髪を靡かせた亜人が現れ『紅き厄災が来る』と告げた。人間の質問に答えることはなく、ただ決戦の地を伝えて微笑み消えてしまった。
その亜人は通称『偉大なる祖の種族』と呼ばれ、厄災の“伝言者メッセンジャー”として存在するという。王国の古代から保存されている壁画に画かれていた情報だが、信憑性は高かった。王はハンターズギルドにこのことを即座に共有、対策を練るために各地の調査を秘密裏に依頼した。

とはいえ、あまりにも突然で信じ難い人類の危機。大掛かりで具体的な作戦を考案する時間は残されていない上に、ミラボレアスは間違いなく『世界の祖』である。そんな怪物に敵うのか、それすらも断言できない。それを知っているハンターたちには、静かな緊張がある。

ヒロは元G級ハンターだ。過去の肩書とは言え、人類の一割以下に値していたことは十分な功績に値する。更に加えるなら、現G級ハンターと複数の交流もある。言伝係としては十二分に役割を果たせるだろう。そのため、ミラボレアスのことも認知しているのだ。

では、なぜ一人の料理人であるキズムがそのことを知っているのか。それは、キズムもミラボレアス討伐作戦に関わる可能性があるからだ。彼の料理がもつ真髄は、味だけでなく“心身に恩賜を与える”ことにある。ようは食した者を強化することが可能なのだ。狩猟笛同様一時的な強化ではあるが、重要な戦力になるのは確かである。


「こわいか?」

「うん。でもそれだけじゃない。たぶん、なんと言うか、わくわくしてるんだと思う」

「そうか。オレと一緒だな」


職も住む場所も違う二人だが、奇妙な共通点がある。それは未知なるモノへの強い探究心だ。
通常、未知というものには多少なりとも恐怖がある。視界が黒く染まった暗闇の中、何があるかも分からないまま探索しろと言われているのだ。しかし、彼らはそれを行える。恐怖もあるが、それを上回る探究心を保有している。誰がどう見ても狂っている行為だが、狂っていては成せない難関な行為でもある。平和を求めながらも探すことを止めない、彼らはそんな矛盾した“探索者Investigator”なのだ。


「始祖の竜直接“会いに行く狩りへ征く”のは、どんな人達なんだろう」

「そんなの、G級の中でもとびきりイカれてる英雄たちだろうよ」

「あはは。それは是非、会ってみたいや」


談笑しながら、彼らは夢想する。
人類の未来を決める、神にも等しい竜との戦乱。もし勝利したならば、この出来事は後世に強く残るだろう。負けたならば人類が滅びるだけ。終幕か、存続か。たった二つの選択肢は、歪なほどに簡潔だ。その時代に、場所に、自分たちは在ることができる。それは身が震えるほどに恐ろしく、また喜ばしいことだった。