あなたがそばにいない時間が切なくて仕方がありません。出来る事なら今すぐあなたの元へ行ってその姿が見たい。あなたの丸くなった背を愛おしく思います。身体に良くないとは思いつつ、ひどく愛らしくも思ってしまうのです。世界に触れて確かめる指を美しく思います。あらゆる物がそのしなやかな指先ひとつに操られるのです。何もかもを見透かすような瞳に魅了されています。あなたの前ではどんな些細なことでも、隠すことも偽ることも出来ないでしょう。あなたが何かを考える間、その美しい指で柔らかく歪められる唇を思うと、私はとても平静でいられなくなります。千万の言葉を操る声は、時に圧倒的な威厳を、時に鋭く冴え渡った理論を、時に少し不器用な優しさを紡ぎ、その全てが私を雷に打たれたかのように貫いて、あなた以外の全てのことを一瞬で焼き切ってしまうのです。あなたは今どこにいますか。あなたに会いたくて仕方がありません。この気持ちをどう言い表せば良いというのか、あなたのように言葉が巧みであれば良かったと思います。
ですが、あなたがここに居なくても、あなたがどこかで幸せであるならそれで良いとも思うのです。半分は寂しさを隠すための言い訳です。しかし、もう半分は本心なのです。私はあなたが、愛と平和と優しさで出来た世界で幸せに暮らす姿を夢想します。これはあなたには退屈かもしれません。あなたにとっての幸せではないかもしれないと分かっています。あなたが求めているのはきっと、もっとスリルのある刺激的な世界だ。私は、まさにあなたのそういう挑戦的なところに恋をしてしまったのです。一方で、あなたの背負うものの大きさに、あなたに迫るかもしれない危険に、背筋が冷える思いで居ても立っても居られなくなるのです。あまりにも矛盾した身勝手な想いです。あなたの力を侮っているわけではありません。あなたは世界一強く、賢く、美しい男だ。私はそう確信しています。それでも私と同じ、不完全な人間でもあるはずです。あるいは、あなたのような強い男が持つ隠れた弱さを、私だけが知る事が出来たならば、というただの欲なのかもしれません。
こんなこと、あなたにはとても言えないと思います。これは恋文の体をしていますが、あなたに読まれることはないでしょう。あなたに届くことがないと始めから高を括っているからこそ、こうしてあなたの前なら絶対に言えやしないようなことを書き連ねているのです。
出来る事なら今すぐにあなたの温度を、細い身体の大きさと重さを、肌の奥に触れる骨の存在を、喉の震える振動をこの手で感じたい。あなたの見たもの、経験したこと、感じたこと、考えたこと全てをあなたの言葉で聞いてみたい。決して全ては知り得ない、あなたの頭の中で起きていることに想像を膨らませてみたい。そしてあなたの名を、声の限り叫んでみたい。十代の少女のような夢です。しかし幸せの形とは色々です。あなたも私も気付いていない形がきっとありますから、何も悲観することはないと信じています。
宛名もない恋文とは如何なものかとも思います。あなたの名をここに書き残せないことが少し残念ですが、どうかその日まで、あなたが今日も、どんな形であれ幸せでありますよう。
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