青年が複数の店で新聞を買い分けたのは、目立つことを避けたからだった。幸いにも駅から自宅までの間の店で、主な新聞はすべて揃った。
一年戦争の終盤で見出されたニュータイプは青年と彼の二人きりだったが、今や軍の外にも知られるようになっている。そして、そのニュータイプという新たな区分に身を置いた彼のことを、戦勝国となったジオンは体良く奉りあげるつもりらしかった。同じ才能を持った人材の登用を大々的に打ち出し、士官学校では選抜のテストやスカウトを始め、専門の学校も立ち上げた。
ネット上の書き込みや飲み屋での零れ話、あらゆるところからまことしやかに彼の名前は広まった。二つ名を得ていたのも都合がよかったに違いない――それに赤い彗星のマヴという肩書きも、彼をさらに飾り立てていた。このマヴという定義が広がり始めたのがほとんど同時期だったのもプロパガンダらしく思わせたものだった。
ただでさえ木星帰りは名をあげるものだが、戦争終結から一年も経つ頃には、彼を示す言葉はたくさんあった。そして調べるまでもなく、彼はとうとう新聞にも載った。
見知った男の見慣れぬ姿が載った新聞たちを青年は自宅の机に広げた。
紙面の扱いは各社で違うが、どれも一面とはいかず、拾い読みならそれこそコーヒーのドリップが終わるまでにすべて読み終わることができる程度の扱いではあった。そして並べてみれば同一のリーク元があることは明らかで、写真も画一だった。つまらなく思いながら新聞紙を畳む弾みに、青年は指を切った。赤い線を舐めながら、青年は男の意図を考える。きっとすぐにまた、彼は情報を流すのだろうと思った。
案の定、その週のうちにはジオン軍の登用サイトにも、彼のインタビュー記事が載った。しかしこちらも有能な人材を歓迎しているという旨以上のことはなく、本当に彼が喋ったのかさえわからないようなコメントだったが、こちらにはまるで事業家の宣材写真のような写真が添えられていた。見覚えのない新しい士官服に、すっきりと整えられた頭。常日頃隠れていた左の目元は少しも隠されておらず、やわらかなウェーブの残る前髪は眉下に落ちないようにセットされてさえいる。顎先に手を添え、和やかな場だったとでも言うような柔らかな微笑み。それは自分だけに許された表情だったはずだ。
生真面目で、あまり表情を崩すことのなかった頃の彼の言葉を思い出し、思わず「嘘つきめ」と舌打ちした。なにせうまく立ち回れなかった頃の彼しか知らないのだ。
もどかしさをごまかすように、おもむろに指に残る傷をなぞる。新聞紙に切られたそれはすっかり塞がり、薄い線にすぎない。もうじきどこを切ったのだかも思い出せなくなるだろう。取るに足らない小さな傷だ。それでも触れずにはいられなかった。それこそ新聞の写真に指を添えたときのように。
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