オルトフォーム訓練所の初学年の生徒たちは、一部屋に十名ずつ集められて、同じ部屋で生活をすることになっている。集団生活の営み方を学ぶためだと、こう言えば聞こえはいいが、実際はほんの少しのスペースも惜しまなければならないという理由が主たるものであった。
サイバトロニアンたちは、次々と生まれては『オールスパークの泉』と呼ばれる場所から姿を見せる。そこ以外からは生まれない。他の生物とは違い、サイバトロニアンは生殖による繁殖をしないのだ。それゆえ、新生のサイバトロニアンたちが特定の一箇所へ極度に集中してしまうという事態に繋がった。よちよち歩きの大量のサイバトロニアンたちを、よそに送って教育するとなると、非常に大きな手間がかかるだろう。それを避けるべく、彼らは可能な限り泉のそばの訓練所で基礎教育を受けることになっていた。そのため訓練所の生徒たちは限界まで居住スペースを削られ、さして広くもない部屋のなか集団で雑魚寝をせざるを得ないのだった。
サンダークラッカー達の寝泊まりしていた部屋も無論例外ではなく、スカイワープとスタースクリームの他にもルームメイトが七名いた。床全体にマットが敷いてあるので、うまく散らばればこの数でもそれなりに快適に寝られるのだけが救いだ。ブロック分けして各自に場所を割り振るとかえって狭くなるので、寝るときには、各々好きな場所に身を横たえて眠ることになっていた。
だから、誰かに命令されたわけではないのだ。それでもサンダークラッカーとスカイワープとスタースクリームは、いつでも近くで固まってスリープモードに入っていた。別に一緒に寝ようなんて誘った記憶はいくら探しても出てこないが、何故か三体ともそうするのが当たり前だと思っていたのだ。その夜も絵本を表示した携帯グリッドを真ん中にして三体で集まって消灯時間を待っていた。
「こうして13のプライム達は悪のクインテッサ星人をサイバトロン星から追い出すことができたのでした。めでたしめでたし」
「えーそれで終わり? 続きねえの?」
「ない。知りたかったら図書室で伝記でも借りてこいよ」
暇つぶしに音読していた絵本も読み終わり、サンダークラッカーは携帯グリッドに表示していた絵本を閉じて、元の場所に置きに行った。まだスパークを受けてそれほど時間の経っていないサンダークラッカーにはその棚は高く、背伸びしないと届かない。
「やだめんどくさいもん。字がいっぱいだし」
「そりゃ本だから字がなきゃおかしいだろ
……」
「だーからお前は馬鹿なんだよ、スカイワープ」
スタースクリームがからかうような笑いを浮かべて言うと、毎回のことなのに飽きずにスカイワープはその喧嘩をきっちり買うのだった。
「なんだよっそんなん関係ねーだろ!」
「大有りだろ。悔しかったら次のテストで俺より良い点取れば?」
「くっそーむかつくぅ!」
スカイワープがスタースクリームに飛びかかると、スタースクリームは楽しそうに笑ってそのまま取っ組み合いを始める。スタースクリームはスカイワープをからかうのが好きなのだ。
「おいおい暴れんなよ、また先生に怒られるだろ」
ため息をついて二体に注意すると、他の既に眠そうなルームメイト達も抗議の声を上げる。
「そうだそうだ。この前なんか俺達まで怒られたんだぞ」
「っていうかうるさい、寝られねーんだけど」
「だってスタースクリームが先に喧嘩売ったんだぜ!」
「お前が馬鹿なこと言うからだろ」
「あーっまた馬鹿って言ったな!」
そろそろスカイワープが本気で腹を立ててしまいそうなので、サンダークラッカーはスカイワープをスタースクリームからひっぺがしてフォローを入れた。
「まあ落ち着けよ。ほら、今度俺が教えてやるから、13プライムのその後」
「お、ほんとか?」
「ああ。テスト勉強がてらに」
「
……えー」
すごく嫌そうな声を出されたので今度はサンダークラッカーが堪えきれずに笑ってしまった。
「どのみち勉強しないと進級できないぜ?」
「だって嫌いだもん
……勉強
……」
スカイワープはそう言って、打って変わってしょんぼりする。けれどある程度の成績を取らなければ進級できないのは事実なのだ。この訓練所はオルトフォームの練習だけが目的ではなく、サイバトロン星の基礎的な知識や生活習慣も身に付けることを要求する。それができなければ何時まで経ってもこの狭い部屋で雑魚寝を続けなければならない。
「このままだと俺とサンダークラッカーがお前より先に訓練所卒業ってことになるかもな」
「ひでぇ! 俺を置いてく気かよ、薄情者め!」
「だったらちっとは頑張れっての」
スタースクリームがそう言った時、ふっと照明が消えた。一気に部屋が暗くなって、ルームメイト達が黒い輪郭にしか見えなくなる。
「消灯時間だ」
「みんなちゃんとスリープモードに入れよー」
部屋長が言うと、各々返事をして思い思いの場所に横になる。サンダークラッカーもスタースクリームとスカイワープの傍で横になってアイセンサーの感度を落とした。そうしてうとうとと夢の中に入りそうになった頃、小さな声でスタースクリームがささやいた。
「お前らもう寝ちゃった?」
「
……まだ起きてる」
先に返事をしたのはスカイワープだった。スリープモードに入った他のルームメイトを起こさないように、彼も小声だ。
「サンダークラッカーは?」
「おれも起きてる」
もそもそと姿勢を変えてスタースクリームを睨む。
「なんだよ。おれ眠いんだけど」
「寝るのはもうちょっと待てよ。お前ら知ってる? 今夜は北西の空で超新星爆発する星が見られるんだぜ」
「へー。で?」
「見に行こう。俺達だけで」
サンダークラッカーはじっと暗闇に目を凝らしてスタースクリームを見つめた。スタースクリームは誰かにいたずらするときと同じ種類の笑みを浮かべて、頬杖をついている。
「夜中にこっそり抜け出すなんて、面白いな」
くすりと笑ってスカイワープがささやく。ということは彼は賛成らしい。けれどサンダークラッカーにはそれはあまりいい考えであるとは思えなかった。
「無理だろ。だって外につながるドアにはロックが掛かってるはずだ、外に出るにはアクセスコードかカードキーがいるぜ」
「ばーか、俺だってそれくらいわかってるさ」
スタースクリームは笑って、隠し持っていたカードキーをふたりに見せた。サンダークラッカーは驚いてそれを凝視する。
「
……どこでそれを?」
「秘密」
「とか言って、どーせ守衛室からくすねてきたんだろ?」
スカイワープが言うと、スタースクリームは否定せずにただ「さあな」とだけ返した。
「で、お前はくるのか? サンダークラッカー」
「
……」
実を言うと、そんなに行きたいとは思えなかった。夜は勝手に出歩いてはいけない規則になっている。見つかった時のことを考えると不安だし、規則は守らなくてはいけないものだ。だけど、それ以上にサンダークラッカーはひとりだけ部屋に残されるのは嫌だと感じた。サンダークラッカーはため息をついた。
「お前らだけじゃ心配だし、ついてくよ」
ふたりとも調子に乗ったらどこまでも突き進んでしまう性分の持ち主なのだ、まずいことになる前に止めてやれるのは自分しかいない。そんな言い訳を心のなかでしつつ、サンダークラッカーは規則を破ることを決めた。そう考えることによって、置いていかれることなど、考慮に入れていないふりをした。
サンダークラッカーの言葉を聞いたスカイワープとスタースクリームは、顔を見合わせてにっと笑った。
「よし、じゃあ決まりだ」
他のルームメイト達が皆スリープモードに入っていることを確認してから、スタースクリームとスカイワープとサンダークラッカーはそろそろと扉の方に歩いて行き、音を立てないようにそっとドアを開いて廊下に出た。
必要最小限の明かりしかない廊下はとても暗い。アイセンサーの感度を最大限まで上げてみても、少し先までしか見えなかった。まだスパークを受けて誕生したばかりのサンダークラッカー達の機能は制限されているものが多く、スキャン機能は使えないのだ。
「なあお前達、知ってるか?」
3つ目の非常口のかすかな灯りの下を通り過ぎた時に、先頭を歩いていたスタースクリームがささやいた。
「このへんの第三セクターのあたりってな、出るんだとよ」
「出るって何がだよ?」
スカイワープは、いかにもどうでもよさそうな様子を装っていたが、その声にはどこか不安そうな響きがあった。スタースクリームは二人をちょっと振り返って、面白がるような顔で笑って言った。
「もちろん、幽霊」
「え
……」
サンダークラッカーとスカイワープは綺麗に同時に歩みを一瞬止めて、怖々と辺りを見渡した。だがもちろん何も見えるはずもなく、どこを見渡しても闇ばかりだ。
「けっ、おめーら怖がってんのか?」
「ば、バカ言ってんじゃねーよッ!」
「声が大きい!」
サンダークラッカーは咄嗟にスカイワープに飛びついて口をふさいだ。そして急いで聴覚センサーを研ぎ澄まし辺りの様子を窺うが、幸い誰かが聞きつけて様子を見に来る気配はなかった。それを確認してからサンダークラッカーはゆっくりとスカイワープから離れる。
「ったく、状況考えろよな。今どこで何をしてるかわかってんだろ?」
サンダークラッカーが睨むと、スカイワープは若干きまり悪そうに「悪かったよ」とぼそりと言った。
「とにかく行こうぜ、さっさと進まないとマジでそのうち夜警に捕まりそうだ」
もっともな意見だと全員が思ったので、まずはなんでもいいので進むことになった。
また非常灯の下を何個か通ったとき、またスタースクリームが小さな声で後ろの二人に向かって言った。
「幽霊っていいよなぁ」
「はあ? お前マジ何言ってんの?」
スカイワープはスタースクリームに向かっておもいっきり顔をしかめてみせる。まだ、スタースクリームが自分のことをからかっていると思っているのだ。けれどもスタースクリームはどこか夢見がちな表情を浮かべ、将来の夢でも語るような調子で続けた。
「ユーレーなら、いつでもどこでも好きなところに行って、好きなだけ好きなことできるんだぜ。こんなコソコソしなくたってさ。最高じゃないか?」
スカイワープはそれには答えずに、渋面をサンダークラッカーの方に向けた。スカイワープは、少しでも面倒なことがあるといつもサンダークラッカーに何とかするように求めてくる。サンダークラッカーは肩をすくめて、仕方なく言った。
「幽霊になるには死ななきゃいけないぞ、スタースクリーム。お前はまだ生まれたばかりなのにもう死にたいってわけか」
「そんな話はしてねーだろ」
「そういう話だろう。だいたい幽霊なんて憧れるようなもんじゃない。体もなしにスパークだけあっても何もできっこないんだから」
「お前って本当つまんねえやつだよな、サンダークラッカー。今からそんな現実主義者じゃ将来どんな退屈な大人になってることやら。末恐ろしいぜ」
サンダークラッカーは思わずカッとなって言った。
「お前に言われたくねえよ、この超弩級のトラブルメーカー」
サンダークラッカーがスタースクリームを睨むと、スタースクリームは押し殺した声でくくくと笑った。スタースクリームはいつもこうだ。話が退屈とよく言われるのをサンダークラッカーが気にしていること、それを見ぬいて、わざとそこをつついてくる。そして彼は誰に対してもそういうことをする。スカイワープのことは馬鹿だとからかうし、あるルームメイトのことはのろまだと囃し立てる。スタースクリームは、相手が懸命に隠そうとしているコンプレックスを難なく見つけ出しては、それをおもちゃにして笑うのだ。いつでもだれにでもそんなことをしていては、スタースクリームが周りから嫌われがちなのも当然の結果と言わざるをえない。
「はいここでサンダークラッカー様からありがたい予言。スタースクリームくんはいつか後ろから刺されて死にます」
「お、サンダークラッカーからありがたいご神託が下ったぞスタースクリーム。早く刺されて死んでこいよ」
「死んでくるわけねえだろ!」
「あ、ここ」
スカイワープに食ってかかろうとしたスタースクリームが、サンダークラッカーの呟きにつられて目の前の扉を見上げた。E-15、という文字が扉の上で煌々と光を放っている。
「ここから行くと屋上が近いはず」
「よく知ってるな、サンダークラッカー」
スタースクリームがそう言うと、スカイワープが笑った。
「サンダークラッカーは暇さえあれば空ばかり見てるからな。変なとこでロマンチストなんだろ」
「うるせえ。お前だってひとのこと言えんのか」
「俺はいいんだよ、なんたってスカイワープだぜ。空を飛ぶために生まれてきたようなもんだ」
「まだ飛べないくせに」
「お前だってそうだろ、サンダークラッカー」
スカイワープとサンダークラッカーがそんなことを言い合っている間に、スタースクリームは扉のロックを調べ始める。施設職員たちはアクセスコードを直にもらっているので、ただ扉のレセプタクルに腕をトランスフォームさせてアクセスすればロックを解除できる仕組みになっている。だが、外部から派遣されてきている警備員たちはずっとここで働くわけではないので、テンポラリーキーとしてカードを渡されている。別の場所に異動になったらそれを返還させて、用もないのに勝手に入り込んだりできないようにするためである。スタースクリームは、カードの読み取り口を探すと、そこにカードキーを差し込んだ。その瞬間ロックの上にすっと文字が現れる。
"ACCESS GRANTED"
カチャ
……と音がして、扉が小さく動いた。隙間からは、夜の乾いた冷たい空気がそろりと流れ込んできた。
「開いた」
目を丸くするスカイワープとサンダークラッカーの前で、スタースクリームだけがどうだと言わんばかりの得意満面の表情を見せる。
「おら、行くぞお前ら」
スタースクリームはそう言って返事も待たずにさっさと扉の向こうに身を滑り込ませる。
「ま、待てよスタースクリーム」
慌ててスカイワープがその背中を追って外へと飛び出し、最後にサンダークラッカーだけがなんだか不安を拭い切れないまま、そっとふたりの後をたどるのだった。
非常階段をそろそろと登り、曲がりくねった通路を抜ける。サンダークラッカーはいつも非常階段より先には行かないので、このあたりまで足を運んだのは初めてだった。おそらくスタースクリームも初めて来たはずなのだが、スタースクリームの足取りは、見知らぬ場所を歩いているのだとは思えないほどに確かで素早く、自信に満ちていた。きっとそのせいなのだろう、サンダークラッカーとスカイワープが、いつもスタースクリームの後をついて回ってしまうのは。そんなことを考えているうちに、見回りの夜警にも出会うことなく彼らは目的の場所までたどり着くことができた。
そこは貯水槽のある屋上エリアだった。水は彼らにとっても、生活する上で欠かせないものである。機体を洗浄したり高温になりやすい機関を冷やしたりと、その用途は多岐にわたり、また消費する量も格別に多い。だから、貯水槽は広い屋上の空間いっぱいにずらりと並んでいた。
そして金属生命体である彼らにとって、水とは十分に扱いに注意しなければ予期せぬ結果を招くものだ。特に、まだ年端もいかないサイバトロニアンであるスタースクリームたちにとっては、危険であるとさえいえるかもしれない。
だから彼らが、おとなの付き添いなしでこんなところにやってくるのは初めてのことだった。
「おれ、この前聞いたんだけど」
貯水槽の間をいくつもすり抜けて、超新星爆発が見えるという北西の方角まで来ると、スタースクリームが手すりの上に腕を組んで寄りかかった。
「むかーし、ここで行方不明になったガキがいるらしい。ある日、ふっと目を離した一瞬のすきにいなくなっちまったんだって」
「先に部屋に戻っただけじゃねえの?」
スカイワープが口の端を上げながら混ぜっ返す。けれども意外にもスタースクリームは神妙な顔を保ったまま言った。
「その場にいた誰もがそう思ったらしい。けど、どこを探してもそいつは見つからなかったんだとよ。何週間も」
「
……その話、知ってる」
サンダークラッカーがスタースクリームの隣に並びながら、ふと思い出したように言った。
「最後にそいつを見たやつは、そいつの親友だった
……って話だろ?」
スタースクリームは否定しなかったので、サンダークラッカーが話の先を引き取って続けた。
「季節が一巡りした頃に、ガキどもから苦情が出た。あるブロックの洗浄水だけが妙な赤茶色をしている。錆び水が出てくるんだ。変だと思って貯水槽を片っ端から調べたら
……」
「
……うげえ。やめろよその話」
スカイワープが本当に心底嫌そうな声でいうので、今回はサンダークラッカーも少し笑った。
「馬鹿だな。そんな話つくり話に決まってるだろ。いなくなった場所が明確にわかっているのに貯水槽を全部調べないで一年も放置するなんて、現実味がない話だ。そもそもそんな事態になったら、座標をコミュリンクで緊急信号に乗せて発信するだろう。俺達だってそれくらい出来るんだから」
サンダークラッカーはその話のほころびをすらすらと上げて矛盾を指摘する。そのうちにスカイワープは見る見るばつの悪そうな表情になり、ぷいっと横を向いて屋上の縁の方に顔を向けた。
「べ、別に信じてたわけじゃねえし! 俺だってそれくらいわかってた!」
「ほんとかよ。ビビッてたのに」
「ビビってなんかねえよ!」
「俺は実際あったんじゃねえかと睨んでるけどな」
サンダークラッカーとスカイワープが口喧嘩を始めようとした矢先、スタースクリームがそんなことを言い出したので二機はきょとんとして彼に目を向けた。
「俺たち訓練生が所属してるのはこのオルトフォーム訓練所だけだ。大人たちのように、働いてるギルドとか、住んでる場所の管理者とか、複数の場所や機関に個体識別番号が登録されてるわけじゃないだろ? そして俺達はまだ訓練生だから、できることも限られている上に、交友関係もすごく狭い。せいぜい同じ部屋の奴らしか存在を認識してないし、そいつらだって突然誰かひとりがいなくなったところでどこに行ったかなんてわかんないだろ。訓練所が伏せておこうと思えば、都合の悪い事件を隠すこともできなくはないんじゃねーかな。ひとりくらいいなくなっても、わからないということはありえると思うぜ」
けれども、サンダークラッカーはスタースクリームの言葉には納得しなかった。自分の考えの方に、確信を持っていたからだった。
「いーや、それはありえない。毎年何人がオールスパークから生まれでて、何人が進級して、何人が留年して、最終的に卒業するかなんて、全部きちんと記録してあるはずだし、その累計数はアイアコンに常に送信されているはずだ。いきなり数をいじったりなんてできるはずない」
「減らさなければいいだろう。いつまでも卒業しない、幽霊訓練生として、形だけ残せばいい」
幽霊、という言葉にサンダークラッカーはたじろぐ。ここまで来るさなかにスタースクリームがぽそりと口にした言葉がメモリーユニットをさっとかすめる。第三ブロックにいるという幽霊の話。スタースクリームは、あれを、どういうつもりで口にしたのだろう?
「
……俺、カードキーを掠め取るついでにな、詰所にあったデータログを漁ってみたんだ。それでいろいろと面白いログを見つけたんだよな。かれこれ15年ほどスクラップ場から動かない識別番号シグナルとか。そういうの、結構あるんだ。それこそそこら中に。で、俺、見つけたぜ。ここの貯水タンクの群の中に、昼でも夜でもずっと動かない識別シグナルがあるんだ。そいつの正体は一体何なんだろうな、サンダークラッカー」
「
…………」
サンダークラッカーはしばし返す言葉もなく黙り込んでいたが、勝ち誇ったように笑うスタースクリームを見ているうちに再び対抗心を取り戻して、腕を組んで彼を見据えた。
「俺を怖がらせようったってそうはいかねえ。第一に、噂の中ではそいつの死体はもう発見されてるはずだ。それなのにまだ貯水タンクに入ってるのはおかしい。第二に、外からシグナルを拾えるんだったら、そもそもそいつは行方不明になんかならなかった。だから、スタースクリーム、お前の仮説は成り立たない。スカイワープ、お前だってそう思うだろ?」
サンダークラッカーが同意を求めると、スタースクリームもまた「お前は俺を信じるだろ?」とスカイワープに問いかける。スカイワープはいきなりふたりから意見を求められてきょとんと二機の同型機を交互に見た。
それから、肩をすくめる。
「俺が知るかよ、そんなこと。そんなに気になるなら、実際に確かめてみりゃあいい話だろ?」
確かめる。その言葉にサンダークラッカーはたじろいでしまう。もちろん、それが一番手っ取り早く確実な方法なのはサンダークラッカーにもわかる。
けれども、もし、スタースクリームのほうが正しかったら? もし、自分が間違っていたら、そこには一体何がある? サンダークラッカーは、黒い鏡のような、静かな水面の奥に、朽ち果てた死体を見ることになるのかもしれない。腐食し、おぞましい茶色い錆に侵されボロボロに崩れている小さな塊が、暗い水の中で揺らめいている
……そんな想像をしてしまい、サンダークラッカーは慌ててそれを振り払った。
「まったくそのとおりだな、スカイワープ。お前にしちゃ冴えてる」
スタースクリームはそんなサンダークラッカーの内心を見透かしているような笑みを浮かべてサンダークラッカーの顔を覗き込んだ。
「まさか怖いわけじゃねえだろ、サンダークラッカー?」
そんなふうに言われてしまえば、見に行かないわけにはいかなかった。ここで引き下がれば、負けを認めたも同然だ。そうなれば、スタースクリームはいつものように、それをいつまでもつついてサンダークラッカーが嫌がるのを喜ぶだろう。それだけは避けねばならない。だから、サンダークラッカーは気の進まない思いをひた隠しにして、なんでもないような顔でうなずいてみせた。
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