しゅう as 猫田しゅうぞう
2025-11-17 05:22:08
1472文字
Public GQX
 

レッドベルベットケーキ

GQX シャアシャリ 再々会後
キャスバルお誕生日おめでとう

ハッピーバースデー、と聞き慣れた声が柔らかく歌う。
明かりを消した室内に浮かび上がるのは、静かに泡立つシャンパンと、白と赤で華やかな見た目の小さなホールケーキだ。手前には誕生日を祝うメッセージが書かれ、奥には数字の形をした蝋燭が二つ灯されていた。
繊細なカッティングが施された硝子のキャンドルホルダー越しの蝋燭が、部屋の中を柔らかく照らしている。これまで見たことがないもので、おそらくはシャリアがケーキと合わせて調達してきたのだろう。
生真面目な男が、この繊細な灯りを選び、ケーキにはなめらかな筆記体のメッセージを指定し、年齢を示すのにポップな数字を選んだのだ。それを思うとどうにもこそばゆさがあった。
薄暗い部屋の中でも「どうぞ吹き消して」と机の向こうで促す男の表情ぐらいはわかるものだ。はにかむシャリアにつられて、キャスバルも唇の端が緩む自覚があった。
少しだけ机に乗り出し、一息で蝋燭の火を吹き消す。そのままじっとシャリアの顔を見つめて、改めて頼んだ。
「もう一度言ってくれるか」
涼しげな瞳が細められ、彼はもちろんと微笑んだ。
「お誕生日おめでとうございます」
「うん」
祝えて嬉しい、と彼の視線が言葉の代わりに伝えてくれるようで思わず頷く。
「ありがとう、シャリア」
それで礼を言えば自分こそ頬が緩むのをこらえられなかった。
彼に祝ってもらうのは、はじめてのことだ。
出会った時には既に日が過ぎていたし、それから五年は身を潜めていて、再会してからも祝うことなど思い浮かびもしなかった。それこそ冷や水を浴びせられ、放り出されて恨みもしたほどだ。互いに襟のない服を着てテーブルを囲めるようになったことも、それが離れていたのと同じだけの年月で済んだことも、奇跡に思える。
ましてやこのように祝ってもらえるなどとは。

しかしシャリアにはホールケーキを切り分ける発想がないらしい。机には取り皿はおろか切り分ける道具の一つもない。
仕方なしにキャスバルは一本きりのフォークを躊躇なくケーキに突き刺した。削ったスポンジ生地で飾られた角から、白いクリームと赤い生地のストライプを掬い取る。
「シャリア」
ケーキの上で、掬ったケーキを差し出す。崩れたスポンジがぼろぼろとこぼれ落ちそうなので片手を下に添えながら、彼に身を乗り出せと要求した。
シャリアは瞬いた。
「遠慮なく召し上がってください。それとも毒味が必要でしたか?」
「何を言う。ホールケーキは分け合うものだ。それに私とて、もう胸やけぐらいする――君こそ私の差し出すものなど食べられないと?」
言い返す間にもケーキの欠片は下に添えた手のひらに落ちた。
「祝ってくれるというのなら、私のささやかな願いの一つや二つ、叶えてくれてもいいだろう」
瞼を半分下ろした眼差しによる無言の抗議を返しはしたものの、結局シャリアはため息をつきながら立ち上がり、キャスバルの差し出すフォークに噛みついてくれた。
案外に大きく口を開いて一口で収めたものの、さすがに食べづらかったのだろう。シャリアの口の端を含みきれなかったクリームが汚す。
キャスバルは腰を浮かして身を乗り出した。スポンジ生地を受け止めたままの手のひらを柔らかく握り、その指先でクリームを拭ってやる。そのまま指を舐め取って「うまいな」と端的な感想を述べ、続けて手のひらに残る生地を口に放り込んだ。
それからぽかんとして座ることを忘れたシャリアに唇だけで笑いかけると、座り直してもう一度ケーキにフォークを差し込み、ようやく一口丸ごとを頬張った。