【凶星を穿つ】5

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※MHパロ1nd.


音を置いて行くほどの速度で、彗星が真横を通り過ぎる。風圧だけで倒れそうになるが、武具の重心を操作することで何とか踏ん張った。地に着いた瞬間を狙いソウゲツが太刀を振るうが、赤く発熱した鱗にどれだけ効いているかは分からない。
硬いもの同士がぶつかる音が鳴ったは、アサヒの放った複数の矢がバルファルクに飛来したからだ。全て片翼に命中したが、やはり損傷は少なそうに見える。鬱陶しそうに唸った古龍は、翼から龍気を噴出し突進を仕掛けた。すんでのところでアサヒは回避を済ませ、太刀を研いだソウゲツに並び立つ。


「音速を超えるとは、よく言ったものだね。まだ立てる?」

「避けられはしてるから大丈夫だ。攻撃には転じられていないがな」

「それはボクもだよ。アイツ、本当に速すぎる」


咆哮と共に、バルファルクは両翼を前に付き出した。赤い龍気が目に見えるほどの密度で固められ、操作しているはずのバルファルクすらも焦がしていく。これはマズイと、二人は行動を中断させようと駆けようとした。しかし、それより先に動いた者がいる。


「うぉりゃーっ!!」

「!?」「えっ」


ズガンッ!と、日常生活ではとても聞かないような重く音が響いた。横から突如殴られたバルファルクの両翼はズレて、二人の斜め右辺りを爆発させる。ハンマーで龍を殴ったのは、ここにはいない筈の男。


「カンジ!!?」


ソウゲツが名前を叫べば、呼ばれたカンジは視線だけを向ける。身体と意識はバルファルクに向けたままだが、どうやら会話をするつもりはあるようだった。信じられないという態度を隠さないまま、ソウゲツはカンジに絶叫する。


「なんでオマエがここに!?」

「キミは観測所の護衛じゃ

「抜けてきた! 我慢の限界やってん!」


開き直るカンジに、ソウゲツとアサヒは唖然とした。しかしそれも瞬間的なもので、すぐにカンジを帰そうと説得を始めようとする。が、それよりも先にバルファルクが龍気を溜め始めた。来たばかりのカンジは分からないが、二人はそれがここまでの戦闘にない動きだと気付く。


「うわっ!」「ぐ、ぅ!」「っ!!」


途端、バルファルクが爆発したように高域へ飛んだ。まだ音が残っているというのにも関わらず、本体は既にはるか空の彼方。赤く燃える流星が、まだ青い空を裂いて飛んでいるのだけが見えた。


……?」

「逃げた、んか?」


三人は突如狩場を離れたバルファルクに、思考を巡らせる。今のうちにならとアサヒは弓の瓶を付け直し、カンジもソウゲツに向き直った。そしてソウゲツは、カンジに向かって駆け出す。それは一見不可解な選択であり、アサヒもカンジも理解するのに時間がかかった。


「伏せろカンジッッ!!!!」


────赫耀の彗星が、世界の音を消し去る。それは厄災、それは最悪。鼓膜の震える気配と耳鳴りで、その場全員の脳が軋む。
逃れられたのは、標的ではなかったアサヒ。そして、標的ではあったが突き飛ばされて無事だったカンジの二人。

ソウゲツは、その衝撃を正面から受けて吹き飛ばされた。


「ソウゲツ!!!!」「!!」


アサヒは堕ちた衝撃に震えるバルファルクに向かって弓を構え、カンジはハンマーを背に付け直しながらソウゲツに駆け寄る。岩の壁に激突したソウゲツの状態は、一言で済ませるなら非常に悪かった。吐血と流血は止まらないし、視線もぐらついて不安定である。辛うじて太刀は握っているが、片足は曲がれないはずの方向に曲がって痛々しかった。


……カンジ……無事、か?」

「んなことどうでもいいやろ!! 先に治療を!!」

オレより、も……ヤツに集中……

「バカバカッ!! なんで、なんで!!」


回復薬を取り出そうとして、ソウゲツはそれを片手で制する。ソウゲツはここで薬の蓋を開ければ、バルファルクに匂いで回復を勘付かれてしまうだろうことをわかっていた。そんなことになればアサヒの牽制は無意味になり、カンジも危険に晒されるだろう。


……泣くな……オマエには……生きて、幸せ、に…………


ポロポロと涙を流すカンジに、ソウゲツは無理矢理な笑顔を貼り付けて言った。その一言を最後に、ソウゲツの意識は闇へ落ちる。ガクリと力を失った身体を抱え、カンジは錯乱状態に陥った。


「ああ、そんな、ソウゲツ、死なんで、オレを置いて、イヤや」


助けに来たはずが助けられ、後悔が心を侵食する。目の前で大切な命の火が、自分の責任で消えそうになっていた。それがどうしようもなく辛くて、理解りたくなくて、カンジはただ布で出血を抑えることしかできない。
狩猟を続行していたアサヒはバルファルクにケムリ玉を投げつけ、カンジの側(ギリギリ声が届く程度の距離)に下がった。僅かな時間ではあるが、古龍はハンターを見失い見当違いの方向に翼を振り回す。


「カンジ、キミはソウゲツの治療に専念しろ。ボクがヤツの気を引き続ける」

「!? 無茶やモモ! 古龍に一人で立ち向かうなんて


制止しようと顔を上げたカンジは、驚くほど柔らかく笑ったアサヒを見た。こんなにも穏やかな顔の彼を、過去に見たことは無い。泣きわめく小人を安心させる親のように、しかし勇敢で無謀な笑顔。


「バカだなぁ、カンジ。無茶だからやるんだよ。
ボクはキミが思ってるより、キミたちとの時間が好きだからね」


バルファルクが咆哮を散らし、アサヒはそこへ特攻を仕掛ける。誰が見ても負け戦で、どう考えても勝ち筋のない博打。それでも彼は友のため、決して逃げることを自身に許さないのだった。