二卵性
2429文字
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夏の白い影

現パロっぽい夏のしょたヌリ回想SS

初恋はいつだったかって?ずいぶん唐突だな。なんだい、さっきのを見てたのかい?なかなかいい趣味してる……ハハ、冗談だよ。
そうだなあ、いつだったかな……。実はあんまりそういう経験って覚えがなくってさ。意外だって?そうでもないだろ。別に遊んでるわけじゃないし……
……ああ、思い出した。
なんで忘れてたんだろう?
子どものころに、たまに夏休みに母親の実家に帰っててさ。けっこう田舎のほうで、同年代の子どもってほとんどいなかったんだ。でも一人だけ、たまに遊ぶ友達がいたんだよ。
遊ぶって言ったって、ビデオゲームとかじゃないぜ。とにかく自然が豊かで、近くに山があって、沢があった。小さい湖もあったかな。そういうところに一人で行くなって言われてたけど、その子も一緒だったから、大人に内緒で行ってたんだ。今になって思えばそういうことじゃないんだろうけどな。
綺麗な子だったよ、都会でも見たことないくらい……。いつも白い服を着てたな。髪も肌も白かったから、とにかく白い印象だった。目の色は違ったから、目の印象も強かったかな。それで、手がいつも冷たかった。
あと、俺を変な名前で呼んでたような気がする。喋り方も大人っぽいというか……古風な感じで面白かったんだ。ちょっと古い本に出てくる大人の男性みたいで、上品だったよ。あのあたりであんな喋り方してた人なんていたっけな。
それで……遊ぶときは水辺に誘われることが多かったと思う。でも山の湧水って、夏でもかなり冷たいんだ。手を浸しただけでも一瞬びっくりするくらいキンキンに冷えてて、まあ本当は飲むのは良くないんだが、手で掬って飲んだら気持ちがいいくらい。とてもじゃないが水遊びなんてできないって思ってたんだけどさ。
その子は平気な顔で、沢に入っていったんだ。
服を着たままだよ。ちょっと足を浸して寒いってすぐに上がるような気温で、木が鬱蒼と生えてるから陽射しもその間からしか届かない。ああ、木漏れ日が水面に反射していてきれいだったな……。その子の長い髪が水面に浮かんで、波みたいだった。全然違うけど、そこがまるで海みたいに思えたんだ。
ちょっと行ったら結構深かったみたいで、あっという間に胸まで浸かっちまってたよ。その光景になんだかドキドキしてさ。初恋って言ったらその時かもしれない。
ハハ、変な顔してどうしたんだ?
そうそう、その子があんまりに平気な顔して、手招きされたから俺も後に続こうと思ったんだ。でもサンダルのまま入った水はやっぱり冷たくって……、ゆっくり進んでたら、雨が降り出したんだったかな。慌てて上がって、その子もずぶ濡れのままで、二人で雨宿りしたんだった。
でも雨も降ってる上に服も濡れてて、手も冷たいから心配になってさ。当時なんかの本で、雪山で遭難したときは体を冷やさないために濡れた服を脱がなきゃいけないって読んだ記憶があったんだ。だから服を脱いだ方がいいって言って……
……、いや、やましいことはしてない。
相手も男だったんだ。そう……、服も白かったが肌も白くて、全然赤くもなっていなかった。小さいハンカチで一生懸命拭いて、髪を梳いてたら俺もだんだん冷えてきて、細い腕に抱きしめられた。
その子はずっと冷たいままで……、唇も冷たかった。ドキドキしてたのは俺の心臓だけだったのかもしれない。
なんてな。
そういえばあの日、どうやって家に帰ったのかよく覚えてないな。でもあの家で一回ひどい風邪を引いたことがある。体を冷やして熱を出したのかね。
小さい頃の記憶だからあいまいだよ。まさか本当にこんなことがあったなんて……、なんかと混ざってるんだろ。
でもあの子、今はどうしてるかな。名前は何だったかな。
名前は……
ああ、違うけど思い出した。
あの子にはリオセスリドノ、って呼ばれてた気がする。変な名前だよな。
でも妙にしっくり来たんだよ。なんでだろう。
時間があるときに一度帰ってみようかな。最後に帰ったとき、また次の年も行くつもりだったんだけど、いろいろあってそれ以来帰ってないんだ。まあもうばあちゃん家もなくって、あのあたりに宿もなかったから、ちょっと考えなきゃいけないけど。その子の家に泊まればいいって?ハハ、電話番号くらい知ってりゃよかったけどな。連絡先も何も交換してないからな……



君、どうかしたかね?
ずいぶんと顔色が悪い。そこのベンチに座るといい。
そこの……、自販機とやらで、何か飲み物を買ってこよう。水でいいだろうか?問題ない、体を休めていたまえ。
……、どうぞ。
少し落ち着いただろうか?
今日はずいぶんと陽射しが強い。熱中症……というものだろうか?違う?
ふむ。友人が行方不明になったと?
それは心配だろう。だが君が責任を感じることではないのではないかね?
……帰省先で行方不明になったのか。
君と話をしたせいで帰省を?ああ、子どもの時分の話をしたのは……。そう聞くときっかけを作ったのは自分のように思えてしまうかもしれないが、やはり君が責任を感じるようなことではないだろう。
もとより彼のゆかりの地だったのだ。いつかは帰る場所だったのだろう。それが早いか遅いかということではないかね。
ずいぶんと冷たいことを言う?人にはいるべき場所というものがあるのだ。もし、そのように罪悪感を抱くのであれば、やはり……
しかし、彼のようなすばらしい人間を覚えているべきでもある。悩ましい問題だ。
ああ、気にしないでくれ。ただのひとりごとだ……。もう一本水を買ってこようか。いらない?そうか。
ところで君、妹君は息災かね?
……そう怯えなくてもいい。
じきに忘れることだ。君を怖がらせたかったわけではない……。ただ、確認をと思ってな。
まだ暑い日が続きそうだ。体調には気を付けて……、気持ちも持ち直せるよう、祈っている。
……私の名前?
彼は君に、私の名前を教えなかっただろう?