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しゅう as 猫田しゅうぞう
2025-07-27 08:30:44
6249文字
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アナオビ
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不滅
ベイダー卿が様々な時代の自分とオビ=ワンの話をする。いろんな時代のアナキンたちが喋るところ見たいな…という欲望のために書かれた。
会話はずいぶん盛り上がっていた。私は浮上した意識が定まるより早く、彼らの声を認識していたように思う。
「頭が堅いんだもんな」と幼い声がそれこそ呆れたように言う。
「なんでもお説教になる」と変声期の少年がうんざりして言う。
「ドロイドを物扱いするのもやめないし」と青年はため息混じりに言い、そこへ同じ声が不満げに「彼らのほうが思いやりがあった」と言葉を重ねた。
それを「違いない!」と穏やかな声が笑う。懐かしむように「ああ、そうだった。無神経なところがあったな」とその声は柔らかく言い足しもする。
彼らは口々にそんなことを言っていた。どれもがどこか、弾むような声だった。賑やかで、親しげで、今の私にはまるで縁遠いそれ。
かつては、そうした輪の中にいたこともあった、はずだ。確証はないが懐かしさのようなものを感じながら、私は顔をあげた。無自覚なその動作を自分の行動と認識すると同時に、彼らの言葉が途切れ、視線がこちらへ集まるのがわかる。
誰かが「来たんだね」と言ったが、誰の声かは判別できなかった。だから私は、ただ周りを見回した。
そこはジェダイの最高評議会室に似ていた。呼び出されるたびに緊張と怒りを覚えた部屋だ。あれを小さくしたような部屋だった。円を描くように置かれた椅子は六脚しかなく、窓もなければ床に装飾の一つもなかったが
――
しかし似ている、と感じさせるところがある。
そして、その並んだ揃いの椅子に、自分を含めた様々な年代の五人が各々座っているのだった。
タトゥイーンから離れて間もないだろう少年に、まだ細さのあるジェダイ見習い、それから独り立ちしているだろう二人はそっくり同じ黒い装束に身を包んでいるが、いかにも険悪な様子で、等間隔に置かれた椅子の上でさえ距離を取ろうとしている。そしてさらに私の隣では、ジェダイ然とした年嵩の男が思慮深そうに微笑んでいる。
そのすべてが自分自身だった。かつて鏡の中に見た姿だけでなく、年齢を重ねた見慣れない男も含めて。
五人の中でジェダイ装束姿ではないのは、砂色の髪の少年だけだった。ジェダイの伝統的なタバードにチュニック、腰帯にユーティリティベルト、余裕のある長いパンツに膝丈のブーツというお決まりの格好が何人も揃っているのは、随分懐かしい光景だった。
それこそ脳裏には、聖堂の通路に横たわるヤングリングたちの姿がちらつく。手応えも感情も何一つ思い出せないが
――
多くのジェダイが集まった姿を見たのは、あれが最後だったはずだ。
そうしてかつて私が切り捨てた子供たちと歳の近い少年の姿を見たところで、いまさら響くものはなかった。ただ、このように第三者としてその姿を見れば、出会ったばかりのパドメが姉や母のように接してくれた理由がわかるとだけ思った。なにしろあちこちが丸く滑らかで小さく華奢で、いかにも未完成な子供だ。
その隣で浅く椅子に腰掛けているのは、不機嫌な顔つきのジェダイ見習いだ。師に追いついた背に、周囲より少しばかり得意なことが目立ち始めたその頃だろう。背丈に筋力が追いついていない薄い肉体に、首筋へ垂れ落ちる細い三つ編みがよく似合っている。パダワンの伝統的な髪型をしているのは彼だけだ。生意気さを具象化したような面差しで、彼は私の視線一つにも噛み付くような鋭い眼差しで応じる。その仕草を直視するのに耐えかねて、私はヘルメットの中で咄嗟に瞼を下ろした。久しく味わうことのない気恥ずかしさだ。自分と切り離しきれない存在だからだろう。愚かさよりも未熟さへの居た堪れなさがあった。
彼の隣には、奇妙なぐらいに姿形がそっくりの二人がいる。ローブのフードを目深くかぶった男と、そうではない男だ。黒づくめの彼らは、まるで双子のようにも見えた。しかし姿形以外はまったく違っていた。フードをかぶった方は、義手に手袋もせず、煤で汚れたさまを惜しげも無く晒している。それに見るからに横柄な態度で椅子へ腰掛けていた。一方で、もう片方はずいぶん真面目な様子で、どこか余裕を感じるような微笑みがあり、満ち足りたような顔をしている。
二人の口元に浮かぶ表情はコインの裏表のように逆さまだった。それに視線がぶつかるたびに火花さえ散って見えるような気がした。
それから私の左隣には、脚を組み、肘置きに肘を置いた男が一人。最も落ち着いた様子で、穏やかな声は彼のものだったのだろうとわかる。実際には四肢を失った身の上である以上はありえないことだが、彼は私より年嵩かもしれなかった。暗いインナーチュニックにベージュのチュニックを重ね、明るい茶色のブーツ。しかし何よりもくつろいでいると示すように足を組んだその姿勢は、かつてのオビ=ワンを思い出させた。そして彼はずいぶんと穏やかな顔で、何やら私に目配せをしてきた。
意図がわからず、「なんだ」と私は思わず口を開く。
その瞬間、意識の外にあった音が認識できるようになった
――
呼吸するだけで生じる、自分の歪な呼吸音を。それからヘルメットを介して低く高圧的に届く合成音声を。ああ、これが私だ。そうだった。生身の多くを失い、装甲服で生命維持をする歪なシス卿。
しかし私の内心の驚きなど、誰も気づきはしない。
「今ね、オビ=ワンの話をしてたんだよ」と少年はなんでもないように言う。
確かに盛り上がっていたようだから「悪口か」と端的に返した私に、彼は肩をすくめる。
「まあ、だいたいそうかも」
すると堰を切ったように周囲の彼らも口を開いた。
「だって、口うるさいって思わなかったか?」
「何かといえば『アナキン、規則を守れ』だもんな」
「自分もすぐセーバー落とすくせに『おまえの命だぞ!』だし」
取り上げられる耳馴染みのある言葉たちは彼の声を思い出させた。それに彼らの不満も、自分の持ち物として手元に戻ってくるのがわかった。
「成長しろ、って言うけど、自分は? 助けるのは僕の役目じゃないか」
「そうそう、すぐ子供扱いするし」
「まあ、それはそうだと今ならわかるが
――
」
思わず年嵩の男が口を挟むが、彼だって覚えがあるのだろう。まるで無意味な宥める言葉にパダワンが噛み付く。
「今って? 僕には今、そうなんだけど」
その隣で、少年が椅子から身を乗り出して尋ねる。
「ねえ、彼って僕を連れて酒場に入る気ないよね? まだ早いって置いていかれるんだけど」
するとフードの下から、青年が面白がるように笑った。「ああ、それならすぐにやめるよ」
「すぐっていつ?」
「背丈が追いつくぐらいかな」と青年はどこか意地悪く笑い、まだ先が長い!と少年が悲鳴を上げる。それを皆どこか微笑ましく思うのだろう、小さく笑い声がこぼれる。頭を抱えているのは当人だけだ。
「ひどい! それまでずっと子供扱いなの?」
「いや、解禁されても子供扱いだよ」
「ああ、すぐ話を聞けって言うのも、別に変わらない」
「あれって父親のつもりで言ってるのか? 保護者として?」
「父親のつもりはないって本人は嫌がったけど」
パダワンの疑問に青年が寂しげに首を横に振った。しかしフードをかぶったほうはどこか小馬鹿にしたように口添えた。
「父親というならパルパティーン議長のほうがそう接してくれてる」
「彼は
――
いや、否定はできないか。いや待て、議長だって? その頃もまだ?」
パダワンの青年からすれば、騎士になった自分は一回りは年上に見えるのだろう。その任期の長さに驚く彼に、もう一人の自分をフォローするように青年は頷く。
「共和国が望んで続投してるんだ」
「待ってよ、彼が父親? おじいちゃんじゃない?」
目を丸くする少年に、私と青年たちは言葉を失う。
「おじいちゃん
――
」
「まあ、この年頃からすればそう思うほうが自然だろう。まだ親しいとも言えなかった」
そうして話はオビ=ワンのお小言から、話は変化して彼が父親ぶるところの問題点に変わっていく。
とうとう、私は会話に入れる気がしなかった。
パルパティーンは父のようなもの、という表現は今となっては懐かしさを覚える。たしかに私を見守り、時には助言を与えて導いてくれた。オビ=ワンよりも人間味のある、甘やかしを与えてくれたのも事実だ。だがそれは見た目より遥かに歳を重ねたシス卿の打算と欺瞞に満ちた毒に過ぎなかったものだ。
それに比べれば、かつて肩を並べた頃のオビ=ワンはずいぶん若く、青くて、不器用だったとさえ言えるだろう。当時はわからなかったが
――
今となってはそのようにも思えた。
人との交渉に長けた男にこんな評価は不釣り合いではあるが、少なくとも弟子との交流においては随分と不器用だった。彼のジェダイであろうとする努めは、たびたび彼に情緒を無視させていた。
だが、ここでも少年が「だいたい、オビ=ワンだってお父さんではないでしょ。マスターだもん」と冷静に指摘した。
すると「それはまだおまえに思い出がないからだろ」と、年下の子供を見下すようにパダワンが言った。いい言い方とは言えない。当然、それを誰かが指摘するよりはやく、少年が唇を尖らせる。
「じゃあ、どんな思い出ができるの?」
その言葉に皆が顔を見合わせた。
それまでにはなかった緊張感のようなものが、そこには漂った。それは「そんなことか」と言われるのを恐れた探り合いだ。お互いに自分とその過去か未来だという認識はあるのだ。
探るように、パダワンと青年はいくつかの惑星の名前や町の名前を口にした。少年に「全然わからない」と苦情を入れられるまで、互いに自分の思い出に負けたくないらしい三人は牽制しあった。
共有される思い出は、どれもささやかなものだった。
成長痛を和らげようと、得意ではないのに癒やしのフォースに働きかけて膝を撫でてくれたこと。
肩を並べる一人前の騎士として、彼が安心したように微笑んだこと。
軽口に驚く自分に「冗談ぐらい返してくれ」と彼が気弱に付け加えたこと。
助けた回数を指折り数える元弟子に「誰に似たのだか」とまんざらでもない表情を見せるようになったこと。
お前なら聖堂のガラス窓にさえ描かれるだろうと軽口を叩いてくれたこと。
どれもが、覚えているのはアナキンだけに違いないような、本当に些細なことばかりだった。
私はその一つだって自分では思い出せず、聞いたところで他人事のように聞いた。そうして語られる彼の思い出は懐かしかった
――
それこそ「そういう人だった」と、ようやく納得するほどには。
ただ、父親と言えるかはどれもあやしい。ただ、彼への好意が自分の中に詰め込まれていくようには感じられた。それこそ冷えた胸を温めるようなやわらかい温もりが、思い出の全てに詰まっている。
それで私と同じように思ったのだろう少年が「僕って、そんなに彼を好きになるの?」と言うものだから、青年は頷いてから言い添えた。
「そうだ。だから、パドメのことも好きだよ」
その言葉にパダワンは「だから?」と片眉をはねあげた。
「それって繋がる言葉か?」
今の言葉は妙だったと確認し合うように少年と顔を見合わせる。
「変じゃない?」
「変じゃないだろ。だって二人は似てる」と青年は言った。隣でもう一人のほうもそうだ、と言う。「二人は気が合ってた」
そして年嵩の男まで「彼らは政治向きで理想主義だから」と否定しなかった。
そうだった、だろうか? 私には、やはりわからない。しかし、そのように言い重ねられればそうだったとようにも思える。確かに二人の仲はよかったのだ。それこそパドメは僕より彼を信用しているようなところも、あったようには思えた。
なにしろ二人は年上で、アナキンを時折子供扱いするところがあった。手を引くものと思われているのを感じて、むきになって手を引き返してやったこともあった。それこそどちらにも。
彼らのことを考えると、確かに私が二人に求めたものは似通ったところがあった。否定はできない。
「だが
――
彼女は、彼女なら、私を置き去りにはしない」
それこそ戻ってきてといえば、彼女なら振り向いてくれる。それを言うとみんなの視線が集まる。
「彼女、そう言った?」と尋ねるパダワンは、自分が彼女を妻にすることを考えたことなどなかったはずだ。
まだ再会を夢見ていたころだ。幼心に残る淡い恋心は、ただ憧れというほうが適切で、まだ現実味を帯びではいなかった。だから緊張まじりのその声に、青年は「聞かなくてもわかってた」と傲慢に答える。それに彼は「オビ=ワンにだって」と言い添えもした。
その言葉に、私も久しく開けていない記憶の引き出しを開ける。
確かにパドメには、言った。
それこそ閨事でも、刹那の別れ際でも、彼女の気を引きたくてたまらなくて、何度も言った。それは一つ思い出せばすぐに溢れ出すほど繰り返したお願いだった。彼女はたびたびその要求に応えては「でも行かなくちゃ」と私を送り出したものだった。
オビ=ワンにはどうだったか。思い出せない私をフォローするように、年嵩の男が言う。
「いいや、彼も昔は足を止めてくれた。でも、子供のころだけだ」
オビ=ワンが困ったような、けれど嬉しそうでもある表情で振り返り、戻ってきた姿が思い浮かぶ。
「懐かしい」と青年が言う。
しかしその隣でもう一人は不服そうに言った。
「でも少しも取り合わなくなった。だから言ったところで意味がない」
だから言えなかった、とフードの下から冷ややかな眼差しが私を見つめた。忘れたのかと問いかけるのは、燃えるように黄色く光るシス卿の瞳だ。
彼には、今の私には欠けた鮮烈さがあった。
記憶が、星のようにまたたく。
喉から悲鳴があがっている自覚はあったが、意思によるものではなかった。燃え上がる肉体は痛みを通り越して身体感覚などなかったからだ。ただ、感情だけが義手に伝わり、デュラスチールの指はもどかしく砂を掻いた。
去っていく彼の背を見つめる記憶は、きっとこれが最後だろう。その感傷のためか、何度もオビ=ワンの背中を見送ったことが頭に浮かびもした。行かないでと言えたらよかった。助けてほしかった。
しかし振り返った彼こそが、私の最後の甘えを砕いた。
許せずに吠えた私を、オビ=ワンはそれ以上はもう二度と振り向かず、足を止めることはなかった。そうして彼は感傷を手放し、ジェダイの慈悲によって、私を置き去りにしたのだ。
その浮かんだ記憶を言葉にできないまま、私はただ呼吸音を響かせた。それでも彼らが言葉を辛抱強く待ってくれるものだと思って、慌てることもなかった。
しかし気づけば椅子はすべてが空になっており、部屋の中にはもう誰一人残っていなかった。
フォースが私の感情に呼応するのがわかる。久しぶりに込み上げるそれが神経をちくちく苛むものだから、咆哮のように空の椅子たちが軋み
――
そこでようやく、目が醒めるのだった。
(了)
==
そもそも何この状況は、という話ですが、『破壊魔定光』という漫画に出てくるチャットルーム(並行世界の定光が精神だけ一堂に会することができる精神空間)みたいなイメージでした。
年嵩の男はフォースゴーストのアナキンとして書いたんですが、概念として(?)考えると、ヘイデンとセバスチャンの間をとった姿になるもんじゃないかな
…
とちょっと思ったのでそういうイメージで年嵩と書きました。
おそまつさまでした。
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