しゅう as 猫田しゅうぞう
2026-02-18 19:26:59
2197文字
Public GQX
 

窓の向こう

GQX シャアシャリ 第三者からみたやつ・車窓の向こう
緑の宇宙2用の展示でした

 終点も近くなれば、メトロはいつも空いている。反対方向へ向かう電車も同じで、重なる窓越しに向かい側のホームがすっかり覗けるぐらいだ。急行も止まらないうえ、終電間近なこともあって人自体も少ない。降りた人間も乗り込んだ人間もまばらで、いつもは本を読んでいて気づかなかったのかもしれない。
 時間調整で少し長めに停車するその駅の、向こうのホームではベンチに並んで座る男たちがいた。
 前髪を厚く降ろした金髪の青年と、彼よりすこし年嵩だろうおじさんの二人だ。最初に目を引いたのはおじさんのほうで、青みがかった緑のツーブロックに黒縁眼鏡の太いフレームが垢抜けて、お洒落な髭が似合う人だ。服装はくたびれたスーツじゃなくて、きちんとした身なりだなと思わせるところがある。手袋のせいかもしれない。もっと都会なら見かけることもあるかもしれない。それこそなんでこんなさびれた地下鉄の駅にいるのかと不思議だった。でも興味を引かれたのは彼が一人ではないせいだった。
 私は彼らを絵画のように思ったのだ。
 なぜなら手元に視線を落としているそのおじさんを、隣の青年が体を傾けるようにして見つめているのだった。薄暗いホームなのもあり、下ろされた前髪で青年の人相はよくわからない。おじさんに比べれば、とりたてて特徴のない青年に見えた。彼は量販店のマネキンそっくりの服装で、それこそ人混みに紛れてすぐに見失ってしまうだろうと思えた。
 青年がなにか言ったのか、おじさんが顔を上げ、彼に困ったような仕草を返すところまでは見えたが、私の乗った電車は発車してしまって、二人の姿はすぐに見えなくなった。
 それを何となく印象深く覚えていたら、それから何度も見かけるようになった。それで気に留めて見るようになると、二人を見かけるのはいつも、木曜日の夜だった。毎日乗っている路線だが、ほかの曜日に姿を見かけることはない。そして私のまばらな退勤時間から察するに、彼らは少なくとも一時間前後はそこにいるようだった。
 ある日、二人の手元には必ずテイクアウトのカップがあると気づいた。駅前によくあるチェーン店のカップだ。季節のプリントが目立ってすぐわかる。この路線の乗換駅にもある店で、別にテイクアウト専門じゃない。それがひっかかるが、理由は知れない。時折彼らが顔を見つめ合い、笑いあい、肩を寄せ合うようにしてなにか喋っていることだけが、車両の窓越しにわかることだ。ほんのわずかな停車時間に見て取れることなんてそれ以上にはなかった。
 ただ、仲が良い友人同士らしいと微笑ましく思っていたとある週、ベンチにいるのは一人だけだった。金髪の青年はドリンクのカップをベンチに置き、いらだつ様子で片手に持った端末を覗き込んでいた。
 次の週は二人ともいなかった。
 さらにその次の週は二人ともいたけれど、私の乗った電車がホームに滑り込んだ頃、ちょうどおじさんはベンチにやってきたところだった。彼は片腕を三角巾で吊っていた。頬にも大きな絆創膏が貼られている。
 驚いているのは青年も同じようで、けれども彼は拗ねるみたいに視線をそらした。おじさんは困ったように青年の隣にいつものように腰を下ろし、彼の顔を覗き込むようにしてなにか言った。その言葉に弾かれるように金髪の彼が顔をあげ、おじさんのネクタイを掴んだかと思うと、引き寄せた顔に鼻先を寄せた。
 キスだ、と驚いていると向かい側のホームに電車が滑り込み、私の乗る電車も動き出して、二人の姿は見えなくなった。
 それから木曜日の同じ時間帯に、彼らはもう現れなくなった。ホームのベンチは空っぽになった。たまに誰かがいても、見たことのない誰かが、疲れたように座っているだけ。
 けれどもずいぶん経ったある日、カフェのソファ席で二人を見かけた。二人を見かけた路線に乗り換える駅にある、彼らの手元にあったカップの店だ。
 その日の私は徹夜明けだった。だからそれはどこか現実味のない光景にも思えた。
 コーヒーの香りに満ちた店の奥、朝陽の差し込む窓辺の席で、まばゆい金髪の青年の顔がおそろしく整っていることを私はそこではじめて知った。けれども何より目を引いたのは、きらりと輝く左手薬指の指輪だった。
 最後に見たキスシーンを思い出していれば、そこへ軽食とマグカップを載せたトレイを持っておじさんがやってきた。変わらずお洒落なおじさんはネクタイじゃなくスカーフで首元を飾っていた。遠目の印象よりも顔立ちは若かった。そしておじさんが手袋を外すと、その左手薬指でも朝陽を受けて指輪が輝くのがみえた。
 その左手に青年は腕を伸ばして、嬉しそうに相手の金の輪を指でなぞる。
 くすぐったそうに「やめてください」とたしなめる声が小さく聞こえた。それから「いいだろう、これぐらい」と掠れそうな声が弾むのも。
 はじめて聞いた二人の声に、他人を不躾にみている自覚が今さらこみ上げてきて、あわてて視線をそらした。だから二人を見かけたのはそれが最後だ。

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第三者から見たシャリアのSSというゆるいシリーズを細々と投稿してるんですが(pixivにはまだ入れてないがここには全部ある)、そのうちまとめられたらいいかなと思っていて。
そのなかでも、もしかしたらこれは別視点がいつか発生するかも。しないかも。どうかなというかんじです。