【凶星を穿つ】9(終)

一ページ目必読
※MHパロ1nd.


「「カンパーーイ!!!!」」


多くの人々がクヤ村の広場に集まり、宴で盛り上がっている。飲んで歌って騒いで食べてと、全員が浮かれに浮かれていた。それも当然のこと。これまで逃げることしかできなった厄災『オオアラシ』を、回避ではなく討伐したのだ。これで浮かれずして、何で浮かれられようか。討伐した四人は勿論のこと、他モンスターや生態に気を張っていたハンターたちも今日だけは打ち上げ状態だ。村人や観測所の人々も混じり、村はこれまでにないほど活気で満ちている。


「オイオイ主役の一人が湿気たツラしてんじゃねぇぞ!! もっと飲め!! 食え!! 騒げ騒げ〜〜!!」

「やめろエル、ウザ絡みするな。こっちで肉食おう」

「マジかよヤッタ!! 肉食べる!!」

「相変わらずチョロいな」

「メル殿、それは言わない約束だろう」

「で! 変異体のバルファルクはどうだった!? 赤い彗星とも謳われるあの奇しき赫耀だろ!? とびっきりにヨかったんじゃないのか!?」

「やめなさいミロクジ。アナタまだ報告書と始末書があるでしょ」

「ああそんな! 生殺しなんて酷いぜ姉さん〜!」


と、始まってすぐこそ中心でもみくちゃにされていたソウゲツだったが、今はそそくさと離れ狂乱を眺めていた。そもそも彼はこういう場面でも羽目を外すタイプではないので、当たり前といえば当たり前なのだが。

別地方から持ち寄っという珍しい酒に口を付けて、ソウゲツは回想していた。苦みの中に果汁の酸っぱさ、そして甘い風味で舌が喜ぶ。
バルファルクを討伐したは良いが、その事後処理を済ませようとする頃にソウゲツの身体は突然動かなくなって倒れてしまった。後からやって来た黒髪の男いわく、継ぎ接いだばかりで塞がっていなかった傷が響いたのだと言う。宴の直前まで再び手術を受け、なるべく安静にするように告げられた。それがなければソウゲツは、料理をする側に回っていたのだが。


「お疲れ、ソウゲツ。なに黄昏れてるんだ?」


大盛況の中心から、ヒロが酒瓶片手にやって来た。ほんのりと赤く染まった頬が、彼にしては珍しく飲み進めていることを表している。


……ようやく終わったんだな、と

「あはは。落ち着いてるとこ悪いが、まだ終わってないぞ」

「?」

「“オレたち全員の物語”はこれから、だろ?」

……はは、そうだな」


片目を閉じて語るヒロに、ソウゲツは今になって安心した。確かに『オオアラシ』は終わったが、仲間との冒険はまだ続くのである。未だに過程にあることに落胆はせず、寧ろまだまだ彼らとの道があることに喜んだ。


「ソウゲツ〜!! こっちこっち!! こっちの料理めちゃんこ美味いで!!はよう来てぇや!!」

「飲みすぎだよカンジ。ほら、もうジュースにしときな」

「イヤや!! これからソウゲツのカクテルも飲むんやもん!!」

「顔真っ赤にして何言ってるんだよ


呆れるアサヒに絡みながら、カンジが大声で笑っている。子供のようにキャッキャとはしゃぐカンジと抱き付かれているアサヒに、ソウゲツとヒロは微笑ましい気分になった。


「行ってこいよソウゲツ。オレはしばらくここにいるから」

「ああ、わかった」


使っていたグラスを近場の机に置いて、ソウゲツは二人の方へ歩いていく。元々ソウゲツが座っていた椅子に、今度はヒロが腰を下ろした。持っていた酒瓶は既に空っぽで、そもそも飲むためのグラスやコップも有していない。


「よう、主役のヒーローさん?」


特に何も考えず三人を眺めていたヒロに、楽しそうな声が投げられた。そちらをチラリと見れば、銀髪の男がいる。増援で来たG級ハンターの一人でありリーダー格の男はグラスを二つ持っており、ヒロに赤い葡萄酒の入った方のグラスを一つ差し出した。軽く会釈して受け取って、二人は軽くグラスを合わせて音を鳴らす。


「身内以外にそのあだ名で呼ばれると、なんだかむず痒いな」

「とんでもねぇ、テメェは本物の英雄だ。名に偽りはねぇよ」

「うオレは当然のことをやったまでだと思うが」

「オレたちが合流地点に付くより先に、オレたちの移動速度と道を計算して会いに来た。観測所からの情報をまとめて簡潔に伝え、目標座標を割り出して見事に言い当てた。狩猟笛で支援を切らさないよう考慮しつつ、ダメージもしっかりとバルファルクに与え続けた。全部終わって宴って時も、装備そのままに手を貸した。
これが当然のことってのはだいぶ無理があるだろ」


銀髪の男が長々と告げたことは、確かに全てヒロが成したことだ。しかしヒロからすれば、それらは『自身がやりたくてやったこと』であり『心から誰かのためにやったこと』ではなかったのである。だからこそ、ヒロはまだ心に引っかかりを覚えていた。


……オレは『全部』を救えないけど、『皆』は救えたってことか?」


意地の悪い質問だとは思いつつ、男にそう呟くように言う。一瞬キョトンと目を丸くしたが、銀髪の男は耐えきれないように大きく笑った。流石に大笑いされるとは思わず、葡萄酒を口に含んでいたヒロは驚く。


「何を言うかと思えば、そんなことか!
いいか? テメェはテメェも含めた『皆』で、テメェも含めた『全部』を確かに救ったんだ! 神でも悪魔でもモンスターでも無い、人間様のテメェがな!」


男の指差した先には、ヒロの心臓があった。熱く脈打つその箇所を、服越しに触れてみる。ヒロの右掌に、確立した命を証明する熱が宿った。その熱はヒロを救ったものであり、ヒロが救ったものでもある。ジワジワとその実感が湧いて出て、一人の人間であるヒロは笑った。




宴は始まったばかりで、夜はまだ明けない。嵐を討った英雄たちは、これからも生きていく。四人がこことは別の地を踏み、新たなモンスターと退治することもあるだろう。
しかしそれは、また別の話。

END.