長月ユウ
2026-07-23 22:30:03
2110文字
Public 庶莉
 

【庶莉】雨宿りの午睡

タイトル通りの割とよくあるネタ。多分ほのぼの。
西涼での特殊な生活で、ちょっとバグってる莉杏と言葉足らずな徐庶の話。

外は雨がしとしとと振り続いている。
「元直様、入っていい?」
彼の部屋の前で声をかけると、二つ返事で許可がでる。
部屋に入れば、元直様が文机の前で書類とにらめっこしていた。
「お仕事お疲れさま。お茶とお菓子を持ってきたの。どうぞ」
「すまない、ありがたくもらうよ」
元直様は湯呑みを受け取ると、喉が渇いていたのか中のお茶を一気に飲みほした。
「大変そうだね……邪魔になるといけないから、部屋に帰るよ。あまり根を詰めないでね?」
空になった湯呑みにお茶を注ぎ、自室に戻ろうとすると、
「莉杏」
元直様に手首を掴まれる。
「ん?」
「ええと、しばらくここにいてくれないか? あと少しで終わるから……
その表情が、まさに今みたいな雨の中で震える野良犬のように見えて、放っておけなかった。
「いいよ……終わるまで、本を読んでもいい?」


雨足が、少し強まっている。
元直様が仕事を片付けている隣で、私は静かに読書をしていた。
元直様の部屋にある書物は兵法にまつわるものが多くて、そっち方面に疎い私には、読んでいてもきっと半分も理解できていない。
それでも、こんな私に「君を妻として迎えたい」と言ってくれた彼がどんな事を学び、乱世を終えるための力に変えていくのかを知っていけるのが嬉しく感じて、退屈だとは思わなかった。

…………ふぅ」
キリがついたのか、元直様はひとつ息を吐くと大きく伸びをして私の方へ視線を向けた。
​「少し疲れたな……莉杏、待たせてすまない」
「ううん、大丈夫」
言葉通りの疲れと、なぜか少し照れたような表情で、元直様が言う。

「それで、その……君にここにいてもらったのは、俺と一緒に寝てほしかったからなんだ」

​その言葉を聞いた瞬間、私の背筋に緊張が走った。
「寝る」――その二文字が意味するものを、私の身体は一つしか知らない。
「こんなお願いをしてしまってすまない。けど、聞いてもらえるだろうか?」
……断るなんてできない。でも、痛がったら嫌われるか、そうでなかったとしても二度と誘われないかもしれないし、行為自体も久しぶりだから余計痛くて叫んでしまうかもしれない。
それに、雨が降ってて暗くなってるとはいえ、まだ昼間なのにあんな事をするなんて……
……わかった」
でも、求められるのならば、将来の妻としてできる限りのことをしたい……しなければならない。


「おいで」
元直様が先に寝台に横になり、私が入れる程度の隙間を作ってポンポンとたたく。
……うん……
寝台に入ったら最後、多分私の身体は元直様のなすがままにされるのだろう。
正直に言えば怖い。元直様は優しいし、行為自体は嫌じゃないけど、痛いのは変わらないのだろうから。
不安になりながら寝台に座り、震える指で服の釦を一つずつ外すと、

「まっ、待ってくれ莉杏、違うんだ!」

元直様が血相を変えて飛び起き、釦を外している手を掴まれた。
「え……?」
「すまない、言葉が足りなかった! そういう意味で誘ったんじゃなくて、ええと……
じゃあ、どういう意味なのだろう。元直様を脱がせるのが先なの? それとも下着だけ脱げってこと……
そんな事を考えていると、
「とりあえず、服は着たままでいい。身体を求めてるわけじゃなくて、その……ただ、君と一緒に横になって、眠りたかっただけなんだ」
元直様の一言で、私の頬が今更熱くなる。
……自分がとんでもない思い違いをしていたことへの、恥ずかしさで。
「あ、その……ごめんなさい! 私、てっきりそういう意味だと思って……
……っ」
元直様が悲しげな顔をして私を抱きしめ、そのまま寝台に横になった。
……そんな顔をさせるつもりは、なかったのに……


「本当に何もしないの……?」
未だに残る不安を解きほぐすように、元直様は私の身体を優しく撫でる。
「しないよ。腕の中にいるだけでこんなに固まっている君に乱暴なことはできないし、今の俺にそんな気力は残ってないよ」
規則正しい彼の鼓動と、優しい手の温もりに、次第に身体の力が抜けていくのを感じる。
……それとも、何かされないと落ち着かないのかい?」
元直様のイタズラっぽい笑みに、頬が熱くなる。
「そ、それは……っ、出来ればされない方がいいんだけど、それでも居心地悪いような……
「じゃあ……顔を上げてくれないか?」
言われるままに顔を上げると、元直様の唇が私のそれに重なる。
軽く啄むような接吻をニ、三度繰り返すうちに、身体の力はすっかり抜けていた。
「おやすみ莉杏。ここも、君がゆっくり羽根を休められる場所になれたら嬉しい……
見つめ合ってくすぐったそうに笑うと、元直様が目を閉じる。後には規則正しい寝息が聞こえるだけだった。
「ありがとう、元直様……
彼につられたのか、「安心して羽根を休められる」と思えたのか、自然に瞼が降りてくる。
誰かの隣でこんなにも穏やかに眠れるなんて、いつぶりだろう……


雨は止んでいる。窓の外から入ってくる風は、西涼の書庫で単福殿と言葉を交わしていた時と同じ温度がした。


end.