クリスマスハムを切り分けるソーの姿はいつになく厳かで、慎重だった。隻眼になったおかげでより慎重なのだろうとわかりはしても、ハムの厚みの違いなどとても気にしそうにない男が、そのように実に真剣な顔つきで、ナイフを入れる厚みに気を配っているのは些か面白くもある。
グロッグをちびちびと飲んでいたロキは、二人きりのささやかなテーブルの向かい側で慎重に肉を切り分けはじめた兄を頬杖をついたまま見つめた。ソーのほうはいつも通りに鎧で身を固めており、ジャケットさえ羽織らずにドレスシャツの襟元を緩め、金属の一つも身につけていないロキの姿は並べば不釣り合いなほどラフに見えるのは間違いなかった。しかし姿形を合わせてやるつもりもなかった。どうせ二人きりなのだ。
数枚重ねたハムの上へとベリーのジャムを垂らし、弟へと皿を差し出したソーは、そこでようやく弟が向けている視線に気づいてようやく表情を崩した。
「――お前がそのように見つめてくるのはなかなかいい気分だな」
「ふぅん? どのように?」
ロキはわざとらしく聞き返した。ロキには自分がどのように兄の目玉に映っているのか自覚がないわけではなかった。だが、兄の口から聞くのと自覚しているのとではまるで違っている。それこそジャムが添えられたハムとそうでないハムを比較するようなものだ。
しかしロキの予想に反してソーは薄く笑い、自分のぶんのハムを切り分けるためと言わんばかりに露骨に視線を外した。それからもったいぶるようにナイフを進めながらも「いや、なに――」とわずかに言い淀み、やがてナイフがかちりとハムを乗せたボードに到達すると、じつに面映そうに唇を歪めた。下を向いていた青い瞳が上目遣いに弟を見る。ロキには眼帯の金の飾りが流れ星のように光ったようにも思えた。
「父上を見つめるときのような目だった」
「何」ロキは思わず顔をしかめた。「そんな目をした覚えはない」
「いいや、していた。おれが家長だと認めたのだとわかる目だ」
「何?認めてなどいない。そんなつもりはない」
「ほう。ではどのようなつもりで見ていたと?」
「――王がわざわざ奉仕しているのを見るのがいい気分だと思っただけだ」
ふうん、と信じた様子もなくソーは椅子を引き、ようやく席に着いた。そしてニヤつく自分に苦虫を噛んだような顔を向ける弟に、湯気の立つ盃を傾けて乾杯を誘う。
「まあ、何でもいいさ。おまえがこうして、ここにいるのなら」
含みのあるその言葉に、ロキは渋い顔のまま杯を合わせた。
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昔書こうとした「家長なのでハムを切り分ける兄上がみたい」を今書くとするとこうかな…とぼんやり考えて書いた
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