【凶星を穿つ】1

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※MHパロ1nd.



クヤ村。そこは山と山の隙間、谷を広げて作られた古い村である。立地の理由もあり閉鎖的だったが、近年になりハンターズギルドと契約し村に受け入れた。その大きな理由として、この村特有の『オオアラシ』があげられる。

古くから『オオアラシ』と呼ばれるその厄は、数年に一度クヤ村を襲うモンスター災害である。古龍種、あるいはイビルジョーやラージャンなどの極めて危険モンスターが村を蹂躙し尽くす。当然村人たちは避難するが、多くの犠牲が出ることは防げなかった。それは当然のように現れ、必然のように村を平らげる。村人たちは困り、怯えるしか出来なかった。

そこで出てくるのが、ハンターズギルドである。対モンスターのスペシャリストであるハンターたちを派遣及び育成することを条件に、村への介入を受け入れたのだ。クヤ村はモンスター観測所や他狩場との経由地点として有用だったようで、ハンターズギルドはそれを受理し村を急速に開発していく。




ハンターズギルドとクヤ村が協定を結んで、十年と少しが過ぎた頃。

クヤ村から少し離れた場所に増設された、ハンター専用の住宅町。石造りの硬い印象を受けるとある家に、四人のハンターが集まっていた。全員がクエスト帰りから直行してこの家に集まったため、装備していた防具はそのままである。さすがに武器は背負っていないが、広い部屋を少し手狭に感じる程度には圧迫していた。


「このメンツで集まるんも久々やな! みな元気にしとったか?」


そう笑っている男の名は、大笑 莞爾。村のムードメーカーとして有名な、金髪が眩しい若手のハンターだ。彼は床に下ろした自身の武器ハンマーにもたれかかるようにして座っている。


「まぁ、オレとアサヒはよくクエストで会っていたがな」


眉間にシワを寄せつつ告げたのは、神風 蒼月。若手G級ハンターの筆頭で、クヤ村の外にも活動の幅を広げている男だ。不満を隠さない顔で太刀を肩に預け、アサヒと呼んだ男へ視線を向ける。


「そうだねヒロはカンジとチーム組んでたんだっけ」


ズレた口布を戻しながら答えたのは、百川 旭。ソウゲツと同じく若手G級ハンターの筆頭であり、こちらは研究者としても幅を利かせる男だ。表情を崩さず弓の手入れをしていた彼は、輪になった三人とは離れた場所にいる男に問いかける。


「ん? ああ、そうだぞ。と言っても、オレはここ暫く遠くには出てないが」


台所で簡単なツマミを作っていた男は、佐久田 英。ハンターとしての仕事ととハンターズギルドの業務を請け負う、この中で最も暇のない上位ハンターだ。


「キミはもっと評価されるべきだと思うがね」

「あはは、アサヒが言うならそうなのかもな。まぁ、しばらくは村からは離れないと思うが」

「ヒーローはギルドの仕事もやっとんのやろ? 大変やん」

「ギルド業務と言っても、本当にただの雑用だぜ。ソウゲツも受付代理やったことあるんだろ? アレと似たようなもんさ。
……っと、モテナシができたぞ。ソウゲツには及ばないが、そこそこ上手にできたはずだ」

「並べるの手伝うよ」

「お、ありがとうアサヒ」


皿に盛り付けられた豆や干し肉などの料理を、三人が囲んでいたちゃぶ台に並べていく。並べ終えたヒロは、三人の輪に加わった。彼の武器である狩猟笛は、台所近くの壁に立てかけられている。
食事を進めながら、特になんでも無い雑談を続けた。ふと、アサヒがカンジに問いを投げる。思いつきではあるが、それはソウゲツも気になっていることだった。


「そういえば、今回の集会ってヒロじゃなくてカンジが言い出しっぺなんだろ? 何か話したいことでもあるの?」

「いやぁ、こないだ『オオアラシ』の兆しあったやんか。忙しなる前に、一回会うときたいなーって」

……オマエは村人の避難に回されるんじゃないのか」


先日『オオアラシ』の兆候があったことは、ハンターズギルドは勿論のこと村人全体にも伝わっている。ハンターズギルドは全力で対策に挑むが、念には念を入れ村人の避難経路も考えられていた。下位ハンターと一部の上位ハンターはその避難先導に尽力するので、ソウゲツは恐らくカンジもそれに当てられているのだろうとツマミを齧りながら告げる。


「カッカッカ! 実はオレ、『オオアラシ』対策の調査団に選抜されてん!」


ガタッ!
その言葉の続きを待たずに、ソウゲツが勢いをつけて立ち上がった。突然の行動に、ヒロとカンジはギョッとしてそちらを見る。アサヒだけは唯一渋い顔でカンジを眺めていたが、二人はそちらには視線を向けなかった。何故なら、ソウゲツの顔はあまりにも怒りを現していたからである。


「ソ、ソウゲツ? どないしたん、急に……あ。もしかして、そんなにオレが選抜されたんにビックリしたんか? いややわぁ、オレだってやれば

「オマエに『オオアラシ』は危険過ぎる」


キッパリと断言して、ソウゲツはカンジを睨んだ。鋭い眼光に刺されたカンジは、しかし怯まず負けじと言い返す。ヒロはソウゲツの意図が見えず、またカンジの反論を止められずにいた。


「そんなこと無いわ! ちゃんと試験もやって、ギルドから正式に受けたんやから!」

「ダメだ。オマエのことはオレが一番、オマエよりも知っている。だから分かる。オマエに『オオアラシ』は危険すぎる。今からでも遅くない、辞退しろ。しないなら、オレからギルドに申請する」

「なっ!」

「待て待てソウゲツ、何を怒ってるんだ。カンジも落ち着け、な?」


これはマズイと察したヒロは、睨み合う二人の間に割って入る。興奮気味なカンジとは対象的に、ソウゲツは怒りの雰囲気はあるが冷静に見えた。そんなヒロの側で、アサヒは内心頭を抱える。
アサヒは、ソウゲツのカンジに対する執着を知っていた。彼は過保護を拗らせた結果、本人の意志を無視してでもカンジを守護しようとするのである。ヒロはまだ気付いていないようだが、面倒なことになるぞとアサヒはこっそりため息を吐いた。


……ハッ。なんや、オレが弱いからか? そりゃ、オマエはオレとは違うもんな!」


カンジが皮肉げに、挑発するように告げる。しかしソウゲツの反応は、カンジの考えていたものとは違っていた。


「────


彼はくしゃりと悔しそうに、そして苦しそうに顔を歪める。反論も激怒もせず、ただ哀しそうにカンジを見た。予想外の態度でカンジは言葉を失い、ヒロは察する。ソウゲツは、カンジを心配しすぎているのだと。


「皆、今日はもう解散にしよう。アサヒ、悪いがカンジを送ってやってくれ。ソウゲツはオレが送るから」

「ん、ヒロが言うなら。ほらカンジ、行くよ」

「えっ、ああ、でも

「お互い頭冷やしてからのほうがいいだろ? 永遠の別れってわけじゃないんだし」


上手く言いくるめながら、アサヒはカンジを引っ張って荷物をまとめて出ていった。離れていく背中を見送ってから、ヒロは苛立ちを隠さないソウゲツを改めて向き合う。


「ソウゲツ、アレは言いすぎだ」

……だが、アイツに『オオアラシ』の調査団は向いていない。オレには分かる。
ヒロも知ってるだろ。前の『オオアラシ』……イビルジョーのキャラバン襲撃で、カンジが不安定になったことを」


前の『オオアラシ』とは。飢餓の獣、生態系の破壊者であるイビルジョーによる壊滅事件だ。発見されてから村に来る前に狩猟されたが、先に襲われたキャラバンから生還したのは川に飛び込んで流されたカンジのみである。村は守られたが、G級ハンター試験落選者を乗せたキャラバンは全て文字通り全て、骨も遺さず喰らい尽くされた。
唯一の生き残りであるカンジは当時の記憶が飛び、しかしイビルジョーへの恐怖だけが残ったらしい。イビルジョーと聞けば本人の意志と関係なく身体が震え、水場に行けば知らぬ間に深みへ沈もうとした。ハンターとしては致命的ではあるが、無意識に避けているのか今のところ大事には至っていない。


「ギルドはそのことを把握した上で、カンジの強さを評価してる。全てを含めて、カンジなら出来ると踏んだんだろう」

「ギルドのやつらは知らないんだ。アイツの脆さを、傷を、優しさを」

「だからって、カンジの意志を無視していい理由にはならないだろ? それはソウゲツも理解ってるはずだ」

「それはカンジも分かってないだけだ」


平行線だな、とヒロは悩んだ。守りたいソウゲツと、認められたいカンジ。互いに互いを想っての行動なだけに、ヒロは二人に強く出られない。アサヒなら違ったかもしれないが、彼は積極性にあまり長けていなかった。恐らく今はカンジの小さな愚痴を聞いてやって、結局は「好きにすればいいよ」と告げている頃だろう。


「じゃあ、オレからギルドに掛け合ってみるよ。カンジの所属する調査団に、ソウゲツとアサヒも入れてやってくれって。オレはまだ現場に出れるかは分からないが、三人ならオマエも安心できるだろ?」

…………

「アイツの強さをすぐに認めろとは言わないさ。ただ、チャンスをやる位はいいだろ? まだ時間はあるんだから」


これは妥協案だ。根本的な解決にはならないが、小さな前進になる可能性はある。ヒロはソウゲツの言う、カンジの本質を知らないのだ。二人の問題に手を出しすぎるのも、二人のためにならない。ただ僅かに、ほんの少しだけ助けるくらいは許されるだろうとヒロは考えた。
納得はしていないが、その妥協案を受け入れたのだろう。ソウゲツは小さく頷き、荷物と武器を抱えて出ていった。残ったのは、食べられなかったモテナシの料理とヒロだけ。


……『全部』を救うには、どうすればいいんだろうな」


ポロリと落とした強欲な呟きは、ヒロ以外には届かずに消えた。